愛媛を発って一日が過ぎた。
真帝国での出来事はまだ心にのしかかり、キャラバンの雰囲気を少し暗くしている。
そんな中、道中あった休憩所に辿り着いたとき、織乃の携帯に一本の電話が入った。
「あ」
喉の奥から声が漏れる。
電話の相手は、成神だった。
「…………もしもし」
数瞬悩んだ織乃は、キャラバンから降りて、仲間たちから少し離れた場所まで移動する。
「あ、織乃さん?」電話越しに聞こえてきた成神の声は、珍しく勢いがなかった。
『すいません織乃さん。…実は、一昨日の電話のことで』
「佐久間さんたちのこと?」
言えば、成神は呻くような声で「はい」と答える。
ああ、やっぱり─織乃は、心のどこかでそう思った。
「……健也くん、あのね。─私たち、会ったの。佐久間さんと、源田さんに」
『えっ!?』
「い、いつどこで!?」途端、成神が声を荒げて尋ねる。
織乃は自分の声が震えないように、洗いざらい─愛媛で起きたことを、話した。
『─…影山が』
一気に話し終えると、成神が脱力したように呟く。
少し遠くなった彼の声が、悔しげに「クソッ」と毒づいたのが聞こえた。
「ごめん、止められなくて」
『織乃さんのせいじゃありません!!』
成神は携帯を力一杯握りしめたのか、腹の底から捻り出したような声で言う。
ずび、と続けざまに小さく聞こえた鼻をすする音に、思わず目をしばたいていると。
『おい、代われ』
『んぁ、ちょっと先輩何するんスか!先輩ったら─』
何か争うような声の後、成神が盛大に鼻をかむ音を最後に電話越しの相手は変わったようだった。
『─よう、マネージャー』
「え…咲山さん?」
電話を代わったのは、意外なことに咲山だった。
いつもなら、辺見辺りが代わってくるのに─織乃の心情を悟ったのか、咲山はフーッと大きく息を吐いて言う。
『辺見は今、成神の相手してんだ。実質、今はあいつがキャプテン代行だからな』
「キャプテン代行…」
「ヒドいもんだぜ?」電話の向こうで、咲山はおどけたように言った。
『源田みてーな無駄に深い懐もないし、佐久間の小姑みてーな小ウルサい指示も出来ねーんだからな。禿に大役は荷が重いってこった』
『てめぇ咲山、何吹き込んでやがる!』
遠くから辺見の怒声が聞こえる。続けざまに『バシッ』と痛そうな音がした辺り、咲山に叩かれたのかもしれない。
頭の中にポンと浮かんできたあの頃の光景に、織乃は不覚にも小さく笑ってしまう。
『ま、何にせよだ。あいつらには近い内に、小言と一緒に見舞いに行ってやんなきゃならねえだろうな』
「…はい」
織乃の声に、ほんの少し穏やかすぎが戻ったのがわかったのだろうか。
「とりあえず」咲山は尊大に鼻を鳴らし、話を変えた。
『お前も鬼道もクソ真面目だから、死ぬほど凹んでるんだろうが…あいつらの説教は俺らに任せて、早く宇宙人の奴ら片付けてくれや』
「そう…そう、ですね。はい、頑張ります」
「じゃーな」ほとんど一方的に、通話は断ち切られた。
咲山らしい慰め方に、織乃はディスプレイを見つめて小さな苦笑を浮かべる。
「…うん。頑張ろ」
軽く自分の頬をパチンと叩き、織乃は携帯をしまった。