初詣 ◇◆ 2017/01/02 05:45

「縁下?」
 呼びかけられてから己が仕出かしたことに気づく。かっと熱の集まった顔を覆ってしまいたいが、そのためにはこの手を離さなければならない。それは少し困る。
 こうしている間も灰崎の視線は痛いし、一緒に来ていた田中たちとの距離は開いていく。白状する以外の選択肢はなかった。
「…灰崎が」
「私が?」
「……灰崎が、消えそうな気がした」
「だって西谷と田中がうるさいんだもの」
 どうして分かったのかと問う灰崎に、慌ててそうではないという否定の言葉を飲み込む。勘違いをしてくれているのだから、わざわざ言うことでもない。
 人で溢れた境内。その喧噪と吐息の白さに、目立つはずの灰色の髪は容易く溶け込んでしまう。そこに在るはずなのに見失う。不安になる。いつか。いつか、見限られて離れて行ってしまうのではないかと。
 新年早々、不安を抱く自分の女々しさが嫌になる。ため息さえ、白く目視できる寒さが身に沁みる。
「分かった。縁下も同じこと考えてたのね?」
「ああ…うん、もうそれでいい」
「そう。ならこのまま2人で行こう。腕、離してくれる?」
 言われるままに腕から手を離す。宮城に来て2年目なのに、灰崎は相変わらず手袋をはめる習慣が身に付かない。ダウンの袖口で、ぎゅっと拳になっている手を開くには、未だ少し覚悟が足りない。手袋を外し、ポケットに押し込めて同じように拳をつくる。
 ひとまず今年は、これでいい。

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