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門番のクリスマス]
私は、この紅魔館の門を守る番人、紅美鈴(ほんめいりん)だ。
決して、『くれないみすず』や『ほんみりん』等ではないと言うことは散々言ってきたのに、誰も名前で呼んでくれない。
まあ、そんな事はどうでもいい。
今日はクリスマスイブだ。そう、赤い服を着た白い髭の中年親父が、子供達の家に不法侵入する日だ。
…間違ってはいないだろう。
門番として、これは見過ごすわけにはいかない。
私の能力を最大限に活かしてでも、奴は私が仕留める。
…とまあ、つまらないことはさておき。
私はいつも通り、門の前に立っている。
お嬢様が紅魔館でクリスマスパーティーを開催すると言い出したからだ。
吸血鬼が聖夜を祝うと言うことに対してツッコミは入れなかった。
だから私は門の前に立っている。
まあ、それだけ信頼されていると思えば、それほど苦でもない。
午前中は誰も訪れなかった。
まあ、パーティーは夜からだし、当然と言えば当然か。
昼食を済ませ、私は再び門の前に立った。
ふと、空を見上げると、鼠色の雲が一面に広がっていた。気温も先程より下がってきたような気がする。
これは間違いなく、雪が降るだろう。
いくら私でも、雪の中、門番の仕事を勤めるのは厳しい。
せめてマフラーでもあれば…そんなことを考えていると、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「美鈴、サボらずに仕事してる?」
「も、もちろんです」
危なかった。
もし寝ていたら、額にナイフが刺さっていただろう。
咲夜さんは、私がサボっていると必ず私の額にナイフを刺す。
あれは痛いから勘弁してほしい。
「そう、普段なら寝てるのに…まあ、ちゃんと仕事をしているのならいいわ。…あ、そうだ。貴女に渡したいものがあの」
私に渡したいもの?もしかして、マフラー?
そんな淡い期待を胸に、咲夜さんの方を向く。
「な、なんでしょうか?」
緊張のあまり、若干声が裏返ってしまった。
「これよ」
渡されたのは、少し大きい紙袋だった。
マフラーではない?…いや、紅魔館の人達にバレるのが恥ずかしいから、わざわざ紙袋に入れてきたのだろう。
可愛いところもあるじゃないか。なんて事を考えながら、紙袋を開く。
中には…幻想郷の住人の名前が書いてある、数枚の紙が入っていた。
他には何もない。
「あの…これは?」
「今日、紅魔館に訪れるお客様のリストよ。ここに書いていない人は、紅魔館に入れない事。いいわね?」
「あ…は、はい…」
マフラーではなかった。
変に期待してしまった自分が恥ずかしい。
「今日はクリスマスなんだから、しっかり門番しなさい?」
「は、はい、わかってますよ」
「もしサボってたら…わかってるわね?」
「も、もちろんです」
さすがに、毎日額にナイフを刺されるのは勘弁だ。
まあ、刺されないようにサボらなければいいのだろうが、これだけは断言できる。無理であると。
さて、咲夜さんを見送った私は、再び門の前に立つ。
パーティーまで、まだ時間がある。
正直、こういう時間が一番暇なのだ。
こうも暇だと眠くもなる。
私は腕を組み、いつもの姿勢で眠りにつこうとした。
「ちょっと、起きなさい」
誰かの声が聞こえた。私はゆっくりと目を開ける。
私の安眠を妨害したのは、意外な人物だった。
「仕事サボってたって、咲夜に言うわよ?」
目の前にいたのは、パチュリー様だった。
普段は図書館に引き籠っているパチュリー様が、紅魔館の外、門のところまで出てくるのは珍しいことだった。
いや、ただ単に、私が寝ていて気付かなかっただけかも知れないが。
とにかく、咲夜さんに報告されるのだけは防がなければ。
「そ、それだけは勘弁してください」
「…まあいいわ。咲夜には言わないでおいてあげる」
ホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、貴女に渡したいものがあるの」
これまた珍しい。
パチュリー様から何か貰うことなんて、殆ど無かった。
クリスマスの影響なのだろうか。
しかし、本人には悪いのだが、パチュリー様からの物となると、嫌な予感しかしない。
「…なに?その顔は。何か不満?」
「と、とんでもない。ただ、パチュリー様から何か貰うことなんて、殆ど無かったので、正直驚いているんです」
「そう…」
なんとか誤魔化せたか。
「…はい、これ」
先程、咲夜さんから預かった紙袋と、同じサイズの紙袋を手渡された。
パチュリー様に確認を得てから、中身を取り出してみる。
中には、何かの契約書の様なものが入っていた。
「あの…これは…?」
恐る恐る聞いてみる。
「…新しい魔法の実験台になってもらうための契約書…」
「実験台…ですか…」
嫌な予感が的中した。
「…安心して、死ぬことはないから。さあ、サインして頂戴」
「あの…今じゃなきゃ駄目ですか?門番の仕事もありますし…」
無難に断ってみた。
「…今じゃなきゃ駄目…この後のパーティーで、色々と忙しくなるから」
「はぁ…わかりました」
私は渋々、契約書にサインをした。
実験台にはなりたくないが…まあ、しょうがない。
「…はい、書きましたよ」
「確認したわ。じゃあ明日、図書館まで来て」
「わかりました」
命に関わらないとは言っていたが、どういう実験なのだろうか?結局聞かなかったな。
パチュリー様を見送り、門番の仕事を再開してから半刻程経った頃、またしても珍しい人が訪れた。
「あ、あの…ちょっと、よろしいでしょうか?」
紅魔館の司書、小悪魔さんだった。
「小悪魔さんじゃないですか。珍しいですね、ここに来るなんて」
「あの…パチュリー様、ここに来ませんでしたか?」
「ええ、半刻程前にここに来ましたよ。まだ、戻ってないんですか?」
「いえ、一度戻ってきたんですが、装置に必要な材料を取りに行くと言って出ていったきり…」
「そうでしたか…。少なくとも、ここには来ていないので、紅魔館の中だと思いますよ?」
「そうですか。ありがとうございます。あ、あの…これ、よかったら…」
小悪魔は、少しモジモジしながら、私に紙袋を差し出した。
若干、頬を赤らめているようにも見える。
…まさか!?
「美鈴さん。私、ずっと前から…貴女のことが…。これ、私の気持ちです。受け取って…いただけますか?」
…いや、それはない。
そんな『めーこぁ』な展開はない。
確かに、咲夜さんのナイフを額に受けた後、私の事を気に掛けてくれたりもしてくれたが、そういう感情があるわけでは…って、何を考えてるんだ、私は…。
とにかく、私は紙袋の中を確認してみた。
…ほらね?やっぱり『めーこぁ』な展開は有り得ないわけだ。
「…栄養ドリンク?」
「はい。この寒さの中、門番の仕事をするのは大変だろうと思いまして。…嫌でしたか?」
「いえいえ、ありがたく貰っておきます」
「よかった。では、私はパチュリー様を探さなければならないので、これで。お仕事、頑張ってください」
小悪魔さんは、私に軽く会釈をし、走り去っていった。
小悪魔さんの屈託の無い笑顔に、私の心は癒された。…ような気がした。
私は、小悪魔さんから貰った栄養ドリンクを一気に飲み干し、頬を軽く叩いて気合いを入れ直した。
これで、仕事をサボって居眠りをすることもないだろう。そう思った。
思ったのだが…流石は私と言うか、なんと言うか…。
ここまでくると、自分でも呆れてくる。
気合いを入れ直して一分も経たぬ内に、瞼(まぶた)が鉛のように重くなった。
さすがにこんな状況では、門番どころではない。
…目を閉じるだけだ。そう、目を閉じるだけ。決して寝るわけではない。
私は腕を組み、瞼を閉じようとした。その時。
「どかーん!」
という声と共に、何かが弾丸のように私の脇腹に激突した。
痛い。これは痛い。流石に眠気も吹き飛んだ。
ついでに意識も飛びそうになった…。
激突した弾丸を、私は目で確認する。
「めーりん♪」
弾丸の正体は妹様だった。「いたた…妹様は今日も元気ですね」
「エヘヘ♪今日はね、めーりんに渡したいものがあるの」
渡したいもの?何だろう。
「今日はクリスマスだから、めーりんの為に頑張って作ったんだよ」
妹様の手作り…まさか、マフラーとか?
「はい、これだよ」
またしても紙袋…。紙袋に入れて物を渡すのが流行ってるのか?
私は紙袋の中身を確認してみた。
形は歪だが、この色、この香り、間違いない。
「クッキーですか」
「うん、頑張ったんだ♪さあ、食べてみて?」
「それでは、いただきます」
私は、紙袋の中から一つ、クッキーを取り出し、一口食べてみた。
サクッとした歯応えと共に、口の中いっぱいに紅茶の香りが広がった。
「どう?」
「はい、とても美味しいです」
「よかった♪めーりんには、いつもお世話になってるからね♪せっかくのクリスマスだし、プレゼントをあげようと思って」
妹様…成長されましたね。私は嬉しいです。
「じゃあ、お仕事頑張ってね♪」
笑顔で手を振る妹様に、私も手を振って応えた。
よし、頑張るぞ。
私は、妹様の手作りクッキーを一つ口の中に頬張り、残りの入った紙袋を小さく丸めてポケットの中に入れた。
そして、門番の仕事を再開した。
したのはいいが、何やら気配を感じる…。
この気配、私はよく知っている。
「お嬢様、姿を現してください」
私は、気配のする方へ向いた。
「あら、よく分かったじゃない」
そこにいたのは、やはりレミリアお嬢様だった。
「どうしたんですか?こんな所まで」
「日が隠れたからね、ちょっと様子を見に来たのよ。これからクリスマスパーティー。紅魔館の顔であるあなたが寝てたら、お仕置きでもしようかと思って」
…危なかった。先刻、妹様に起こされなかったらお仕置き確定だったのか…。
「でも、今日は珍しく起きてたからご褒美をあげるわ」
お嬢様からご褒美…。今まで貰った事がないかもしれない。
「さあ、これよ。受け取りなさい」
お嬢様から渡されたのは、またしても紙袋だった。
紙袋で物を渡すと言うのが本当に流行ってるのか?
あれか?紅魔館の密かなブームなのか?
…とりあえず、お嬢様に確認をとってから、紙袋の中身を確認した。
そこに入っていたのは、私の姿をした小さなぬいぐるみだった。
「これって、私…ですよね?」
「そうよ。外の世界の“すとらっぷ”と言うものを作ってみたの。良くできてるでしょう?」
「はい、本当にありがとうございます!」
感激だ。お嬢様から、こんなに良いものを頂けるなんて。
使い道はわからないが、これは本当に嬉しい。
「じゃあ、私は主催者としての準備があるから、この後もちゃんと、紅魔館の門をまもりなさい」
「は、はい!」
私は、紅魔館に戻るお嬢様に体して、深々と頭を下げた。
これは期待に応えなければ。
門番の仕事を再開してから一刻程過ぎた頃。
「美鈴、ちゃんと仕事してる?」
再び、咲夜さんがやって来た。
「はい、もちろんです!」
「元気ね…何か良いことでもあった?」
「えへへ、まぁ…」
「そう。あ、そうだ。あなたに言い忘れたことがあったの」
「はい、なんでしょう?」
「今日のパーティーに来る予定のお客様には、招待状を渡してあるわ。美鈴はその招待状を持っているかどうかを確認してほしいの。もし、持っていなかったらお帰りいただきなさい」
「わかりました。因みに、その招待状って、見た目はどう言う物なんですか?」「これよ」
咲夜さんはポケットから紙を取り出し、私に見せた。
「へぇ、可愛いデザインですね」
招待状には、トナカイやサンタといった、クリスマスのキャラクター達が描かれていた。中々良くできている。
「これ、妖精メイド達が作ったんですか?」
「いいえ?全部、私の手作りよ?」
「えぇ〜!?」
まさか、咲夜さんがこんなにも可愛らしい招待状を作るなんて…。正直意外だ。
「な、なに?私がこう言う物を作っちゃいけない?」
若干キレ気味に言われた。いや、ツンデレ気味だろうか?私には区別がつかないが…。
「い、いえ…そういう意味じゃ…」
「…まあいいわ」
「……あ、そうだ」
「なに?」
私は、凄く気になっていたことを聞いてみた。
「あの…物を紙袋に入れて、相手に渡すのって…流行ってるんですか?」
「は?」
「いやぁ…咲夜さんからもそうだったんですが、他の方から物を貰った時、全部紙袋だったもので」
「…偶然でしょ」
「いや…流石に紅魔館の全員から同じように貰うと、流行っているのか?とか考えちゃいますよ」
「ふ〜ん…まあ兎に角、私はその様なものが流行っているとは聞いたことがないわ」
「そうですか…」
やっぱり偶然か。あまりスッキリしないが、そう言うことにしておこう。
「あ、そうだったわ。あなたに渡しておくものがあるの」
「はい、なんでしょう?」
「これよ」
咲夜さんが取り出したのは、やっぱり紙袋だった。
もう、深く考えるのは止めよう。
私は、紙袋の中を覗いた。
「あ、あの…これ…」
中に入っていたのは、緑色のマフラーだった。
「どう?良く出来てるでしょ?」
本当に良く出来ていた。
私の帽子と同じ星の模様まで施されていた。
「紅魔館の皆で作ったものよ。クリスマスだからと言って、仕事を休ませるわけにはいかないから、せめてクリスマスプレゼントだけでもと思ってね」
紅魔館の皆から…。
「ち、ちょっと…なに泣いてるのよ」
「…凄く…嬉しくて…」
涙が止まらない。
紅魔館の皆が、私のことをこんなにも思っていてくれてたなんて…。
「ありがとう…ございますなんて…本当に…ありがとうございます…」
「ほらほら、そんなに泣かないの。もうすぐお客様がいらっしゃる時間だから、そんな顔で門番してたら、恥ずかしいわよ?」
「ぐすっ…は、はい」
私は、ゴシゴシと目を擦り、なんとか笑顔を作った。
「さあ、そのマフラーを巻いて、頑張りなさい」
「はいっ!」
今日一番の返事をし、咲夜さんを見送った。
咲夜さんを見送った後、早速私はマフラーを巻いてみた。
「暖かい」
まるで、紅魔館の皆の温もりに包まれているようだった。
「…ん?」
マフラーの端には、小さく“中国”と書かれていた。
「あはは…」
ま、まあ、手編みだし、美鈴の字を編むのは難しいから仕方がない。
苦笑しながらふと、上を見上げた。
「冷たっ!?」
雪だ。今年はホワイトクリスマスか。
大分寒くなってきたが、皆から貰った、このマフラーのお陰で、寒さは凌げそうだ。
ふと、足元を見ると、一枚の紙が落ちていた。
マフラーの入っていた紙袋に、一緒に入っていたのだろうか?
私は、その紙を拾い上げた。
どうやら、寄せ書きの様なものらしい。
私は、そこに書かれていた言葉を読み上げた。
美鈴へ
いつも、紅魔館の門を守ってくれてありがとう。感謝してるわ。これからも、紅魔館の門番として、頑張りなさい。
レミリア・スカーレット
美鈴へ
いつも私と遊んでくれてありがとう
これからも、いっぱい遊ぼうね
フランドール・スカーレット
美鈴さんへ
毎日門番のお仕事、お疲れ様です。たまには、ゆっくり休んでくださいね?
小悪魔
中国へ
上海は燃えているか?
…冗談よ。まあ、これからも程々に頑張りなさい
パチュリー・ノーレッジ
美鈴へ
毎日ご苦労様。これから寒くなるから、このマフラーで頑張りなさい。
追伸 たまには、サボっていないあなたを見たいわ。
十六夜 咲夜
「皆さん…本当に、ありがとうございます」
私は、頬をパンパンと叩き、気合いを入れ直した。
しんしんと雪が降り頻るなか、最初のお客様が訪れた。
涙をグッと堪え、笑顔でこう言った。
「ようこそ、紅魔館のクリスマスパーティーへ!」
終わり