涼花ちゃんストーリーまとめサイト(改)


カウンセリング


地霊殿の一室。
涼花ちゃんは窓から、地底の空を眺めています。
初夏を迎えた幻想郷は、蝉が鳴き、ジリジリと照りつける太陽の日差し。例年通りの、茹だるような蒸し暑さです。
それに比べ、地底は日差しの影響が無く、とても快適な空間となっています。
今日、涼花ちゃんが地霊殿に訪れた理由。それは遊びに来たわけではなく、古明地さとりにカウンセリングを行ってもらうためです。
あの事件が、涼花ちゃんの消失がトラウマになってしまったさとりは、不定期で涼花ちゃんのカウンセリングを行っているのです。
とは言え、本格的なカウンセリングではありません。
涼花ちゃんの心、精神への負荷は、貘が悪夢を食べることによって緩和されています。
それは即ち、過度なストレスに対する免疫が少ないと言うこと。
涼花ちゃんの精神は、涼花ちゃん自身よりも幼い。
故にさとりは、トラウマになるほどではない、些細な精神的ストレスを涼花ちゃんに与えることによって、涼花ちゃんの精神に免疫を作ろうとしているのです。
もう、涼花ちゃんの消失と言うトラウマを、想起したくはないのです。
さとりの努力が功を奏してか、涼花ちゃんの精神は、年齢相応の免疫を持つに至りました。
しかし…。


「お待たせしました。さあ、始めましょう」


さとりの心の蟠り(わだかまり)は、消えることはありませんでした。
それどころか、それは日に日に、さとりの心に重くのし掛かってきます。
いったい、この蟠りは何なのか?私はいったい、何を予感しているのか?涼花ちゃんの軽微なトラウマを想起させながら考えます。
しかし、いくら考えても答えを出すことは出来ません。
そして、考え事をしながらトラウマの想起なんてしていたら…。


「さ、さとり…お姉…ちゃん…」


涼花ちゃんの声に、ハッと我に帰るさとりでしたが、もう手遅れ。
思い出したくない、強いトラウマを想起させられた涼花ちゃんは、その場に泣き崩れてしまいました。
急いで別のことを、楽しいことを考えるよう促すさとりですが、それは容易な事ではありません。
そして、一度想起されたトラウマは、連鎖的に別のトラウマも想起される……はずでした。
涼花ちゃんの表情を見ると、涙は止まり、笑顔が戻っています。
ホッと胸を撫で下ろすさとりでしたが、いったい何が起こったのか。涼花ちゃんに確認してみます。


「分からない…けど、もしかしたら貘のおかげかも」


貘。夢を喰らう霊獣。涼花ちゃんの能力の一部にして、涼花ちゃんの心の安寧を保つ者。
涼花ちゃんは貘が、今のトラウマを悪夢として食べてくれたものだと思ったようです。
涼花ちゃんに確信が無いのは、貘は涼花ちゃんの前にも、滅多に現れる事はありません。
その為、涼花ちゃん自身も、貘の事をよく分かっていないのです。
さとりは、そうかもしれないわね。としか、言う事が出来ませんでした。
そして、今日はここまでにしようと提案し、涼花ちゃんに今日の謝罪をし、地霊殿から見送ります。


「貘…か…」


思えば、涼花ちゃん消失と言う大事件にも関わらず、一度も霊夢、さとりの前に姿を現さなかった貘。
そして、その代わりに現れた、謎の少女。
この二つが、蟠りを解消する答えになる。
そんな、何の根拠もない予感を胸に、さとりは博麗神社へと向かうのでした。


博麗神社へと訪れたさとり。
いつもなら、境内の掃除をしているか、縁側でお茶を飲んでいるはずの霊夢ですが、今日は姿が見えません。
代わりに縁側で、桶に張った水で足を冷やし、麦茶を飲みながら、団扇で顔を扇いでいる霧雨魔理沙が、珍しいものを見るような目で、さとりを見ています。


「…地霊殿の主が、こんな参拝客無しの神社に、いったい何の用だ?」
「そんな参拝客無しの神社に訪れる理由など、ひとつしか無いと思いますが?」


腕を組み、思案する魔理沙。
この暑さに参っているのか、しょうもない事のひとつを言うこともなく、魔理沙は素直に、さとりの問いに応えます。


「霊夢に会いに来たのなら、今はここには居ないぜ。永遠亭に用があるんだとさ」


さとりが何故?と問いましたが、魔理沙は分からないと応えるだけでした。
嘘はついていないみたいです。
さとりは魔理沙に礼を言い、永遠亭へと向かいます。


地底暮らしのさとりにとって、地上の夏はかなり堪えるようで、拭っても拭っても、汗が噴き出してきます。
せめて、通気性の良い服を着てくれば良かったと思うさとりですが、今更引き返すわけにもいきません。
汗で服が体に纏わりつき、不快な気分になります。
帰ったら、シャワーでも浴びてさっぱりしたい。等と考えながら、暑い夏空を飛んでいきます。


天を突くほど、高く高く成長した竹は、夏の日差しを遮り、また、風が奏でる笹の音が耳に心地良い。
そんな竹林の中にある永遠亭を前に、博麗霊夢は立ち往生をしていました。
巫女の勘に駆られ、永遠亭まで来た霊夢でしたが、参拝客無しの神社の財政状況から見て、永遠亭の薬は高価すぎるのです。
それが、あまり人前に出ない薬なら尚更です。
霊夢が、永遠亭の前をウロウロしている所へ、さとりが合流しました。
地霊殿の主=ブルジョワと考えた霊夢は、さとりが口を開くよりも早く、さとりを無理矢理引き連れ、永遠亭へと入っていきました。


患者の来ない、平和な診療室。
アイスキャンディを口にくわえながら、意味もなくカルテを眺めてみたり、軒下に吊した風鈴の音に耳を傾けたり、窓の外に広がる竹林を眺めたりと、八意永琳は夏と言う季節を、自分なりに謳歌していました。
そして、ふぅ。と溜め息を吐き、同時に襲ってくる、どうしようもない退屈感に苛まれていました。


「誰か珍しい人でも来ないかしら?」


背もたれに寄りかかり、食べかけのアイスキャンディをクルクルと回しながら、珍客来亭を願います。
しかしそれは、厄介事を持ち込まない者に限ります。
そう、例えば今、診療室へバタバタと走ってきている者とか、そう言った者以外です。
ここに来るな。ここに来るな。と、心の中で念じていると、診療室の扉が開き、霊夢がさとりを引き連れて入ってきました。
永琳は溜め息を吐きながら、クルリと椅子を回して、霊夢達の方へと向きます。


「騒々しいわね。…神社の巫女に地霊殿の主。珍しい組み合わせが、永遠亭に何の用かしら?」


ここまで、勢いで来てしまった霊夢。口上の一つも考えておらず、挙動不審になってしまっています。
さとりはと言うと、霊夢に襟を掴まれてきた所為か、首をさすりながら咳き込んでしまっています。
取り敢えず、二人が落ち着くまで待つことにした永琳は、手に持ったアイスキャンディを、再び口にくわえます。


アイスキャンディの中程まで食べ終わった永琳は、棒に書かれたハズレの文字を確認し、ふぅ。と、小さな溜め息を吐いてから、二人に声を掛けました。


「落ち着いたみたいね。…で?用件はなに?」


落ち着きを取り戻したさとりが、永琳の問いに応えます。


「胡蝶夢丸と、胡蝶夢丸ナイトメア。この二つを、処方していただけませんか?」


珍しい人物から珍しい注文を受けたと、永琳は内心喜んでいるようです。
しかし、この二つの薬は、永琳が取り扱う薬の中でも、かなり癖のある部類に入るもの。
効能を理解し、用法用量を守って正しく使用しなければならないもの。
そんなものを、そう簡単に処方する事など出来ない。と、二人に説明します。
しかし。


「その二つなら、以前服用した事があるわ」


うっかり口を滑らせる霊夢。
さとりは固まってしまっています。
霊夢が言っているのは恐らく、あの一件での事でしょう。
しかし、あの時胡蝶夢丸、胡蝶夢丸ナイトメアを服用したのは、幻想郷が夢に落ちていた時。
つまり、永琳自身が処方したものではなく、霊夢達が勝手に服用したもの。
更に、霊夢自身が永遠亭で薬を処方してもらう機会がない事から、いったい何時、どこの誰が、霊夢にその薬を処方したのか?永琳からは当然の疑問が投げ掛けられます。
そこで漸く、自分の犯した過ちに気付く霊夢でしたが、すでに手遅れです。
アイスキャンディを食べ終わり、ハズレ棒をゴミ箱に捨てた永琳は、霊夢を問い詰めます。


「貴女は普段、永遠亭に来ないでしょ。来たとしても、二日酔いの薬を貰いに来たくらいだし、私は貴女に、胡蝶夢丸を処方した覚えがないわ。それなのに何故、貴女が胡蝶夢丸を服用した事があるのかしら?」


詰め寄られ、動揺する霊夢に、さとりが助け舟を出します。


「霊夢さんが言っているのは、スペルカードの胡蝶夢丸の事ではないでしょうか?一応、貴女が作った薬とスペルカードですし、攻略した事がある。と言う意味で言ったのでは?」


さとりのナイスフォローに相槌を打つ霊夢。
永琳は納得していませんが、そう言う事にしておいてあげる。と、それ以上の詮索をしませんでした。
霊夢は、心の中でさとりに感謝し、本題に戻そうと提案します。




所変わって、ここは人間の里。
カウンセリングを終えた涼花ちゃんは、特に目的もなく、里を散策していました。
蒸し暑さにも負けず、涼花ちゃんの足取りは軽やかです。
すると、一軒の店の前で足が止まります。


「……………」


涼花ちゃんは悩んでいました。
この店の人と仲良くなりたい。でも、会うのが怖い。
でも、このままで良いのかな?
でも…でも…でも…。
何度、でも。を繰り返したでしょうか?
今は、まだ会えない。今のわたしには、まだ早い。
何度自分に言い聞かせた事でしょうか?
結局、この店の看板娘に会う勇気が出ず、涼花ちゃんはその場を後にしてしまうのでした。
その後ろ姿は、どこか寂しそうです。
そして、その後ろ姿を、どこか寂しそうな眼差しで見送るのは、鈴奈庵の看板娘、本居小鈴です。涼花ちゃんが足を止めたのは、鈴奈庵だったのです。


「涼花ちゃん…どうして?」


数日前。
鈴奈庵に訪れた霊夢に、小鈴はある相談をしていました。
人間でも妖怪でも幽霊でも、誰とでも仲良くなる涼花ちゃんが、私の事を避けているようだと。
耳を疑う発言に霊夢は、しかし冷静に応えます。


「何か、涼花ちゃんが嫌がることでもしたんじゃないの?」


小鈴の性格から、そんな事をするはずもないことは分かっています。
でなければ、単なる思い過ごしではないのかと応える霊夢でしたが、小鈴は納得していない様子です。


「まだ、会ったことも無いのに?」


更に耳を疑う発言。
会ってもいないのに避けられる。
涼花ちゃんが苦手だと思うのなら、小鈴を避けるのも分かりますが…。


「今度、涼花ちゃんに会ったら、それとなく聞いておいてあげるわ」


そう小鈴に告げると、霊夢は帰って行きました。
霊夢さんなら、何とかしてくれるはず。
心強い味方を得た小鈴でしたが、やはり寂しいものがあります。
小鈴は、椅子に腰を掛け、机の上に置いてあった本をパラパラと捲り、そして小さな溜め息を吐きます。
思えば、初めて涼花ちゃんの存在を知ったのは、稗田阿求がきっかけでした。
それ以降、色んな人が、涼花ちゃんの噂をしていきます。
そして皆、小鈴と涼花ちゃんは良い友達になれると言ってくれます。
しかし実際は?
まだ会ったこともなく、涼花ちゃんには避けられてしまう始末。
本当に、友達になれるのでしょうか?
霊夢から連絡の無いまま、数日が経ちました。
いつものように店番をしていると、店の前に涼花ちゃんが居ることに気付きます。
今日こそは声を掛けよう。そう思い、椅子から立ち上がった瞬間、涼花ちゃんはその場から立ち去ってしまいました。
その背中を、寂しそうな眼差しで見送ります。


「涼花ちゃん…どうして?」




笹の葉が風に靡き、サラサラと心地良い音色を奏で、少しだけこの暑さを忘れさせてくれます。
漸く胡蝶夢丸、胡蝶夢丸ナイトメアを処方してもらうことが出来た霊夢とさとりは、そんな竹林の中を歩いています。
霊夢の発言には肝を冷やされましたが、霊夢も反省しているみたいなので、さとりもそこまで追求はしません。
それよりもさとりは、霊夢が何故、永遠亭を訪れていたのかを尋ねました。


「それは…多分、あんたと同じ理由だと思う」


霊夢は、涼花ちゃんに何かが起ころうとしているのではないか?と考えているようです。
涼花ちゃんが小鈴を避けている事。十年後の未来から、涼花(大)がやってきた事。
今が、涼花ちゃんにとって、何らかの節目なのではないか?涼花ちゃんの精神は、本当に安定しているのか?
ひとつ疑問が浮かぶと、またひとつ、新たな疑問が浮かんできます。
様々な疑問の答えを知るため、霊夢は以前と同じ方法で、涼花ちゃんの夢に入って調査したいと思っていたようです。
利害が一致した二人は、これからの事を話し合うべく、博麗神社へと向かうのでした。
涼しい風が、二人の間を通り抜け、髪を靡かせます。
その風は、笹の葉を鳴らしながら、竹林の上空へと吹き抜けていきました。




辺りが夕陽に染まり始めた頃。
霧雨魔理沙は箒に跨がり、幻想郷の空を飛んでいました。
結局、霊夢は戻らず、神社にはさとり以外、誰も訪れませんでした。
時間も時間ですし、帰る事も考え始めた頃。ふと、今年の正月の時の事を思い出しました。
あの時、光の三妖精に、外来のお面の、被る以外の使い道を尋ねられた魔理沙。
被る以外の使い道を思いつき、光の三妖精に助言を出しましたが、まさか、あの様な事が起こるとは…。
あの時の事を思い出し、居ても立ってもいられなくなった魔理沙は、ある場所へと向かいます。




冷たい空気も、宴会の熱気に追いやられ、正月の寒さを忘れてしまいそうな博麗神社。
光の三妖精は、博麗神社の裏に居ました。
目の前には大量のお面。可愛らしいキャラクター物から、不気味な仮面まで。様々なお面が、地面に所狭しと置かれています。
外の世界から流れ着いた物だろうと、先程まで居た秦こころが教えてくれました。
三妖精は、このお面の使い道を考えていたのです。
ただ被って脅かしたところで、面白みに欠けますし、それは三妖精のやり方ではありません。
なかなか良い案が浮かばなかった三妖精は、魔理沙に助言を貰うため、ここまで連れてきたのでした。
ところが、魔理沙もなかなか良い案が浮かばず、サニーミルク、ルナチャイルドは、ああでもないこうでもないと話し合い、スターサファイアは天狗の面を見て照れてしまう始末。
暫くの話し合いの末、魔理沙が一つの妙案を閃きます。


すっかり陽も落ち、辺りに夜の帳が降り始めた頃。
餅つきとお節料理を楽しんでいた者達は、そのまま宴会へと移行となりました。
流石に外は寒いため、宴会は室内にて執り行われました。
各々、呑めや歌えや踊らにゃ損々と、普段の宴会以上に、かなりの賑わいを見せています。
魔理沙と三妖精は、怪しまれないよう、普通に宴会に参加していました。
そして呑んだ者同士、呑まなかった者同士が、良い感じで集まり始めたところで、魔理沙と三妖精は行動に移ります。
呑まなかった者は、主や呑んだ者達の介抱に苦心している従者、お酒が苦手な東風谷早苗、お酒を呑める年齢ではない涼花ちゃん等々。脅かしたら、面白い反応が見られそうな面々が集まっています。
そちらへ標的を定めた魔理沙は、サニー、ルナ、スターへ、それぞれ指示を出します。


「さあ、まずはサニーが、私達の姿を消すんだ。その後に、ルナが私達の音を消す。指示を出さなきゃならんから、私達の声は私達だけに聞こえるよう調節してくれ。能力的に、今回は使いどころの無いスターだが、この悪戯には人手が必要だからな。とりあえず、このお面を半分持っていてくれ」


これでは、ほぼいつも通りではないかと思う三名ですが、魔理沙にも考えがあるのだろうと、魔理沙の指示に従います。
呑まなかった者達は、必然的に部屋の隅に集まって、或いは追いやられているわけですが、隅なのでどうしても灯りが届きにくく、若干薄暗くなっているのです。
もちろん室内ですので、そこまで薄暗いわけではありませんが、脅かすには丁度良い暗さです。
姿と音を消した四名が、呑まなかった者達を取り囲みます。
当然の事ながら、誰一人として、四名の存在に気付いていません。
そこへ再び、魔理沙が指示を出します。


「よし、お前たちお面を持て。そして、そいつ等の顔の近くに持って行くんだ」


三妖精は言われた通り、顔の近くにお面を持って行きました。
そして。


「きゃああぁぁ!」


サニーは、光の屈折エリア、自分達の姿を消しているエリアを狭めます。
光の屈折エリアから出たお面達は、呑まなかった者達から見れば、目の前に突然、不気味なお面達が現れた事になります。
その事に驚き、悲鳴を上げたのは、冥界の庭師、魂魄妖夢と、涼花ちゃんだけでした。
その悲鳴に、周りの者達も何事かと集まります。
魔理沙と三妖精は、集まってきた者達にぶつからないよう、その場を離れます。


「な?上手くいっただろ?」


魔理沙の妙案は流石だと、三妖精は褒め称えます。
しかし、このままでは自分達が疑われてしまうため、四名は何食わぬ顔で宴会場へと戻りました。


さて、戻ってきた魔理沙が見たものは、意外な光景でした。
なんと、あの元気の塊で、人前ではほとんど涙を見せない涼花ちゃんが、声を上げて泣いているのです。
能力が使え、幻想郷に長く滞在していて、幽霊のような恐怖の象徴に対しても、人並み以上の免疫を持っているとは言え、やはり涼花ちゃんは、普通の子供と何ら変わらないのです。
さとりは涼花ちゃんを抱き締めて、まるで母親のように安心させており、霊夢も、涼花ちゃんの肩に手を置き、怖いものはもう居ない。と、優しく声を掛け、八坂神奈子は、涼花ちゃんを泣かせた何者かに対し、怒りを露わにしています。


「参ったな…まさか涼花ちゃんが、あんなに泣いてしまうとは…」


涼花ちゃんの泣いている姿を見て、罪悪感に駆られた魔理沙。
今すぐにでも駆け寄って、涼花ちゃんに謝りたいところですが、今のタイミングで謝りに行ったら、自分の命の保障がありません。
現在、涼花ちゃんを慰めている者以外にも、涼花ちゃんの味方は大勢居ます。
多勢に無勢なので、今は大人しくしていようと思いました。
それは三妖精も同じだったようで、どこか気の引ける様な顔をしています。
結局、泣き止むまでに時間が掛かってしまい、呑んだ者達も白けてしまった為、宴会はその場で終了となりました。


あれから、涼花ちゃんに会う機会は何度もありましたが、涼花ちゃんに謝る事は出来ていません。
今の今まで、すっかり忘れてしまっていた魔理沙でしたが、思い出してしまった以上、謝らない訳にはいきません。
心がモヤモヤしているままなのは嫌なのです。
魔理沙は、あの時の事を謝る為、涼花ちゃんの家へと向かいます。
ふと、自分の目から涙が滲み出ている事に気付きます。
この涙は、西日が目に痛く、それで涙が出ているのだと、自分に言い聞かせる魔理沙。
しかし、魔理沙が流した涙は、本当に、幻想郷を照らす西日の所為?…それとも?




魔理沙が博麗神社を後にした頃。入れ違いで、霊夢とさとりが戻ってきました。
ここに来るまでの間、霊夢とさとりは、涼花ちゃんについて話し合っていました。
しかし、それらの答えが出る事もなく、全ては机上の空論です。
やはり、実際に確かめてみないことには、何も分かりません。
思えば、涼花ちゃんの事について、私達は何も知らないのだな。と、二人は痛感していました。
涼花ちゃんの事を、理解していると思い込んでいたのです。
さとりは、心が痛くなりました。
しかし、その答えを、涼花ちゃんの事をもっと理解するために、さとりも霊夢も行動しているのです。
もう少し。もう少しで、涼花ちゃんの秘密に触れられる。
さあ、これからです。
香雪蘭涼花を知るために、準備をしなければなりません。
霊夢とさとりは、互いに案を出し合い、涼花ちゃんだけを呼ぶ口実を考えます。
気が付けば、辺りには夜の帳が降り、雲一つ無いとは言えませんが、晴れた夜空には星々が瞬いています。
昼間の暑さが嘘のように、今は涼しく、時折吹く風が、神社の木々を優しく揺らしています。
話し合いの末、決行日を翌日に決めた二人。
明日に備え、さとりは地霊殿へと戻っていきました。
それを見送り、大きく伸びをする霊夢。
その姿を、物影からじっと見つめる、何者かの気配。


「…そんな所に隠れてないで、出て来たら?」


霊夢に見抜かれたその者は、観念したのか、物影から出て来ました。
月は雲に隠れ、辺りは星の光のみの為、目の前の者の正体は分かりません。
いいえ、その者の正体よりも霊夢が知りたいのは、霊夢達が神社に戻った時からずっと、霊夢達の様子を伺っていた事です。
この者が発する、妖怪よりも質の悪い、ドロドロとした黒い気配に、霊夢が気付かない筈がありません。
すると、目の前の者が、ゆっくりと口を開きます。


「涼花ちゃん……香雪蘭涼花について、お話ししたい事があります」


雲が風に流れ、月の淡い光が、再び幻想郷の大地を照らします。
それと同時に、目の前の者の正体も明らかになりました。


「あんただったのか」


霊夢と対峙していたのは、妖怪の樹海近辺に住む、鍵山雛でした。
その表情は、どこか深刻そうです。
そして、雛はゆっくりと口を開き、ある事を霊夢に語り始めました。




ひと月程前の妖怪の樹海。
雛はいつもの様に、この場所で厄を集めていました。
朝から降り続いていた雨も上がり、空に虹の橋が掛かった頃。雛の目の前に、ひとりの少女が現れました。
雛はすぐに分かりました。
目の前の少女は、こどもの日の騒動の、怨霊による影響を受けている事に。
見た目は子供。しかし、本当は大人。
あの騒動は、こどもの日が終わり、沈静化した筈です。
さしずめ、目の前の少女は、自らの体を元に戻してほしく、この場所に来たのだろうと、雛は思っていました。
しかし、少女の口から発せられた言葉は、雛の予想とは異なっていました。


「あの時のお願いを、聞いてほしいんだ」


あの時。こどもの日にも、目の前の少女は、同様の事を言っていました。
少女のお願い。それを聞いた雛は、表情が険しくなります。


「貴女はいったい、何を企んでいるのかしら?」


少女は、その見た目に釣り合わない、不適な笑みを浮かべています。
しかし雛は、少女のお願いを断りました。
すると少女は、雛の目の前まで近付き。


「大丈夫。断った所で関係ないから」




雛の記憶はここまで。
次に気が付いた時には、少女は居なくなっていました。
いったい、何をされたのか?少女は、何を企んでいたのか?
少なくとも、善い行いでない事は確かです。
不安に思った雛でしたが、何をされたのか分からない以上、しばらく様子を見てから、霊夢に報告しようと思っていました。




そして現在。
話し終えた雛は、俯いてしまっています。
疑問の尽きない霊夢は、雛にひとつずつ確認します。


「まず、あんたの所に現れたのは、どこの誰なのよ?」


暫く思案した雛は、霊夢が予想もしなかった名前を告げました。
その少女の名は、香雪蘭涼花でした。
その名を聞いた霊夢は、真剣な眼差しになります。
それに対して、更なる疑問が浮かびましたが、それはひとまず置いておき、次の質問をします。


「あんたは一体、何をお願いされたの?」


その質問に、雛は言葉を詰まらせています。
どう説明したら良いのか、考えている様子です。
漸く口を開いた雛は、不可思議な事を話し始めました。


「…涼花ちゃんに対して、厄を集めるように。と…」


訳が分からないと言った霊夢の表情を見た雛は、詳しく説明をし始めました。
雛の前に現れた涼花ちゃん。見た目は涼花ちゃんですが、それはこどもの日の影響を受け、皆が知っている涼花ちゃんの姿になっていた何者か。と言うことです。
そして、その何者かが、涼花ちゃんに対して厄を集めてほしいと、お願いをしてきました。
その話を聞いて、ひとりの人物の顔が、霊夢の脳裏を過ぎります。
恐らく、霊夢の考えは間違いないでしょう。
こどもの日の影響を受け、見た目が涼花ちゃんになっていた者。つまり、子供化が起こり、幼い涼花ちゃんの見た目になっていた者。
それは、十年後の未来からやってきたと言う、大人になった香雪蘭涼花でしょう。
あの後、何をどうやってかは知る由もない事ですが、十年後から再びやってきたと、涼花ちゃんが霊夢達に話していたのを思い出しました。
まだ、今の時代に留まっていたのでしょう。
しかし、涼花(大)のお願い。涼花ちゃんに対して厄を集める。
何故、その様なお願いをしたのかが気に掛かります。
本当の姉妹のように接していたのに、何故?
少しの間、顎に指を置きながら思案する霊夢でしたが、その答えが出る筈もなく。
とりあえず、報告してくれた雛に礼を言い、詳しく調べてみると、雛に告げました。
その言葉を聞いた雛は、少し不安な表情を浮かべながら、妖怪の樹海へと帰って行きました。


「涼花ちゃん…貴女に一体、何が起ころうとしているの?」


ここまで聞いてきた、全ての物事が、涼花ちゃんに向かって収束していると予感した霊夢は、しかし今は、逸る気持ちを抑え、翌日に備えるのでした。
月明かりに照らされた幻想郷は、いつになく幻想的な雰囲気を醸し出しています。
まるで、これから起こる何かを予感しているかのように。


地霊殿へと戻ってきたさとり。いつもの様に、さとりのペット達が出迎えます。
外出している間に、何か変わった事は無いかと訪ねるさとりですが、変わった事など無いことは、心を読めるさとりには分かっているのです。
しかしこれは、最早日課であり、ペット達とコミュニケーションを図る口実でもあるのです。
ふと、時計を見るさとり。
時計の針は、午後8時を回っていました。
空腹感を覚えたさとりは、まずは夕食を摂ろうと、食堂へと向かいます。
さて、食堂に着いたさとり。
先にテーブルについていたのは、さとりの妹、古明地こいしでした。


「お姉ちゃん、お帰りなさい」


こいしは普段、自由奔放な為、久々に会ったような感覚に陥ってしまいます。
ただいま。と返すさとりですが、こいしは何やら不機嫌そうです。


「また、涼花ちゃんに会ってきたの?」


心を読むまでもなく、こいしが涼花ちゃんに対してヤキモチを妬いているのは明らかです。
最近は特に、そう思う事が多くなっています。
姉を取られてしまうのではないか?そう考えているこいしを見て、可愛いところもあるなと、心の中でほくそ笑むさとり。
しかし、ここで正直に話すのも得策ではないため、さとりは涼花ちゃんに関することだけを隠し、地上に用事があったと話しました。
当然、こいしは信用していませんが、心を読むことが出来ないこいしは、姉の言葉を信用するほかありません。
こいしは不貞腐れながらも、目の前に用意されている食事に手を伸ばし始めました。
その、まだまだ子供っぽい表情もまた、可愛らしいものです。
それを見てさとりも、用意された食事を食べ始めます。
時折、地上で散歩中に色々な事があったと、先ほどの嫉妬も忘れ、こいしはその時のワクワク感を振り返りながら、身振り手振りを加えて語ります。
他人に迷惑さえ掛けなければ、こいしの地上探索を概ね許可しているさとりは、こいしの土産話に、静かに耳を傾けていました。


食事を済ませたさとりは、汗を流すために浴室へと向かいます。
地上の夏を侮っていたさとりは、明日こそは通気性の良い服を着ていこうと、心に決めていました。
夏は日差しの影響を受けないため涼しく、冬は、雪は降るものの、地底の太陽の影響で暖かいため、さとりは寒暖に対しての耐性を持っていません。
火焔猫燐も霊烏路空もこいしも、間欠泉が出て移行は、地上へ出て行く機会が増えました。
しかしさとりは、地霊殿の主と言う立場から、そこまで頻繁に、地上へ赴く事が出来ないのです。
特に気にする事もありませんでしたが、地上の気候を考えると、あまり引き籠もっているのも良くないのではないか?と、心の片隅で思います。
浴室に着いたさとりが衣類に手を掛けると、中途半端に乾いてしまい、微妙に湿っている衣類の感触に、嫌悪感剥き出しの顔をしています。
さとりは、明日はタオルと団扇も持参しようと、固く決心するのでした。


コックを捻ると、少し熱めのお湯が、シャワーノズルから噴出されます。
汗をかいた体には、熱めのシャワーが丁度良いのです。
さとりはシャワーを浴びながら、霊夢のある言葉を思い出していました。
涼花ちゃんが、同じ人間の少女である小鈴を避けている。霊夢からその話を聞いた時は、自分の耳を疑ったものです。
何故?と、暫く思案していると、さとりはある、一つの仮説を立てました。
小鈴は最近、能力に目覚めました。
その能力は、手を翳す事によって、読む事の出来ない本を読む能力です。
そして涼花ちゃんは、今でこそ人間ですが、元々は小説。
小鈴が能力を使用すれば、涼花ちゃんを“読む”事が出来てしまうのではないか?
その事に涼花ちゃんは気付き、それ故に、小鈴の事を恐れているのではないか?と言うものです。
涼花ちゃんを読み解くと言うことは、涼花ちゃんのその全てを紐解いてしまうことに、他ならないのではないのでしょうか?
それを恐れる理由。…羞恥以外で?
そう言えば以前、十年後の未来から、涼花(大)がやってきたと聞いたさとり。
彼女が未来に帰った後、さとりは魔理沙から、ある事を聞きました。
その時は、どんなものなのかは聞けなかったのですが、どうやら涼花ちゃんには、ある奥義があるとか。
その奥義の名を聞いた、涼花ちゃんの顔色が優れなかったと、魔理沙は語っていました。
もしかしたら、小鈴の事を避けているのは、その奥義も関係しているのでしょうか?
涼花ちゃんの全てを読み解く事はつまり、その奥義を読み解く事に繋がる?
その奥義がもし、危険なものだったら?
涼花ちゃんの性格から察するに、関係無い人を巻き込みたくないと考えているのでは?
そもそも何故、その様な奥義を、涼花ちゃんが知っているのか。


「…奥義についても、調べないといけませんね」


明日。明日になれば、全てが分かるはずです。
しかし本当に、涼花ちゃんの事を知ってしまって良いのでしょうか?
涼花ちゃんの秘密。そして奥義。涼花ちゃんはいったい、何を抱えているのでしょうか?
私達の知らない、何を知っているのでしょうか?
その事を知ろうとしているさとりは、心の片隅で、何を恐れているのでしょうか?
シャワーを終え、自室へと向かうさとりは、自らの鼓動が高鳴っている事に気付きます。
この高鳴りは、好奇心から?それとも、恐怖心から?
明日になってほしくない。しかし、涼花ちゃんの事を理解したい。
複雑な思いが混在する心を鎮めるため、さとりは自室ではなく、こいしの部屋へと向かうのでした。
今は、この事は考えないようにしようと、こいしの地上探索の話を聞いて、今の間だけでも忘れてしまおうと。
こいしの部屋の前まで来たさとりは、その事を忘れたい一心で、扉をノックするのでした。




夜虫のコンサートも終わりを迎え、草木も寝静まった頃。守矢神社では、八坂神奈子、洩矢諏訪子、八雲紫、四季映姫・ヤマザナドゥと言った、錚々たる面々による、ある話し合いが行われていました。


「あの娘達、ついに涼花ちゃんを調べるつもりみたいね。何も起こらなければ良いけど」


紫の言うあの娘達とは、霊夢とさとりの事でしょう。
突然現れ、話し合いをしたいと持ち掛けてきた紫に、神奈子は少し苛ついている様子です。
追い返したい所でしたが、閻魔まで現れ、更には涼花ちゃんについての話し合いだと言われ、追い返す理由がなくなってしまったのです。


「今更、涼花ちゃんについて何を知ろうとしているんだか…」


口調にも苛ついた様子が見て取れる神奈子。
それを聞いて、映姫が口を開きます。


「どうやら、私達ですら知り得ない秘密を、涼花ちゃんは抱えているようです」


映姫の言葉に、首を傾げる諏訪子。
妖怪の賢者や、神や閻魔ですら知り得ない、涼花ちゃんの秘密。
その様な事があるのでしょうか?
とは言え、ここにいる四名は、全知でも全能でもないため、あり得ることではあるのでしょうが。


「その秘密って、何なの?」


諏訪子の問い掛けに、紫も映姫も答えられません。
しかし、この二人には思い当たる節があるようで。


「まずは、私から話すわ」


先に口を開いたのは紫でした。
紫は以前、未来から来た涼花(大)から聞いたことを、三名に話します。
その内容は、涼花ちゃんの能力の本質の話。
涼花ちゃんの能力は『夢魔と貘を操る程度の能力』です。
しかし、涼花(大)が言うには、涼花ちゃんの能力の本質は、夢を叶える事にあるのだとか。
それを聞いて、神奈子と諏訪子は顔を見合わせます。
当然、その様な能力であるなど知る由もない二人。
紫は、涼花(大)から聞いた話を、事細かに語ります。
紫の話を聞き終えた神奈子は、ゆっくりと口を開きます。


「涼花ちゃんの能力。その本質…考えたことも無かったな」


そう。本来、能力とは自己申告であるため、その本質など、知らなくて当然なのです。
そして、それを知ったからと言って、何がどう変わるでもないのですが、それが涼花ちゃんであるのなら話は別です。
涼花ちゃんの能力。危険性は無いと判断していた能力。しかしその本質が、夢を叶える事にある。
今までの能力以上に、悪用したら危険な能力と言えるでしょう。
その事に、涼花ちゃん本人が気付いていないのなら、今が重要な時。
そこで、紫が最初に口にした言葉に戻るわけです。
何も起こらなければ良い。
霊夢とさとり。この二人が余計な事をして、能力の本質を涼花ちゃんが知るような事態は、何としてでも避けなければなりません。
しかし、そうとは分かっていても、二人を涼花ちゃんから遠ざければ、その事を怪しんだ二人は、余計に涼花ちゃんを調べようとするでしょう。
下手に行動できない歯がゆさ。二人の行動については、余計な事を見付けないよう見張りをおくと言う意見で、その場は一致しました。
次に口を開いたのは、映姫でした。
映姫は涼花ちゃんが、雪柳至音に幻想郷を案内していた時の事を話し始めました。


「あの時、涼花ちゃんは私の所…正確には、中有の道を訪れていました。そこで涼花ちゃんは、私にある懸念を話してくれました」


涼花ちゃんの言った懸念とは、ゆーちゃんが能力に目覚めているのではないか?と言うものでした。
と言うのも、涼花ちゃん一行は、中有の道を訪れるまでの間、ほとんど妖精や妖怪に襲われなかったのです。
その時は、東風谷早苗が保護者として同伴していましたが、常に結界を張っていたわけでもなく、魔除けを施した何かを持っていたわけでもないとの事でした。
ゆーちゃんが能力に目覚めた。或いは、目覚めそうなのではないか?だから妖精や妖怪に襲われなかったのではないか?涼花ちゃんはそう思っていたのです。
しかし映姫は、ゆーちゃんからは何も感じませんでした。
普通の、人間の少女だったのです。
映姫が気になったのは、ゆーちゃんではなく涼花ちゃんの方でした。
もしかしたら、涼花ちゃんの能力が、妖精や妖怪を退けていたのではないでしょうか?
先ほどの紫の話、涼花ちゃんの能力の本質の話。
それを聞いたうえでの、この話。
普段の涼花ちゃんの能力では、妖精や妖怪を退ける力はありません。
しかし、その本質。夢を叶える能力が作用していたのだとしたら?
涼花ちゃん一行が襲われなかった理由も、説明がついてしまうのです。
勿論、これは机上の空論であり、実際のところは分かりません。
もしかしたら本当に、運が良かっただけなのかもしれません。
答えの出ないまま、時間だけが過ぎていきます。
ふと、窓から光が差し込んでいることに気付く神奈子。
どうやら、夜が明けてしまったようです。
話し合いも打ち切りにして、その場は解散しようと提案します。
諏訪子は既に寝息を立てており、映姫の目は虚ろになっています。
紫は、まだまだ話し足りないようでしたが、こうなってしまっては仕方がないと、映姫と共に守矢神社を後にしました。
それを見送った神奈子は、窓の外を頬杖をつきながら眺めます。


「私は…涼花ちゃんの何を知っていたのだろうか?」


紫と映姫から語られた事。それに対して思案する神奈子。
しかし、睡魔には勝てそうにありません。
夜通し語っていたのですから、こればかりは仕方がありませんし、こんな状態では考えもまとまりません。
暫くすれば、早苗が起こしに来るだろう。
神奈子は睡魔に身を委ね、そのまま眠りにつきました。
夜明けの空は、雲一つない青空が広がっています。
朝日に照らされ、小鳥達も目を覚まし、囀り声を響かせています。
暫くすれば、他の動物達や、虫達も目を覚ますでしょう。
そう、何の変哲もない一日が始まったのです。
その中でただ一つ、変わった事があるとするなら、約二名の表情が、朝から険しい事でしょう。
今日、遂に、涼花ちゃんの秘密を知ることが出来る。
さとりは朝食を済ませると、博麗神社へと向かいました。
その顔は、何かを決心したかのような表情を浮かべています。
霊夢もまた、これから妖怪退治にでも行くかのような面持ちで、さとりの到着を待っていました。
いよいよ、涼花ちゃんの秘密を明かす時。
いつもの朝、いつもの幻想郷。しかし、今日起こることは、青天の霹靂なのでしょう。
霊夢の巫女としての勘が、そう訴えているのですから。


続く