涼花ちゃんストーリーまとめサイト(改)


青天の霹靂


今まで話が出来なかった分、思いっきり語り明かした涼花ちゃんと小鈴は、疲れ果てて眠ってしまいました。
二人の話に付き合わされ、ヘトヘトになっていた霊夢は、一息つこうとお茶を煎れていました。
そこへタイミング良く、さとりと魔理沙が戻ってきました。
幻想郷中を廻っていた二人も、相当疲れている様子。
霊夢は湯呑みをもう二人分用意し、二人のいる縁側へ向かいました。


一方。紫の命令を受けた藍は、少女の動向を探っていました。
しかし、どこへ行っても少女は見つからず、目撃情報を得るのみです。
追跡を躱されているとしか思えません。
なかなか尻尾を掴ませない少女に、多少イラつきを見せながら、幻想郷の上空を飛んでいます。
そんな藍の眼前に、探している少女が唐突に現れました。


「なにっ!?」


咄嗟に距離をとり、戦闘態勢に入る藍は、少女を睨み付けます。
しかし少女は、藍の鋭い眼光にも動じず、不適な笑みを浮かべています。


「どうしたの?私を、探していたんでしょう?」


少女の右手には、スペルカードが携えられています。
そして。


眩暈『ドリームクロス』


少女が、紫に使用したものと、同じスペルカードを発動させます。
しかし、身構えていた藍は、即座に、自身の周りへ結界を張りました。
すると、少女から放たれた見えない何かが、結界に弾かれたのが分かります。


「なるほど。今のが、紫様の仰っていたスペルカードか。何をするつもりだったのかは知らんが、当たらなければどうという事はない」


強気に出る藍ですが、少女は余裕の表情。
そんな少女の表情に、イライラを募らせていく藍。


「その表情。『自分は強いんだ』『あんたなんかには負けないんだ』といった、その、相手を見下すような表情。私は嫌いだ」


結界を解除し、弾幕を展開する藍。
しかし。


「私のスペルカード。まだ終わってないよ」


その一瞬、藍の思考は停止し、全ての物事を、認識出来なくなってしまいました。
ふと我に返ると、藍の放った弾幕は、虚空を裂いています。
少女は姿を消していました。
辺りを見渡しても、少女の姿はありません。
その場に取り残された藍は、現状を思案しています。
何故、少女は自分の前に現れたのか。
何故、少女はスペルカードを使用して姿を消したのか。
何故、少女は…


涼花ちゃんの姿なのか



紫から聞かされていた通りの容姿。しかしまさか、ここまで似ているとは。
とても、他人の空似とは思えません。
しかし、自分は式神。一応あれでも主ですし、思案するよりもまず、命令は果たさなければなりません。
すぐさま藍は、消えた少女の行方を辿るのでした。


さて、ここは涼花ちゃんの夢の中。
夢魔が、小鈴に接触しても大丈夫だと言う事を、涼花ちゃんに説明しています。
勿論、莫奇の存在は隠した上で。


「そっか。ありがとう、夢魔」
「涼花ちゃんの為だもの。お安いご用よ」
「……ねえ、夢魔」
「うん?」
「私……と言うか、昔の涼花の記憶にいた、ナギって誰なの?」


さっきの今です。多少の動揺を見せるかと思われましたが、そこは夢魔。ポーカーフェイスを崩さず、優しく涼花ちゃんに説明するのです。


「言ったでしょ?あれは夢を司る神様で、あの後はどこに居るのかも分からないって。どうして急にそんな事を?」
「………」


夢魔の問いに、俯き黙ってしまう涼花ちゃん。
暫しの沈黙の後、涼花ちゃんがその理由を話します。


「よく分からないんだけど…何だか、ナギがすぐ近くにいるような気がするの。本当に、すぐ近くに…。ねえ、本当に何も知らないの?わたしに、何か隠してるんじゃないの?」
「そんな事は無いわ。ほら、嘘を吐いている顔に見える?」


満面の笑みを見せる夢魔に、涼花ちゃんは溜め息を吐いて。


「見える」


正直な涼花ちゃんに、夢魔は笑いながら「それもそうね」と答えます。
夢魔が嘘つきなのは、涼花ちゃんもよく知っています。
その嘘が重要なものほど、夢魔の嘘は、とても綺麗なものになるのです。
だからこそ涼花ちゃんは、夢魔が嘘を吐いていると感じ取っているのです。
すると夢魔は、涼花ちゃんの頭を撫でながら、とても優しく語りかけるのです。


「大丈夫。涼花ちゃんは、何も心配しなくて良いわ。莫奇の事も、過去の記憶の事も。あの、小鈴って子の事もね」


微笑む夢魔に、涼花ちゃんは腑に落ちない表情をしていますが、それでも涼花ちゃんは、夢魔の事を信じることにしました。


「じゃあ、もう一つ質問」
「なぁに?」
「さっき、わたしが眠っている時に、霊夢お姉ちゃん達が、わたしの夢に入ってきたような気がしたんだけど」


涼花ちゃんも、なかなか鋭くなってきています。
色々と隠し通すことに、そろそろ限界を感じてきている夢魔ですが、涼花ちゃんを不安にさせる訳にもいきません。


「それはきっと、あの子達が近くにいたからよ。涼花ちゃんが眠っている間、あの子達は寝ていなかったし」
「でも、霊夢お姉ちゃん達を感じ取った辺りから、わたしは、ナギがすぐ近くにいるような感じがするの。…わたしが寝ていた間、本当に何も無かったの?」


詰め寄る涼花ちゃんの額に、人差し指を当てる夢魔。


「あ……」
「さあ、今は夢に戻りましょう。涼花ちゃんの望む、楽しい夢へ…」


涼花ちゃんの意識は、夢のまた更に夢。とても深い、心地良い所へと誘われていきます。
次に目を覚ましたとき、先ほど夢魔に質問をしたことを、涼花ちゃんは朧気にしか覚えていないでしょう。
この方法を使うのは、これで幾度目になるでしょうか。
涼花ちゃんも、この方法に耐性を持ち始めていますし、そろそろ何とかしなければなりません。
しかしそれは、夢魔の仕事ではありません。
夢魔はただ、この方法が効かなくなる前に、涼花ちゃん自身が解決してくれるよう、祈ることしか出来ないのです。




博麗神社の縁側。
霊夢達三人は、煎れられたお茶を啜り、些細でささやかな至福の時を堪能していました。
涼花ちゃんと小鈴の問題も解消され、これで一安心…の、筈なのですが、霊夢と魔理沙は、何か良くない事が起こるような、そんな予感を抱いていました。
何やら、裏で色々と蠢いているような、そんな予感がするのです。
すると神社に、先ほどまで少女の行方を追っていた藍が現れました。
藍が単独で行動している場合と、紫が一人で来た場合は、何か良くない事が起こる前触れだと言っても過言ではないでしょう。
霊夢は小さく溜め息を吐くと、藍に何か用かと尋ねます。


「いや、用と言うほどの用でもないんだが…涼花ちゃんの様子を見てくるように、紫様に頼まれたんだ」


勿論嘘ですが、少女を見失ってしまった藍は、行く宛が無くなってしまった為、仕方なく神社にやってきたのです。


「さっきの今だし、仕方ないとは思うけど…あいつも心配性ね」
「涼花ちゃんに対しては、うちの主は本当に過保護だからな。その辺は大目に見てほしい」
「それに比べてあんたは、涼花ちゃんに対してドライよね」
「そんな事も無いと思うんだがな。それより、涼花ちゃんは今どこに?」
「奥で寝てるわ」
「そうか。寝ているのなら仕方がない。出直すとしよう」


そう言って去ってしまった藍を見て、魔理沙が一言。


「あいつは何をしに来たんだか」
「目的が涼花ちゃんじゃなかったって事でしょ?」
「それって、どう言う事だ?」
「さあ?そんな気がしただけよ」


勘の鋭い霊夢は、藍が別の目的があって神社に来たことを、既に見抜いていたようです。
その様子を遠目に見ていた藍は、安堵の溜め息を吐きます。


「まったく。勘が鋭いのも考え物だな」


しかしこれで、現在の涼花ちゃんの位置は分かりました。
再び少女の行方を辿るべく、藍は行動を再開するのでした。


それから暫しの時が流れ。
神社の一室では、先に目覚めた小鈴が、部屋の中をボーっと眺めています。
次第に意識もハッキリとしてきた小鈴は、傍らで眠っている涼花ちゃんに目をやります。
そして、起こさないようそっと頭を撫でると、小鈴は静かに、部屋を後にしました。


神社の縁側では、霊夢が一人、お茶を啜っていました。
横には、もう二人分の湯呑み。
小鈴が、誰か来ていたのか尋ねます。


「ええ。でも、たった今帰った所よ」
「そうですか。…あの」
「うん?」
「ごめんなさい、勝手に寝てしまって…」
「涼花ちゃんも満足そうだったし、そんな事気にしないで。ところで、涼花ちゃんは?」
「まだ寝ていたので、起こすのも悪いと思って」
「そう」
「あの、私、そろそろ失礼しますね?店番もしなければなりませんし」
「ええ、分かったわ」
「涼花ちゃんが起きたら、よろしく伝えておいてください」


そう言って深々と頭を下げた小鈴は、鈴奈庵へと帰って行きました。
それを見送った霊夢は、雲の掛からない夏空を見上げます。
霊夢達が目覚めてから、もう三時間以上が経とうとしているはずです。
しかし、未だに太陽は、頭上で燦々と輝いています。
それだけではありません。
これだけ照りつけているのに、暑さを感じません。心地良ささえ感じます。
この異常事態に、いったい誰が気付いているでしょうか?
現に霊夢ですら、空を見上げなければ気付かなかったでしょう。


「まさか、異変?誰かが、時を止めている?」


そんな事をする輩を、霊夢は一人しか知りません。
前科持ちですし、紅霧異変の時も夏でした。


「涼花ちゃんが目を覚ます前に戻らないと」


霊夢は陰陽札と魔除け針、そして陰陽玉とスペルカードを携えると、湖の方向へと飛んでいきました。


魔理沙がその事に気付いたのは、霧雨邸に戻った時でした。
ふと、時計を見ると、時計の針は、目覚めた時と同じ時間を差していました。
脳裏を過ぎったのは、霊夢が考えている人物と同じでした。
しかし、永夜異変の際に、自分達が使用していた刻符の件もありますし、永遠を操る者も居ました。


「また、あの廊下を突っ切らなければならないのか…まあ、行き方さえ分かっていれば、何の問題も無いがな」


魔理沙は、帽子の中の八卦炉を確認すると、愛用の箒に跨がり、竹林を目指すのでした。


さて、神社を出たさとりは、地底…ではなく、妖怪の山の麓を訪れていました。
夏なのに、入道雲の一つも掛からない天候に違和感を覚えたさとりは、山の上にあると言う天界を目指しているのです。
以前、博麗神社が地震によって倒壊した際、気質を操り天候を操作している者が居たことを、さとりは思い出したのです。
あの異変も夏の出来事でしたし、何か関連性があるのではと考えているようです。


「…それにしても…」


飛んでいくのも大変そうな妖怪の山を見上げ、さとりはただただ、日頃の運動不足を呪うのでした。




鈴奈庵に戻ってきた小鈴は、いつもの椅子に腰を掛けると、目の前に置かれている数冊の本の内の一冊を手に取り、パラパラと眺め始めました。
そして、最後のページを捲り終えると、本を閉じ、天井を仰ぎます。
その表情はとても穏やかで、小鈴は、涼花ちゃんと話した事を思い返しているのでしょう。
話してみれば、何と言う事はない普通の女の子でした。
小鈴からも涼花ちゃんからも、色々な話をしましたが、どうして避けられていたのか。それは未だに引っ掛かっています。
と、涼花ちゃんに聞いたところで、答えてくれないでしょうが。
そんな事を考えていると、おもむろに鈴奈庵の扉が開きました。


「いらっしゃ……ああ」
「『ああ』とは何ですか…」


訪れたのは、稗田阿求でした。
しかめ面をしていますが、本を数冊抱えているのを見るあたり、借りた本を返却しに来たのでしょう。
些細な非礼を詫びると、小鈴は阿求を、店の中へと促します。


「はい、以前お借りした分です」
「はい、確かに」
「…そう言えば、涼花ちゃんには会えましたか?私の言った通りの子だったと思うのですが」


小鈴は先ほどの事を、阿求に説明しました。
すると阿求は微笑みながら。


「良いお友達になれそうですね。しかし、分かっているとは思いますが、涼花ちゃんに対して能力を使ってはいけませんよ?」
「涼花ちゃんに対して?…何故?」
「何故って…」


そこまで言って、ハッと口を押さえる阿求ですが、それはもう手遅れです。
涼花ちゃんの事に関しては、先ほど魔理沙から釘を差されていたはずなのですが、阿求自身、どうしてこんな事を言ってしまったのかと、疑問に思っています。


「い、いま言った事は忘れてください…」
「そうは言われても…ねえ、阿求は涼花ちゃんの何を知っているの?」
「な、何も知りません…あ、急用を思い出したので、私はこれで…」


制止する小鈴の言葉も聞かず、阿求はそそくさと立ち去ってしまいました。
取り残された小鈴は、椅子に腰を掛け、ただ呆然としていました。


「涼花ちゃん…貴女はいったい、何者なの?」
「その答えを知りたい?」


突如、背後から、聞き慣れない声が聞こえてきましたが、小鈴はその声の主などどうでも良いと言った様子で、耳を傾けています。


「涼花ちゃんを知りたいのなら、貴女の能力で涼花ちゃんを“読めば”良いのよ」


その声に促されるまま、その声に何の疑問も持たず、小鈴は涼花ちゃんのいる博麗神社へと、足を向けるのでした。




さて、神社を出発した霊夢は、妖精に出会す事無く、紅魔館まで辿り着いてしまいました。
これから、嫌と言うほど熱烈な歓迎を受けるでしょうし、体力もスペルカードも温存出来たので、そこは良しとする霊夢。

「まあ毎度の事だし、勝手に通らせてもらうわよ」


勝手に外門を潜ろうとする霊夢の前に、珍しく居眠りをしていなかった、紅美鈴が立ちはだかりました。


「ちょっとちょっと、何堂々と侵入しようとしてるんですか?」
「別に魔理沙じゃないんだし、侵入しようとしてる訳じゃないわ。あんたのお嬢様に用があって来たのよ」
「アポは取ってある?」
「アポなら取ってあるわ(嘘)。それに、私は顔パスでしょ?」
「はいそうですかって、通す訳にはいきません。それに、侵入者迎撃用のスペルカードも試したいし」
「私は急いでるの。そんなのは魔理沙に試しなさい」
「まあまあ、そんな事言わずに♪」


何があっても、弾幕ごっこをしたい様子の美鈴に、深い溜め息を吐いて、渋々了承する霊夢。


「仕方がないわね…少しだけよ?」
「やった♪それじゃあ…いきますよっ!」




一方その頃、永遠亭の上空まで来た魔理沙は、因幡てゐと弾幕ごっこを繰り広げていました。


「ほらほら、こっちだよ〜♪」
「ああ、もう!ちょこまかと動き回りやがって!」


永遠亭にある、無限にも思える廊下を行くのが面倒だと感じた魔理沙は、ここで騒げば炙り出せるだろうと考え、今に至るのですが…意外とすばしっこく動き回るてゐに、魔理沙は翻弄されていました。


「なかなか、予定通りに進まないものだな…。仕方がない。温存しようと思っていたが気が変わった。全力で叩き落としてやるぜ!」
「おお怖い♪ま、当てられればの話だけどね〜♪」
「…なめるなよ?私は別に、直線的なスペルカードばかりって訳じゃないんだぜ?魔空『アステロイドベルト』」




魔理沙がドンパチやっている頃、さとりは妖怪の樹海で足止めをくらっていました。
地底の妖怪。それも、地霊殿の主が来たとなれば、それは騒ぎにもなります。
しかし、さとりの足を止めたのは、山の妖怪達ではなく雛でした。
本人に敵意がある訳ではないのですが、弾幕は敵意剥き出しな事と、戦闘はあまり得意ではない事が相俟って、さとりは防戦一方となっています。


「ま、待ってください!まずは話し合いましょう!」


さとりの言葉に、漸く攻撃を中断した雛は、今の状況を話し始めました。


「貴女…妖怪サトリのくせに、心が読めていないようですね」


雛のその言葉に、違和感を覚えるさとり。
そう、さとり本人からしてみても、言われてみればなのです。
目の前の、雛の心が読み取れない。疑問にすら思っていなかったことに、さとりは漸く、疑問を抱き始めました。


「それに貴女…涼花ちゃんに集めた厄の影響を受けているみたいね…厄払い、しましょうか」


涼花ちゃんに集めた。その事も疑問ですが、これ以上疫病神に近寄られたくもないさとりは、応戦の構えをとります。


「抵抗しないでください?厄払いはすぐに済みますから」


雛は再度、弾幕を展開します。
言っている事とやっている事が噛み合わない雛には、色々と聞きたい事も出来てしまった為、不慣れな戦闘を試みるのでした。




特に見せ場もなく撃墜されてしまった美鈴を横目に、霊夢は悠々と、紅魔館の扉を開きます。
すると中では、妖精メイド達がいつもの様に働いています。
美鈴とは違い、妖精メイド達は霊夢を客人と見なしているようです。
すると。


「あら、今日は何の用かしら?」


目当ての人物が現れました。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜です。
いつも通りの咲夜に対し、霊夢が切り出します。


「単刀直入に言うわ。時間を止めてるの、あんたでしょ?迷惑だから、さっさと元に戻しなさい?」


咲夜が、やれやれと言った表情で返します。


「私が時間を止めているのなら、貴女の時間も止まっているのではなくて?」
「幻想郷全体の時間よ。何が目的か知らないけど。いいからさっさと戻しなさい」
「…貴女が何を言っているのか、理解に苦しむわね。大体、時間が止まってるって…」


そこで咲夜は、銀の懐中時計を取り出し、現在の時間を確認します。
するとすぐに、咲夜はその事に気付きました。


「秒針が…止まってる?故障かしら?」
「あんたが時間を止めてるからでしょ?」


霊夢は、両サイドに陰陽玉を浮かべ、臨戦態勢に入っています。


「どうせ倒せば元に戻るだろうし、言い訳は後で聞いてあげるわ」


話し終えると、霊夢は攻撃を開始しました。
咲夜は咄嗟に回避行動を取りつつ、ナイフを投げて応戦します。
しかし、ナイフの軌道は直線。霊夢は当たらない程度に横に移動しながら、攻撃を当てていきます。


「きゃあ!」


咲夜はスペルカードを使うこともなく、あっさりと撃墜されてしまいました。


「…あっけないわね。それに…」


霊夢の勘が、先ほどから“ここではない”と訴えていますし、咲夜を倒しても、時間が元に戻った様子もありません。
すると、ボロボロになった咲夜が、足元をふらつかせながら立ち上がりました。


「ごめん、勘違いだったみたい…」
「だから言ったじゃない…」


霊夢は一言詫びると、自分の勘の指し示す方向へと向かうのでした。




永遠亭上空では今し方、魔理沙とてゐの勝負が付いたところです。


「所詮は兎だな。しかし、まさか持ってきていないスペルカードが使えるとは…これも異変の影響か?」


そう、アステロイドベルトはハッタリで、本当はマスタースパークくらいしか持っていなかったのです。
それなのに、別のスペルカードを発動出来てしまったことに、魔理沙は驚いていました。
そして、持ってきたスペルカードを取り出し、更に驚きます。


「なんだい、スペルカードが全部白紙じゃないか。……どれどれ?」


魔理沙は軽く念じてみます。
すると、白紙だったスペルカードが、魔砲『ファイナルマスタースパーク』に変化しました。


「なるほど、そういう事か。つまり、永遠亭はハズレと言うわけだ。…まあ、薄々感づいてはいたんだが…」


永遠亭から誰も出て来ていない事を確認すると、魔理沙は騒ぎにならない内に“その場所”へ急行するのでした。


「……あいつは何しに来たのよ?」


撃墜されたてゐはと言うと、竹林から魔理沙の様子を眺めていました。


「報告…は、しなくてもいいよね。泥棒に入りに来た訳でも無さそうだし、みんなも気付いてないみたいだし」


そう言っててゐは、軽い足取りで永遠亭へと戻ろうとした時、ふと上空を見ると。


「あらあら、どこへ行こうと言うのかしら?」


魔理沙の目の前に、蓬莱山輝夜が立ちはだかっていました。
姫はさっきまで寝ていたはず。と、心の中で思いながら、てゐは身を隠し、二人の様子を伺います。


「結局出てきたか…もうお前達に用はないんだが」
「嘘仰い。さっきまでてゐと派手にやってたじゃない。私達に、出て来てほしかったんじゃないの?」
「それは…まあそうなんだが…兎に角、お前達に今は用はない。そこを通してくれないか?」


すると輝夜は、不適な笑みを浮かべながらスペルカードを取り出しました。


「駄目よ。てゐの相手はしたのに、私の相手をしないなんて不公平だわ。それに、どうせ暇なんでしょ?」


おかしい…。と、てゐは思います。
何をするにも物臭で、部屋から出て来る事もほとんどない輝夜が、これほど積極的になる事とは、藤原妹紅以外では、今までほとんど無かったからです。


「いや、私も急用を思い出したところだし、本当に勘弁してくれないか?」
「ダメ♪」
「ああ、そうかい。だったら手加減無しだ。いいな?」
「そうこなくっちゃ♪」




妖怪の樹海。
こちらではさとりが、思わぬ苦戦を強いられていました。
相手が雛だけなら大して苦戦もしないはずなのですが、そこに何故か神奈子が乱入してきた為です。
そして雛側についたかと思うと、不思議なくらい息の合った弾幕を展開してきたのです。
山の神と疫病神。なかなか無い組み合わせは相性が良かったのか、弾幕の難易度がこれでもかと言わんばかりに向上しています。
これも、神の気紛れなのでしょうか。
すると。


「おい、大丈夫か?」


背後からの声の主は、さとりの聞き間違えでなければ、目の前にいるはずの神奈子です。
しかし、弾幕の密度から振り返る余裕はありません。
さとりは弾幕の軌道を見据えたまま、背後の者に問い掛けます。


「私の聞き間違えでなければ…貴女は山の神の神奈子ですね?」
「ええ、その通りよ。随分と苦戦しているみたいじゃない」
「そりゃあ、貴女が敵側に居て弾幕も息がピッタリですから、苦戦もしますよ」
「ふむ…」


雛も向こう側の神奈子も、こちら側の神奈子に気付いているはずですが、それに気を取られる事なく攻撃してきています。


「…目の前の者が何であれ。地霊殿の主、古明地さとりよ」
「は、はい」
「お前に手を貸す。上手く私を使いこなしてみよ」
「…山の神、八坂神奈子。助力に感謝します」




博麗神社。
小鈴は、心此処に非ず。と言った様子で、神社までやってきました。
そして、涼花ちゃんが寝ている部屋の前で足を止めました。
襖を隔てた先には涼花ちゃん。しかしその襖に、何者かが結界を施したようです。
恐らく霊夢でしょうが、その仰々しい結界は、この先に立ち入るなと警告しているかのようです。
結界を前に、背後の者が語りかけます。


「この先に涼花ちゃんが居るわ。さあ、中に入りましょう」


小鈴の顔の横を、美しい羽根をした一匹の蝶が通り過ぎます。
ひらひらと舞うその蝶は、結界。そして襖をすり抜け、部屋の中へと入っていきました。
その瞬間、小鈴の意識は遠退き、次に目を覚ました時には、小鈴は涼花ちゃんの眠っている部屋の中に居ました。


「さあ、貴女の能力で、涼花ちゃんを“読み解く”のよ」


小鈴は声に促されるまま、眠っている涼花ちゃんの側に跪き、手を翳して能力を使用し始めました。
すると小鈴の頭の中に、涼花ちゃんの現在(いま)が、物語として流れ込んできます。


「そう、そのまま続けて」


同時に涼花ちゃんの、その時の気持ちや心の声までも流れ込んできました。
涼花ちゃんが何故、小鈴の事を避けていたのか。その理由も。そして、涼花ちゃんがいったい、何を抱えているのかも。
未だに小鈴は、心此処に非ずと言った様子です。
しかし、涼花ちゃんの心に触れてしまった小鈴の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちていました。


「……そんな……こんな、悲しい事が……」


流れ込んできた涼花ちゃんの現在は、次第に過去へと移り変わり、その悲しい過去に、小鈴の瞳からは涙が溢れ出していました。


「……だめ……こんな……こんな事……」


我に返った小鈴は、自らの手を止めようとします。
しかし小鈴の体は、言う事を聞いてくれません。


「もう手遅れ。もう止められない。私は叶えたの。貴女の夢を。涼花ちゃんと友達になりたいと言う夢を。涼花ちゃんの事を知りたいと言う夢を」

背後の者は不適な笑みを浮かべながら、更に語りかけます。


「ここなら、貴女のどんな夢でも叶うの。それがたとえ、どんな結末であろうとも。もう……引き返せない」




少女達の、それぞれ夢物語は、一つの結末へと収束を始めました。
その結末は、果たしてgoodendなのでしょうか?
それとも…。

目覚めの時まで 残り三時間


続く