涼花ちゃんストーリーまとめサイト(改)


ナハトファルター


紅魔館を後にした霊夢は、霧の湖上空で妖精達の妨害を受けていました。
うざったいと愚痴を漏らしながらも、やっと異変らしくなってきたこの状況に、内心喜んでいる自分がいます。
頭を振って、そんな考えを払拭すると、霊夢は妖精達を蹴散らしていきました。


「それにしても、この何とも言えない感覚。普通の奴らは、違和感すら感じない大きな変化。あの時もこんな感じだったわね」


霊夢の言う“あの時”とは、涼花ちゃん消失の際の、夢に堕ちた幻想郷の事です。
何時からでしょうか。霊夢は既に、この空間が夢の世界である事に気付いていたようです。
そう、今霊夢達の見ているこの幻想郷は、現実ではなく夢の世界なのです。
誰が…と言う心当たりは数名居ますが、さっきの今でもあり、霊夢の思い浮かべている人物が犯人で間違いないでしょう。
しかし、いったい何が目的なのでしょうか。
今の状態では、こんな事をするようには思えません。
まずは本人に会ってみないことには分かりませんし、とりあえず霊夢は、目の前の妖精の群れに溜め息を吐きながら、神社へと向かうのでした。


湖の中程まで来ると、妖精達の攻撃が、一層激しさを増してきました。
それらの攻撃をかいくぐった先に、妖精達が騒いでいる原因が佇んでいます。


「あら、こんな所で何をしているの?」


それは紅魔館の主、レミリア・スカーレットでした。


「それはこっちの台詞よ。…と言うか、太陽が真上にあるのに平気なの?」
「太陽?…ちょっと、しっかりしなさいよ。暑さにやられて、昼と夜の区別もつかなくなったのかしら?」


レミリアのその言葉に、辺りは一瞬にして夜になってしまいました。
レミリアの背後には、紅く大きな月が浮かんでいます。
今は夢の中。多少の事では驚かないと思っていた霊夢でしたが、流石にこれには驚きを隠せません。
そんな霊夢の様子を後目に、レミリアはその強大な魔力を身に纏い始めました。


「こんなに月も紅い事だし、久々に本気でやり合ってみない?」


こちらの返答など待たずに、今すぐにでも襲いかかってきそうなレミリアを見て、霊夢は深い溜め息を吐きます。
逃がしてくれそうにもありませんし、霊夢は渋々、本気のレミリアを相手にするのでした。




迷いの竹林上空では、未だ魔理沙と輝夜の激しい弾幕戦が繰り広げられていました。
いつの間にか辺りは夜になり、輝夜の背後には、永夜異変の時と同様に、紅くはない月が浮かんでいます。
魔理沙は目の前の弾幕に集中しているため、その事に気付いていませんが、二人の様子を傍観していたてゐは、突如降りた夜の帳に、驚きを隠せません。


「しつこいな!いい加減諦めろよ!」
「諦めるのは貴女の方よ。体もだいぶ暖まってきたし、そろそろ本気を出していくわね!」


かなり長い間、弾幕戦をしてきた魔理沙は、流石に消耗気味です。
これ以上の消耗を避けたい魔理沙は、次で勝負を決めるため、とっておきを使用する事を決めました。


「私の問題、解いてみなさい!新難題『月のイルメナイト』!」
「させるかよ!魔砲『ファイナルマスタースパーク』!」
「え?」


展開した弾幕もろとも、極太のレーザーの餌食となった輝夜に、心配する素振りを見せるてゐでしたが、内心は「ざまぁw」の一言です。
一応姫ですし、撃墜された輝夜の元へと向かうてゐでしたが。


「まったく、ヒドいじゃない?そんなの撃つなんて」


ファイナルマスタースパークの餌食となったはずの輝夜は、何事も無かったかのようにピンピンしています。


「直撃のはずだが…やっぱり、不死ってのはタフなんだな。それとも、一回休みだったかな?兎も角、次は保たないだろ?」


魔理沙は八卦炉を構えます。


「ま、所詮は夢だ。どうなったって、現実に影響は無いんだろ?恋心『ダブルスパーク』!」


流石、異変解決の専門家。魔理沙も既に、ここが夢である事に気付いていたようです。
魔理沙の放った二本の極太レーザーは、容赦なく輝夜に襲い掛かります。


「これ以上時間は掛けられないからな。これで終わりにしてくれよ?」




妖怪の樹海。
さとり、神奈子の二名は、雛と神奈子(?)に辛くも勝利しました。
墜ちていった二人を回収すると、神奈子は何の力か、二人を拘束しました。


「さあ、色々と答えてもらうぞ?」


神奈子が詰め寄りますが、さとりは少し気が引けているようです。


「ここが夢の世界なのも分かっているし、誰が引き込んだのかも大方分かってはいる」


神奈子の言葉に耳を疑うさとりですが、ここが夢の世界であるなら、色々と辻褄も合ってきます。


「問題は、私の見た目をしているお前だ。疫病神を使役して、何を企んでいる?」
「使役…?」
「操っている…と言った方が正しいか?どちらにせよ、良からぬ事であるのは間違いないのだろうが」


雛はボーっとしていて、神奈子の言葉が耳に入っていない様子です。
と、ここで神奈子(?)が漸く口を開きました。


「この子を使役しているのは、私ではないわ。私も、その辺りを確かめたかったのだけど…」


神奈子(?)の体は光に包まれ、別の形を取り始めます。
光が収まると、そこに現れたのは夢獏 莫奇でした。


「さっきぶりですね、さとりさん」
「な、莫奇さん?」
「はぁ……何故?と言った表情ですね。しかし、此方としても、色々とややこしい事になっているのです」
「ま、待て待て。お前達、知り合いだったのか?」


神奈子の当然の質問に対し、莫奇はいとも容易く拘束を解くと、人差し指をそっと、神奈子の額に当てます。


「な、何を?」
「はじめまして、山の神の八坂神奈子さん。今は時間が惜しいので、私の事はざっくりと説明させていただきますね?」


額に当てられた指を介して、莫奇に関する様々な情報が、神奈子の頭の中に流れ込んできます。
そして、時間にして数秒もしない内に、莫奇は指を離しました。


「な、なるほど…お前が何なのかは、よく分かった」
「では、今起こっている事を、簡潔に説明しましょう。…ですが、その前にひとつ、私からお願いがあります」




さて、現実の幻想郷では、ちょっとした騒ぎが起こっていました。
場所は永遠亭。


「姫様、もうお昼過ぎですよ。そろそろ起きてください?」


一向に起きない輝夜を、鈴仙・優曇華院・イナバが起こしに来ました。


「姫様〜?…ご飯食べないと、体に毒ですよ?」


呼んでも揺すっても、輝夜は起きません。
いくら夜更かしをしても、お昼時には目を覚ます輝夜だったので、少し心配になってきました。
それに。


「…これ、なに?」


輝夜の額には、白い繭のようなものが貼り付いています。
言い知れぬ不安を抱いた優曇華は、八意永琳に報告するのでした。


暫くして、優曇華は永琳を引き連れ、輝夜の寝室にやってきました。


「いくら呼んでも起きないんです。それに、これは…?」


優曇華が、輝夜の額に指を指します。


「……繭?」
「剥がそうとしても剥がれないんです」
「ふむ……。優曇華」
「はい」
「今すぐ、蟲の王を連行しなさい」
「は、はい、直ちに!」


優曇華は部屋を飛び出しました。
残った永琳は、輝夜の様子を観察します。


数分後。息を切らしながら、優曇華が戻りました。


「た、ただいま戻り…ちょっと暴れないで!」
「そりゃ暴れるよ!いきなり拉致って、何しようってのよ!」


優曇華に連れられ、部屋に入ってきたのは、蟲の王リグル・ナイトバグです。
大層御立腹のようですが、永琳はそれを軽くたしなめると、輝夜の額に指を指します。


「貴女なら、これが何なのか知っているんじゃない?」
「……答えたら帰してくれる?」
「貴女の仕業じゃないと分かればね。今、貴女は容疑者なのよ。蟲と言えば貴女だし、容疑が晴れないことには帰せないわね」


一瞬、凍り付くような殺気を向けられ、リグルは慌てて、繭を調べ始めました。


「……これって、もしかして」
「やっぱり、何か知っているのね?」


優曇華は人差し指をリグルに向け、永琳は弓を引き絞り、矢の先端をリグルに向けています。


「わー!待って!説明するから、それを下ろして!」


二人を何とかなだめると、リグルはこの繭について説明を始めます。


「こいつの名は夢蛾(むが)。取り付いた生物の厄を、ほんのちょっとだけ餌にして成長する蟲よ。そして繭を作るまで成長すると、厄のお礼と言わんばかりに、その生物にとって良い夢を、その生物が望む夢を見せるの。蛾ってのは繭の中で、美しい蝶になる夢をみてるからね」
「へぇ。じゃあ、害はないの?」


優曇華が尋ねますが、リグルの表情は優れません。


「その筈なんだけどね…。蟲とは言え、こいつは夢の中にしか存在しないのよ。実際には蟲じゃないし、現実世界に出てくる事はあり得ない。夢を見ている生物も、こいつを認識する事は出来ない。誰かが夢から持ち出したとしか、考えられないわ」
「で、実際目の前に、その夢蛾が居るわけだけど…現実世界で取り付いた場合はどうなるの?」


リグルは軽く思案します。


「分からない。もう繭の状態だし、良い夢を見せているんだとは思うけど…」


いくら蟲の王とて、実在しないものには疎いのでしょう。
曖昧な答えのリグルに、永琳は多少の苛つきを見せ始めます。


「輝夜が起きないのは、夢蛾が現実世界で取り付いているから?」
「だと思うんだけど…私はこいつを使役出来ないし、見たのも初めてだからね…」
「何とかならないの?」
「う〜ん……本来は、良い夢を見せて成虫になると、取り付かれた生物は目を覚ますの。だから夢を見終えれば、自然と目を覚ますんじゃない?」
「……使えないわね」


永琳の小さな一言にグサッとくるリグルでしたが、知らないものは仕方がありません。


「さあ、答えたわ。もう帰ってもいいでしょ?」
「ええ。疑って悪かったわね」


文句の一つも言いたい所でしたが、永琳の気が変わらない内に去った方が吉と考え、リグルは足早に永遠亭を後にしました。


「…どう思います?」
「害が無いのなら良し。問題は、誰がこんな事をしたのかよ。まあ、リグルの言葉で、誰の仕業なのかは大体分かったけど」
「私も同じ考えだと思います。しかしそうなると、何故?と言う疑問が浮かびますね」
「それは、別の誰かが解決すること。それよりも、こんな時に妹紅にでも来られたら厄介だわ。念の為、警備を厳重にしておきなさい」
「了解です」




夢の中の幻想郷。
博麗神社の一室で、小鈴は一冊の本を読んでいます。
タイトルは無く、白紙の多いその本を、小鈴はただ、その生気の無くなった瞳で、黙々と読み進めていきます。
そして頁の節々にある、見たこともない文字を読み解くと、白紙だった部分に新たな文字が浮かび上がります。
新たな頁を読み、その頁の節々にある文字を解き。その繰り返しです。


「……………」


小鈴の背後の者は、その様子を静かに見守っています。
これほどまでに厳重だとは思っていませんでしたが、ここで焦ってしまっては、全てが水の泡。
背後の者はその時を、ただじっと待つのでした。
小鈴が読み解くにつれ、この部屋の周囲は、数多の夢が幾重にも折り重なっていきます。
最早この部屋の外は、夢で出来た迷宮となっている事でしょう。
しかしそれは、この者の望む所ではありません。
この夢の最奥。この本の最後の頁。そこに眠るものこそ、この者が望んでやまないものなのですから。




湖上での激戦を制したのは、霊夢でした。
子供っぽい性格をしていますが、そこは吸血鬼。やはり実力は、並の妖怪以上です。
下は湖ですが、念の為、墜ちていくレミリアを、霊夢は回収しました。
どうやらレミリアは、気を失っているようです。
夢の中で気を失う。一体どうなるのかと考えた霊夢でしたが、そこは現実と変わらないようで、少し経つとレミリアは目を覚ましました。


「はぁ…負けた負けた。でも久々に、思いっきりやり合う事が出来て、とても楽しかったわ。ありがとう、霊夢」
「私としては、こんな事は夢の中だけにしてほしいところだけどね」
「それもそうね。……そろそろ、起きる時間かしらね。じゃあまた、現実世界で」


そう言うと、レミリアの体は光の粒となり、消えてしまいました。
後に残ったのは、美しい羽根をした、一匹の蝶。
それは霊夢の周りを舞うと、博麗神社の方向へと飛び去りました。
霊夢はそれを見送ると、手に残る感覚を握り締めます。
そして。


「涼花ちゃん…貴女、何をしようとしてるの?」




迷いの竹林上空。
大技を連発し、消耗した所為か、魔理沙は肩で息をしています。
輝夜はと言うと、体の節々から煙が立ち上り、満身創痍と言った様子です。
しかしその表情は、どこか清々しさを湛えています。


「はぁ。楽しかった」
「しかし、お前は本当にタフだよな」
「それだけが私の取り柄だもの」
「…言ってて悲しくならないか?」
「全然?」
「ああ、そうかい」
「…愉しい夢をありがとう。泥棒さん」
「私は疲れただけだがな。…って、私は何も盗んじゃいないっての」


輝夜はクスクスと笑うと、その体は光の粒となり、消えてしまいました。
後に残ったのは、美しい羽根をした、一匹の蝶。
その蝶は、まるで魔理沙をからかうように体の周りを舞うと、博麗神社の方向へと飛び去りました。


「やっぱり神社か。今回ばかりは、退治する事も考えないとな」


魔理沙は神社へと向かいます。
その一部始終を見ていたてゐは、これが夢だと漸く気付くと、その体は現実世界へと引き戻されていきました。




さて、妖怪の樹海では、さとりと雛による弾幕戦が繰り広げられていました。
莫奇のお願い。それは雛を、取り付いた夢蛾から解放する事。
それはつまり、雛の夢を叶える事でもあるのです。


「しかし、本当に疫病神の夢が、神遊びなのか?」


弾幕の飛んでこない安全圏から、神奈子が莫奇に問います。


「彼女の夢は、疫病神である自分が敬遠されない事。その答えが、神遊びなでしょう」
「…確かに、あの疫病神も色々と抱えてそうだし、夢の一つや二つ抱いてそうだな」
「しかしそれは、彼女が本当に望む夢ではなく、とてもささやかな夢。しばらく遊べば解放されるでしょう」
「それは良いとして、誰が、夢蛾を介して疫病神を操っている?」
「それは……っと、どうやら勝負が付いたみたいですよ」


さとりと雛は、互いに仰向けに倒れています。
どちらが勝ったのかなど、それはどうでも良いのです。
何故なら二人共、とても晴れやかな表情をしているのですから。


「さとりさん。私の、小さな夢を叶えてくれて、ありがとうございます。これで漸く、私も目覚めることが出来そうです」


そう言うと、雛の体は光の粒となり、消えてしまいました。
後に残ったのは、美しい羽根をした、一匹の蝶。
その蝶は、さとりの周り、そして神奈子と莫奇の間を縫うように舞うと、博麗神社の方向へと飛び去りました。
それを見送ると、さとりは再び、仰向けになりました。


「…さあ、そろそろ話してもらおうか。いったい、何が起こっているのかを」


神奈子が莫奇に問います。


「…夢蛾。あれは、夢の中にしか存在せず、取り付いた者の厄を餌として成長します。しかしそれを、現実世界で取り付かせて、故意に夢を見せ、その者を夢から操っている者が居るようなのです」
「居るようだって…お前は知っているのではないのか?」
「確信が持てないのです。もし、私が考えている者が操っているのだとしても、その者は夢蛾の存在すら知らなかった筈なのです」


莫奇の回りくどい言い方に、神奈子は苛立ちを見せ始めています。


「誰の事を言っているのか、はっきりと言ったらどうなんだ?」
「それは…」
「言えなくて当然ですよね?」


さとりが起き上がります。


「夢蛾を使って疫病神を操り、私達をひとつの夢に誘ったのは、他でもない涼花ちゃんなのですから」


その言葉に神奈子は驚愕していますが、莫奇は黙ったまま頷きます。


「待て待て。だとしたら何故?」
「それを確かめたかったのです。夢蛾を解放すれば、間違いなくその事に気付くはず。そうすれば、私達の前に現れると踏んでいたのですが…」
「…現れなかったな」
「その様ですね。しかし、気付いてはいるようです。…そして」


莫奇の体に、膨大な魔力が集まっていきます。


「どうやら私は、貴女達と戦わなければならないようです」
「莫奇さん…」
「勘違いしないでください。これは、あの子の意思なのです。貴女達に…そして、私に気付いたあの子は、その能力で、貴女達を倒したいのです。あの子の能力の一部である私に、それを拒絶する事は出来ません」


莫奇は、集めた魔力を解放すると、両手を広げ、臨戦態勢に入ります。
それと同時に、どこからともなく妖精達が集まってきました。


「私は貴女達と戦いながら、貴女達を、あの子の元へ誘います。手加減をする事は出来ませんが…私を倒し、どうかあの子を止めてください」


莫奇が言い終わると、妖精達は攻撃を開始しました。
十分休息をとる事が出来たさとりは、神奈子と共に、妖精の攻撃をかいくぐりながら莫奇の後を追います。




目覚めの時まで 残り二時間


続く