涼花ちゃんストーリーまとめサイト(改)


秋の空、秋の風


夏の長く続いた日照りも、ようやく落ち着きを見せ始め、いよいよ秋の香りが漂いつつある幻想郷の空。
そんな侘しさを漂わせる空を、自室の窓から見上げる阿求。


阿求「…もう、こんな時期なのですね。夏は長いものと思っていましたが、過ぎてしまえばあっという間」


独り言を漏らしながら、阿求は重い腰を上げると縁側へと向かいました。


阿求「まだ気温は高いですが…いつまでも夏気分と言う訳にはいきませんからね」


押し入れから踏み台を持ってきた阿求は、軒下に掛けられた風鈴を取り外します。
そして風鈴を軽く揺すり、今年最後になるであろう風鈴の音を堪能します。
それを終えた阿求は、風鈴を丁寧に仕舞うと、再び机に向かうのでした。

作業も一段落したところで、阿求は大きく背中を伸ばしました。
阿求の周りには、資料の本や巻物が無造作に置かれています。


阿求「ん〜……はぁ。このままカンヅメと言うのも体に毒ですし、少し風を入れましょう」


阿求が窓を開けると、ヒンヤリとした秋風が室内に流れ込みました。
その風は紙やら巻物やらを舞い上げます。
阿求は慌てて窓を閉めました。


阿求「はぁ…ビックリした…」


阿求が部屋を見渡すと、紙や巻物は散乱し、先程よりも酷い状態となってしまいました。


阿求「…まあ、纏めた書物が飛ばされなかっただけマシですね…」


阿求はひとつため息を漏らすと、散乱してしまった書物類を片付け始めました。


所変わって、ここは博麗神社。
その境内では、いつものように霊夢が境内の掃除をしていました。
そんな霊夢のもとを、冷たい秋風が駆け抜けていきました。


霊夢「ん……気温は高いけど、空気はすっかり秋ね」


霊夢はスカートについた砂埃を払い落とすと、境内を見渡しました。
境内の様子を見て、霊夢はため息を漏らします。


霊夢「…風も吹くんだったら、塵を浚ってくれれば掃除も捗るのに…散らかすだけ散らかしていくんだから…」
魔理沙「秋の風に文句を言っても仕方がないぜ」


霊夢が愚痴を溢しているところへ、いつものごとく魔理沙がやってきました。


魔理沙「よ、霊夢。遊びに来たぜ」
涼花「やっほー♪ 霊夢お姉ちゃん♪ 一緒に遊びに来たよ♪」


魔理沙だけでなく、涼花ちゃんも遊びに来たようです。
二人の顔をみ見て、霊夢は更にため息をつきました。


霊夢「…どうしてうちには暇人ばかり集まるのかしら」
魔理沙「あ? 暇人だ? …涼花ちゃん、言ってやれ」
涼花「子供は遊ぶのが仕事なのだ♪」
魔理沙「なのぜ♪」


と、Vサインを決める二人を見て、霊夢は頭を抱えます。


霊夢「これで三日連続よ? さすがに勘弁してほしいわ…」
阿求「最近は大きな異変もありませんし、付き合ってあげたらどうですか?」


そこへ阿求もやってきました。


霊夢「あんたが来るなんて珍しいとか言う前に、変なこと言うのやめてくれない? こっちは連日、お子さま二人の遊び相手をしてヘトヘトなんだから…」
魔理沙「ほう、お子さまのもう一人は私の事だよな? そんなこと言うんだから、覚悟は出来てるんだろうな?」
霊夢「事実を述べたまでよ、ま・り・さ・ちゃん」
魔理沙「…ああ、そうかい。泣いて謝っても許してやらないからな?」
霊夢「あら、やる気? 勝負だったらいつでも受けてあげ」
魔理沙「涼花ちゃん、霊夢を捕まえろ!」
涼花「あいあいさー♪」


涼花ちゃんは、およそ人の動きとは思えないフットワークで霊夢の背後に回り込み、霊夢の両腕を拘束してしまいました。


涼花「つかまえたよ〜♪」
魔理沙「よくやった♪」
霊夢「ちょっ! 子供を使うなんて卑怯よ!」
魔理沙「聞こえない聞こえない。さあ霊夢よ、覚悟するんだな」


魔理沙は手をワキワキさせながら、霊夢ににじり寄ります。


霊夢「へ、変なことしたら承知しないわよ!」
魔理沙「まあまあ、私に任せておけ♪」
阿求(うわっ)
霊夢「ほんとにやめ…いたたたた!」


魔理沙は霊夢の腕を強く揉み始めました。


霊夢「い、痛い! 痛いって!」
魔理沙「抵抗するなって。連日遊び相手になって筋肉痛なんだろ? だから、労をねぎらってやってるんだ。逆に感謝してほしいものだぜ」
霊夢「フーッ、フーッ……ま、魔理沙…いい加減に…ぎにゃー!」
魔理沙「まあまあ遠慮するなって♪」


気がつくと、霊夢は目に涙を浮かべています。
筋肉痛の部位をマッサージされるのが、相当痛い様子です。
まあ、魔理沙にも悪意があってのことですし、普通のマッサージより力を込めているのも原因なのでしょう。

ひとしきりマッサージされたところで、霊夢はようやく解放されました。
久々に霊夢の泣き顔を見ることができ、魔理沙は満足したようです。


霊夢「……あとで絶対に泣かしてやるから……」
魔理沙「しかし、霊夢がこんな状態だと、遊び相手がいなくなってしまうな。おい阿求、ちょっと付き合ってくれないか?」
阿求「今回は遊びに来たわけではないので遠慮しておきます」
魔理沙「そうか…。仕方がない、二人で遊ぶとするか」
涼花「うん、そうだね」


二人が庭へ行くのを見届けた霊夢は、ふらふらと立ち上がりました。


阿求「霊夢さん、大丈夫ですか?」
霊夢「大丈夫! 大丈夫だから触らないで!」
阿求「…たまには運動をした方が良いですよ?」
霊夢「そ、そうね…今回ので痛感したわ…」


霊夢はふらふらと、縁側へと歩いていきました。
そのあとを追い掛けるように、阿求も縁側へと向かいます。


霊夢「ちょっと…休ませてもらうわね…」


そう言うと霊夢は、縁側から中へ這い上がると、そのままうつ伏せで横になってしまいました。
かなり堪えているようで、霊夢はその場から動かなくなってしまいました。


霊夢「ところで阿求、今日は何の用? また何か聞きに来た?」


霊夢は横になったまま、阿求に訪ねます。


阿求「いいえ、今回は別件です」
霊夢「別件?」
阿求「このところカンヅメ状態だったので、ちょっとした気分転換に。ここは空気も良いですし、作業が捗ると思うんです」
霊夢「作業って…あんた、まさか…」
阿求「察しがよろしいようで。安心してください、皆さんに迷惑はかけませんから」
霊夢「そうね…。知っての通り、うちは人妖の出入りが激しいからね。それでも良いと言うのなら構わないけど」
阿求「はい、そこは想定済みです」


それを聞いて、霊夢はため息をつきます。


霊夢「分かった分かった。空いてるのは居間くらいしかないけど、好きに使って良いわ」
阿求「ありがとうございます♪」
霊夢「…はぁ」
静葉「こんにちは」
穣子「どうも」


博麗神社の庭先へやって来たのは、秋静葉、穣子姉妹でした。
穣子は手元のかごに、秋の味覚を乗せています。


霊夢「出た、秋妖怪…」
穣子「巫女のくせに、あんたは口が悪いわね。せっかく、採れたての秋の味覚を持ってきてあげたのに」
涼花「静葉お姉ちゃんに穣子お姉ちゃん♪」
静葉「涼花ちゃん、久しぶり」
穣子「元気だった?」
涼花「うん♪」
魔理沙「よう、秋姉妹」
穣子「あら、あんたも居たのね」
魔理沙「いつものことだぜ。それより、採れたての秋の味覚を持ってきたんだってな」
静葉「ええ、どれも新鮮よ」


静葉はかごに乗せられた葡萄や柿を魔理沙に見せました。


魔理沙「ああ、確かに旨そうだ」
静葉「良ければ切り分けてあげるけど」
魔理沙「頼むぜ♪」
静葉「それじゃあ…霊夢、ちょっと台所借りるわよ」
霊夢「ええ…構わないわ…」
穣子「…霊夢、どうしたの?」
涼花「運動不足なの」
霊夢「筋肉痛よ…」
穣子「あら、そうなの。じゃあ、私がマッサージしてあげましょうか?」
霊夢「いや、勘弁して…」
穣子「遠慮しなくても良いじゃない。大丈夫、痛くしないわ」


しばし悩んだ霊夢は、穣子の申し出を受けることにしました。


霊夢「…本当に痛くしないのなら、お願いしようかしら…」
穣子「任せて♪」


穣子は縁側に上がると、霊夢の側に座り袖をまくります。
そして、やや艷っぽい声で。


穣子「お客さん、こう言うとこ初めて?」
霊夢「いや、ここ私の家…」
穣子「もう、冗談が通じないんだから。じゃあ、始めるから腕を伸ばして」
霊夢「ん…」


穣子は差し出された腕を揉みほぐしていきます。
その手付きは本当に手慣れているようでした。


穣子「あ〜、これはキテるわね」
霊夢「分かるの?」
穣子「ええ、典型的な運動不足の張り方よ」
霊夢「………」
魔理沙「う〜ん…静葉が秋の味覚を切ってる間、私達は向こうで遊ぼうか」
涼花「うん、そうだね」


魔理沙と涼花ちゃんは、庭の少し離れた所へ遊びに行きました。
それを見送った阿求は、自分の作業に戻ります。


穣子「そう言えば稗田の子。あんたはこんな所に仕事を持ち込んで、いったい何をしているの?」
阿求「それは見ての通り、仕事をしているのですよ。どうしてここで、と言う問いに対しては、気分転換と答えておきましょう」
穣子「なるほどね。…はい、次は反対の腕を出しなさい」
霊夢「ん…」
阿求「……霊夢さん」
霊夢「なに?」
阿求「気持ちいいですか?」
霊夢「ええ。言うだけあって、なかなか上手よ」
穣子「よく、姉さんのマッサージをしてあげてたからね」
霊夢「へぇ…そう…」
阿求「霊夢さん、今にも寝てしまいそうですね」
穣子「はい、腕は終わり」
霊夢「ん……? 腕は……?」


穣子はうつ伏せ状態の霊夢に馬乗りになりました。


霊夢「ちょ、ちょっと!?」
穣子「ふふ♪ ここからは特別コースよん♪」


そう言うと穣子は、霊夢の背中を親指の腹で押し始めました。


霊夢「はふん!///」
穣子「あ〜、お客さんかなり凝ってますね〜♪」
霊夢「ちょっと待っ…はぁん///」


一応言っておきますが、やましいことは何もしていません。


阿求「霊夢さん、集中できません」
穣子「そうよ? それに、そんな声出されたら、私が変なことしてるみたいじゃない」
霊夢「んっ…そ、そんなこと言われても…ふにゃぁぁ///」
魔理沙「おい霊夢、変な声を出すな。涼花ちゃんに毒だろ」
涼花「魔理沙お姉ちゃん、何も聞こえないよ〜…」
魔理沙「良いんだよ。涼花ちゃんにはまだ早い」


何度も言いますが、やましいことは何もしていません。
と、そこへ静葉が戻ってきました。


静葉「穣子、その辺で。秋の味覚を切り分けたから、みんな一緒に食べましょう」
魔理沙「お、タイミングが良いな」
阿求「ちょうど一段落したところですし、少し休憩にしましょう」
涼花「魔理沙お姉ちゃ〜ん…何も聞こえないよ〜…」
魔理沙「ん? …ああ、悪い悪い。ほら、霊夢も起きろ」
霊夢「ん…い、今行くわ…///」


こうして霊夢達は、静葉の切り分けた秋の味覚をいただくことにしました。
するとそこへ一陣の風が吹き抜け、庭の落ち葉を巻き上げます。


静葉「…今の風、人為的なものだったわね」
穣子「そうね、嫌な風だったわ。こんな風を起こせるのは…」
文「はいはいその通り♪ 毎度お馴染み、清く正しい射命丸です♪」
涼花「文お姉ちゃん、こんにちは♪」
文「はいはいこんにちは♪ 涼花ちゃんは相変わらずかわいいですねぇ♪」
静葉「何しに来たの?」
穣子「どうせ、美味しそうな香りに誘われたんでしょ?」
文「誘われちゃいました♪」
霊夢「まあ良いんじゃない?」
阿求「良いのですか?」
霊夢「悪さをしたら退治するだけよ」
文「大丈夫です、悪さはしませんよ」
霊夢「…だと良いんだけどね」

霊夢は切り分けられた秋の味覚を頬張ります。

文「いやぁ、しかし…私に録音機器があればとつくづく思いましたよ。霊夢さん♪」
霊夢「あ、あんた…聞いてたの?」
文「ええ、バッチリと♪」
霊夢「…変な記事を書くってのなら、今すぐここでシバいてやるから」
文「そこはご安心を。聞きはしましたが見ていませんし、写真にも納めていませんからね。そんな状態では記事のひとつも書けませんよ」
魔理沙「いや、書くことは書けるだろ」
文「甘いですね魔理沙さん。写真のない新聞を、誰が興味を持って読みますか? 私なら読みません!」
魔理沙「それはお前…ブン屋としてどうなんだ?」
文「いやぁ、照れますね〜」
魔理沙「褒めてないから」
文「ところで、どうして阿求さんがここに?」
阿求「ああ、それは…」


かくかくしかじか…。


文「なるほどなるほど。…気分転換に仕事場を変えただけでは、記事になりませんね…」
阿求「ええ、何も面白いことはありませんよ」
文「そうですか。しかし…ここにはネタ探しで来たんですけどね…」
穣子「だったら是非、記事にしてほしいことがあるんだけど、良いかしら?」
文「穣子さんから? 何でしょうか! 面白おかしく脚色いたしますよん♪」
穣子「そんな面白くしなくても良いんだけど…実は」


翌日の博麗神社。


文「はいは〜い、号外号外〜♪ 号外だよ〜♪」
霊夢「あ、昨日の記事、もう書けたんだ。一部貰える?」
文「はいはいどうぞ〜♪ これを期に定期講読を」
霊夢「それは断る」
文「むぅ〜…」
霊夢「それより、いろんな場所に配るよう言われてるんでしょ?」
文「あ、そうでした。では、私はこれで♪ 次回は定期講読をお願いしますね〜♪」

霊夢「…さて、見出しは…『秋の空 秋の風 秋の味覚』か。捻りがないわね。内容は…脚色も無さそうね」
魔理沙「よう霊夢」
涼花「今日も遊びに来たよ♪」
魔理沙「お? その新聞…」
涼花「昨日言ってた新聞?」
霊夢「ええ、そうよ」
魔理沙「さすが、幻想郷最速。記事にするのも早いな」
霊夢「でも、秋姉妹も秋姉妹よ。秋の実りの状態とか紅葉スポットとか、その程度のことを記事にしてもらうなんて」
阿求「まあ良いんじゃないですか? 彼女達の信仰は、本人への信仰より豊穣や紅葉への信仰なのですから」
霊夢「また来たのか…」
魔理沙「それだけ幻想郷も平和ってことだ」
涼花「平和が一番♪」
霊夢「それはそうだけど…」


霊夢達が庭先で話をしていると、そこを一陣の風が吹き抜けました。
その風はヒンヤリと肌寒く、秋の様相を呈していました。


阿求「…静葉さんの言っていた通り、幻想郷が秋になっていくみたいですね」
霊夢「そうね…」
魔理沙「美味しいものも盛り沢山だな♪」
涼花「だね♪」
霊夢「食べることしかないのか…。そうだ、昨日貰った秋の味覚がまだあるから、あんた達食べていく?」
涼花「うん♪」


幻想郷の山々は、次第に秋色に染まっていくでしょう。
しかし幻想郷の少女達にとっては、秋の紅葉より秋の味覚。
色気より食い気なのかもしれません。


終わり