縁コウキ専用台本です。


(ジングルベルの音)

外装よし、内装よし、グラスなどの準備もよし。
んークリスマスに店をオープンするなんて、我ながらオシャレな事しちゃったなぁ、俺。

(体を伸ばしながら)んーっ、流石に一人でここまで準備するのはつかれたぁー。
でもまぁ、これでいつお客さんが来てもオッケーだな。

(カランとベルが鳴る音と共に、開かれる扉。
彼はびっくりして振り返った。)

あ……!(嬉しそうに)いらっしゃいませ!
えっ、なんでそんなにニコニコしてるのかって?
実はうち、今日オープンしたばかりなのですよ。
だからあなたが初めてのお客様なんです!
だから嬉しくてたまらなくて。

あ……っと、一人ではしゃいじゃってすみません。
さぁ、カウンター席へどうぞ。

(入ってきた女性はOLのようで、仕事帰りなのかかなり疲れていた)

はい、おしぼりです。
何かご希望のお飲み物はございますか?
……分かりました、少々お待ちください。

(カクテルを作っていく音)

なんだかお疲れのご様子ですねー。
え?「クリスマスに一人でバーに来るなんて、寂しい女だとバカにしてるでしょ」って?

(明るく)いやいや、バカにするなんて、そんなこと絶対に無いですよ。
むしろうちの店には、寂しい人ほど来てほしいと思ってるんです。 
ほら、うちってこじんまりしてるでしょ?
俺は来てくれたお客様を精一杯おもてなししたいから、わざと小さなお店にしたんですよ。
(笑いながら)まぁあまりたくさんのお客様に来られたら、俺一人で対応できないってのもありますけど。
その代わり、ここに来てくれたお客様には全身全霊で向き合うし、この店を出る時は、幸せな気持ちになってあの扉から帰って欲しいと思ってて……。

【彼は出来上がったカクテルをグラスに注ぎ、彼女の前に差し出す】

(グラスを置く音)さて一杯目のカクテルが出来上がりました、どうぞ。
最初は軽めのお酒にしておきましたから。

【彼女がグラスに口をつける様子を見つつ、彼は優しく微笑んでいる】

美味しいですか?
やった、この店で最初にお客様に出したカクテルだかは、美味しいって言ってもらえて嬉しいです。

(様子を伺うように)ねぇ……ちょっとした提案なんですか、美味しいお酒でも飲みながら、今お客様が抱え込んでる事、俺に話してみませんか?
え、顔を見てたら分かりますよ。
何か悩んでるんだろうなって。
この店に入ってきた瞬間から、顔色が暗かったから。
俺、人の表情には敏感なんですよ。

【彼女はグラスを持ち、一口だけカクテルを飲む。そして淡々と語り始めた】

「どんな愚痴でも聞いてくれるの?」って?
うん、もちろん。
人に吐き出して楽になる事ってあるでしょ。
当然、ここで聞いた事は絶対に口外したりしません。
あ、ただし相談を聞くみんなにはこれだけは伝えるようにしてる事があるんだ。
ちょっと耳貸して?

(少し色っぽく)いくら俺が親身になったとしても、本気で好きになっちゃ駄目だよ?
あくまでバーテンダーとお客様、その線引きは大切だと思ってるからね。

えっ、「そんなことあるわけない」?
はは、ごめんごめん。
一応頭の片隅に置いておいてくれたらいいから。
それじゃ、話してくれる?

【彼女は小さく笑った後、コクンと頷く。そしてぽつりぽつりと語り始めた。】

うん……
うん……
なるほどねー。
「同じ仕事をしてても、女だっていうだけで男性より評価されない」?
令和になった今でも、そんな昔気質な会社ってあるんだね。
バカバカしい話だと、俺は思う。
「何をしても、誰からも褒めてもらえない」?
それは辛いよね。
あ、ほら泣かないで。

(真剣な口調で)ねえ、カウンターを出てあなたの横に座ってもいい?
(※お客様からあなたになる瞬間)

【彼はカウンターを出て、彼女の横の席に座る。そしてカウンターに片手で頰づえをつきながら、優しく微笑んだ】

近くに来ちゃった。
こうやってより近くであなたの泣き顔を見てると、思うことがあるんだ。
可愛いって。

あ、照れた、はは。
だってここに来たばかりのあなたは、警戒心剥き出しで強気な顔をしていたよ。
でも、泣いてるあなたは気弱さが露呈している。
気を張って頑張って働くのは悪い事じゃない。
だけど時々は涙を流して、溜め込んでいた辛い気持ちを吐き出せばいい。
俺で良かったら、全部受け止めるから。
あ、そうそう、あなたは「誰にも褒められない」事が辛いって言ってたよね?
じゃあ今から俺が一つ、褒めてもいいかな?

(耳元で囁くように色っぽく)強気なあなたも、弱いところを見せたあなたも、どちらもとても魅力的な女性だよ。

(距離を離していつもの声で)あ、真っ赤になってる。
それに、表情から暗さが無くなった。
ん?少し気が楽になった?
はは、それなら良かった。

【彼は椅子から立ち上がり、カウンターの中に戻っていく】

(呼び方をお客様に戻して気持ちの切り替え)
さてお客様、気持ちが晴れた所で二杯目のカクテルなんてどう?
もしよかったら、俺のおすすめで作らせて?

【カクテルを作っていく音】

いつも頑張っているお客様へ、気持ちを込めて作っていくね。
明日からのお客様が、笑顔で過ごせますように。
はい、出来上がりー♪

モヒートだよ、どうぞ。
カクテル言葉は、「心の渇きを癒やして」
この一杯が、お仕事を頑張ってるお客様の癒やしとなりますように。

心が疲れた時は、またいつでもおいで。
俺は毎晩ここにいるから。ね?


END
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