【ベノくん専用】台本です。
読み物としてお楽しみ下さい。


***


【二人は部屋の中、結婚式場のパンフレットを眺めている】


調べてみると、結婚式場って結構たくさんあるんだなぁ。
自分達が結婚する事になって、初めて気づくっていうかさ。 
あ、こことか良くない?海辺だって。
え?あー確かに冬場だと寒いかな、はは。

でもなんか、こうやって色んな式場のパンフレットを並べながら、一緒に考えるのってめちゃくちゃ楽しくない?
だよな?なんかワクワクするっていうか。
俺達、高校の時からずーっと一緒にいて、まぁ時には喧嘩をしたりもしたけど、やっとここまで来たって感じ。
ん?そりゃ俺は、お前と付き合ったその日から、大人になったら絶対に結婚するんだーって決めてたよ。


【「えー前からそんな風に思ってたの?大げさに言ってないー?」】


いや、ほんとだって。
あ、覚えてる?
高校の時さ、めちゃくちゃ緊張しながら俺がお前に告白した日の事。
今まで女の子と付き合った事なんてなかったし、生まれて初めての告白だったからすっげぇ怖かったんだよなー。
それに、お前はクラスでもモテる方だったから、もう玉砕覚悟ってやつ。

【「もてないってば」】


はは、謙遜すんなって。
とにかくさ、ダメ元で告白したらオッケーされて、もう俺、舞い上がったね。
え、その時の俺のはしゃぎっぷりを覚えてるって?
なんだよー、恥ずかしいじゃんか。 

ってかさー。今のお前も、結構はしゃいじゃってるのバレバレなんだけど?
だっていっつも婚約指輪触りながら、嬉しそうにニヤニヤしちゃってるし。
いや、してるってー。してるしてる。

(嬉しそうに)えっ、そうなの?
俺と結婚するのが、お前の夢だったんだ?
なんだよー可愛い事言うなって。
俺までニヤけちゃうじゃん。


【その時、彼は彼女の様子がおかしい事に気づく】


あれ、どうした?
急にふらついて……。
気分悪い?え、マジで?!
だ、大丈夫か?
ほら、ソファに横になって。

(頭をなでながら)よしよし、無理すんなよ。
調子が悪いのっていつから?
そっか、先月から違和感があったんだ。
病院には行ってないのか?
いや、大丈夫とか言ってないで、ちゃんと診てもらってこいよ。
心配だからさ。

ん?少し吐き気もある?
え……それってさ……もしかして……さ。
妊娠……とか?


【「えっ、まさか……」】


いやだってさ、可能性は……ゼロじゃないだろ?
することしてんだし。
ちょっ、叩くなって。


【「恥ずかしいこと言わないでよー」】


とか言いながら、お前、めちゃくちゃ笑顔になってるし。
嬉しいんじゃないのー?はは。
え?もしそうなら俺だってすっげぇ嬉しいよ!
まぁ確かに入籍前に……って事になっちゃうけど、子供が出来るって、おめでたいことじゃん!
しかも俺達の子供だよ?もう、想像しただけでにやつきが止まらないんですけどー?
ははは、お前も?

とりあえず、今から検査薬でも買ってこようか?
ん?あー明日病院で診てもらってくる?
そうだな、その方が検査薬より確実だし。
結果が分かったら、すぐに教えてくれよ。
やばい、楽しみすぎる。

じゃあ今日はもう夜も遅いし、寝よっか?
夜ふかしは体に悪いしな。
んじゃ寝室に行きますか。


ーーーー

【翌日】

(玄関扉の開く音)

たっだいまー。
あ、お前ももう帰ってたんだ。
今日、病院行ってきたの?
(わくわくしなから)で、どうだった?


【彼女は無理やり笑顔を作りつつ、妊娠ではなかったと伝える】


あ……そうなんだ、妊娠じゃなかったんだ。  
ごめん、勝手に浮かれちゃってたな俺。
じゃあさ、体調不良の原因って何だったの?


【「ちょっとね、でも大した病気じゃないから」】


いやいやいや、ちょっとねって、そんな言葉ではぐらかすなよ。
気になるじゃん。
ちゃんと教えて?
心配になるだろ。


【「本当に大丈夫だから」】


えー……大丈夫って、いや、でも……。


【「私が嘘をついたことあった?」】


え?あーまぁ、確かに……お前が俺に嘘をついたことなんてないけどさ。
本当に大丈夫なのか?
本当に大した事ないの?

じゃあ信じるよ、
でも、身体がきつかったりしたらすぐに言って。
それだけは約束、いい?
お前って、すぐ強がって無理するからさ。
辛かったらちゃんと俺に甘えろよ?

うん、絶対だからな。

ーーーーーーー

【ある日】

(雨の音)
(玄関扉の開く音)

たっだいまー。
もー最悪、傘持っていくの忘れちゃってさ。
駅から猛ダッシュで帰ってきたわ。
あーっ、つっめてぇ。
なぁ、タオル持ってきてくれねぇ?

え、あれ?
おーい、どこー?

あれ、まだアイツ仕事から帰ってきてないのかな。
珍しいなこんな時間まで働いてるなんて。
あっ、そうだ!
アイツも傘持ってないだろうから、迎えに……

え?

【その時、彼はテーブルの上の置き手紙を見つける】

なに、テーブルの上になんかある……。
手紙と……え、こ、婚約指輪……なんで?

は?「結婚はやめる。別れよう」って、なっ、え?
意味がわかんねぇよ!はぁ?!

あ、え、落ち着け、えっと、スマホ。

【彼は焦りを必死に抑えつつ、スマホを取り出して彼女に電話をかける】

(RRRRRRR)

は?でない?!
あ、えっと、LINE……

(スマホをタップする音)

「話がしたい、どこにいる?」っと……。

なんなんだよ、一体。
何でこんなことに……。
昨日まで、二人で仲良く暮らしてきたのに。
結婚式まであと一ヶ月だねって、笑い合ってたのに。
それなのに、なんでいきなりこんな……。

【彼はある可能性に気づいて、ハッとする】

あっ……もしかしてアイツ、本当は俺に言えないくらいの思い病気……だったとか?
いや、ありえる……。
アイツ、バカがつくほどお人好しだから、俺に迷惑をかけたくないとかいう理由で、こんな事しそうだもんな……。

あーっクソ、なんで俺、気づいてやれなかったんだよ!
もー鈍感にも程があるだろ!


【しばらく一人で泣く彼。
そしてあることに気づいて顔をあげる】


あ、そうだ、あいつの実家。


【彼はスマホをタップして、彼女の実家に電話をかける】

(RRRRRRR)

あ、もしもし、ご無沙汰しています。
彼女……そちらに帰っているのではないかと思ってご連絡しました。
はい……
はい……
やはり、そうなんですね。
え、彼女には取り次げないってどういう事ですか?
お願いします、話をさせてください!
いきなり別れるなんて言われて、納得できる訳ないじゃないですか!
え?理由?
はい……
はい……
え……癌……?
そんな……余命って……
若いから、進行が早いってことですか?
はい……
はい、なんとなく……察していました。
彼女がこんな行動をとるのは、俺に言えないほど重い病気なんじゃないかって。
はい……
は?すみませんが、それは出来ません。
それが彼女の意思だったとしても、俺は諦める事なんてできません。
お願いします、彼女がいる病院を教えて下さい。
教えてもらえないのなら、日本中の病院をしらみつぶしに探します。
はい……
はい……ありがとうございます!
本当に、ありがとうございます。
では失礼します。

【通話を終えた後、彼は唇を噛み締めて涙を流す】

なんだよ……っ、癌って……余命って……っ!
なんでちゃんと話してくれなかったんだよ……っ!

ーーーーー


【翌日、彼は病院へかけつける】


(病室に向かう足音)
(扉をノックする音と、扉を開く音)

やっと、会えた。
お前が俺についた、初めての嘘がこれなんて……笑えないんだけど?
は?なんでって……お前の両親に全部聞いたよ。
診断を受けた日に、結婚式場もキャンセルしてた事もなにもかも。
どうしてちゃんと相談もせず、勝手にこんな事するんだよ。


【「私はあなたに幸せになってほしかったから」】


はぁ?ふざけんな。
俺の幸せを思うなら、一番しちゃいけない事だろ!
自分の立場になって考えてみろよ。
お前は、突然俺が理由も言わずに姿を消したら、平気でいられるんのか?
手紙と婚約指輪がテーブルに置かれてるのを見て、俺がどんだけ絶望したかわかる?


【「ごめんなさい」】


謝らなくていい。
でも、本当に俺に悪いと思ってるなら一つだけお願いがある。


【「お願いって?」彼女は首を傾げながら、彼を見つめる】


これ、書いて。
そう、婚姻届。
はは、なにキョトンとしてるんだよ。
元々結婚式が終わった後、書いて出す予定だっただろ。
それが少し早まるだけだって。


【「でも……」】


でも、じゃない。
俺はね、ちゃんとお前の夫になって、家族になって、支えていきたいの。
俺のお嫁さんは、お前しか考えられないの。
だから、お願い、サインして?
もー何泣いてんだよ。

ほーら、ボールペン持って。
うん、そこ、ここに名前を書いてくれたらいい。  
ありがとう。

あーなんかいいな。
俺とお前の名前が並んだ婚姻届を見てるだけで、幸せな気持ちになる。
よーし、これで俺とお前は夫婦だな。
だから遠慮とかは、絶対に無しだから。
わかった?
あ、そうだ。
お揃いの結婚指輪も買わなきゃな。

【「ほんとうにいいの?私なんかで」】

それ、二度と言わないで。
私なんかとか、そういうの禁止。
お前がいいの。

こらこら、そんなに泣くなよ。
大丈夫、俺がずっと側にいる。
諦めないで一緒に頑張ろう。
二人で一緒なら、絶対に大丈夫だから。

ーーーーーー

【数カ月後】  


(扉を開ける音)

おつかれー。
お、今日は顔色いいじゃん。

ってか今何か隠さなかった?
えーなんか書いてたよな?
俺が来た瞬間、慌てて隠したじゃん。
もしかして絵でも書いてた?
見せて見せて。

はは、そんなにダメダメ言うなよ。わかったよー。
もう言わないって。

【彼は病室から窓の外を見る】

あーほら見て、窓から見えるそこの木、もう花が咲いてる。
なんかいつの間にかすっかり春って感じだなー。
月日が経つのが早いわ。
ん?毎日お見舞い来て疲れないかって?
ぜーんぜん。
愛する妻と、病室デートっていうのもなかなか楽しいもんですよ。はは。

(コンコン)

はい、どうぞー。
あ、先生。
え?妻の病状について?はい。

え、ええっ、本当ですか?!
退院も視野に入れていいって事ですか?

やった!いい方向に向かってるって!
お前、頑張ったじゃん!
あ、先生、ありがとうございました!

(医者が扉を開けて出ていく音)

退院かぁ。
あれだな、新居探さなきゃな。
まぁ、退院しても通院は必要だろうからこの病院の近くでさ、あーそうだ、スーパーとかも近い方がいいよな。
しばらくは車椅子も必要だろうし、バリアフリーな事も考えないと。
え?俺、テンション高すぎる?
だってさー嬉しいんだもん。
お前の体の調子が良くなってるなんて言われたら、嬉しくなるに決まってるだろ
もうこれは、あれだよ、二人の愛の力ってやつだよ。

はは、クサいとか言って笑うなって。
いいだろ、こんな時くらいクサい事言わせろってー。

あ、そうだ、落ち着いたらさ、ウエディングドレス着て写真だけでも撮ろうよ。
絶対にキレイだよ、俺が保証する。
世界で一番キレイな花嫁になるに決まってる。

あーめちゃくちゃ楽しみだなぁ。
夫婦になれただけでも幸せけどさ、二人で今よりももっともっと幸せになろうな。

ーーーーーーー

【数カ月後】
 
(少しつかれた様子で)ただいまー。
今日は、なんとお土産がありまーす。
ほらジャジャーン、有名店のケーキとシャンパン!
お前ここのケーキ好きだっただろ?

え?いきなりどうしたのって?
まぁそりゃ気になるよな、はは。
実は、俺、昇進することになってさ。
そのお祝いってやつ。
なんか、がむしゃらに仕事に打ち込んでたら、いつの間にかすげぇ評価されて、晴れて管理職になったって訳。
はは、びっくりした?

えっと、グラスどこだっけ。
あ、あったあった。

【彼はシャンパンの用意をしながら、語りかけ続ける】

あーでもさ、昇進はもちろん嬉しいんだけど、一つだけ残念な事があって。
本社勤務になるから、引っ越さないといけなくなっちゃった。
このマンションからはちょっと遠過ぎるし……また物件探さないといけなくて。

はぁ、本当はここから引っ越すなんて嫌なんだけどなー。
だってさ、この部屋にはお前との思い出がぎゅっと詰まってるじゃん。
仕事から帰った俺を、お前が車椅子に座りながら笑顔で毎日出迎えてくれたなぁとか。
あのベッドからお前をお姫様抱っこで抱き上げて、ソファに連れて行ったなぁとか。
俺が料理作ってるのを、お前が後ろから幸せそうに見てくれてたなぁとか。
二人で夜中に怖い映画見てて、お前が子供みたいに泣きそうな顔でしがみついてきたなぁとか。
え?そんなこと忘れてって?
やーだよ。全部俺の大切な思い出だもん。
絶対に忘れないよ。

(だんだんと涙声になっていく)忘れない、忘れる訳が無いだろ。

なぁ、お前が今、ここにいてくれたら、俺の昇進、喜んでくれたかな?
おめでとうって、この写真の中のお前みたいにとびっきりの笑顔で言ってくれたかな?

はぁ……お前のウエディングドレス姿、本当に綺麗だなぁ。
思った通り、世界で一番キレイな花嫁だ。
嘘じゃないって、本当だって……ううっ、ひっく。

(泣きながら)会いたい、会いたいよ。
会ってお前を抱き締めたいよ。


【その時、インターホンが鳴る。
彼は涙を拭った後、玄関に向かう】


はい、どちらさまですか?
え?郵便?
タイムカプセル郵便?

あ……はい、ありがとうございます。
ご苦労さまです……。

(扉を締める音)

タイムカプセルって……未来に送る手紙ってことか?
誰から……?
えっ……一年前の、アイツから俺に?
あっ、これって……もしかして病室で書いてたあの……。


【彼は動揺しつつ、封を切り手紙を読んでいく】


(手紙を読みながら号泣)ううっ……

ありがとう……。
俺、精一杯生きるよ。
本当に、ありがとう。

ずっと、ずっと……愛してるよ。


END
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