縁コウキ専用台本です。
読み物としてお楽しみ下さい。

***


(静かな部屋の中で、チッチッチッ……と時計の針が進んでいる音)

(深いため息)はぁぁ、おっそいなー。
もう日付変わっちゃうじゃん。
やっぱり会社の飲み会なんて、行かせるんじゃなかったなー。

なんだよ、終わったら迎えに行くから連絡しろって言ってたのに。
アイツだって「11時には終わると思うー」とか言ってたくせにさ。
あーもう、無理、このまま部屋の中でじっと待つなんて出来ない。

(カチャ……と車のキーを持ち上げる音)

……飲み屋街まで迎えに行くとするか。


***

【駐車場に停めた彼は、車のドアを開けて外に出ていく。そして彼女から聞いていた店を探し始めた】

えーっと、確か……店の名前はなんっていってたかな……
それにしても、金曜日だからか?
やたら飲み屋街を歩いてる人多いなー。
あっ、あの店か…………って、は?
(キレ気味に小さな声で)何やってんだ?アイツ……店の前で楽しそうに男と立ち話してんじゃん。
……なんなんだよ。

【彼は腹立たしい気持ちを落ち着かせようと、大きなため息をついた】

はぁ、ったく。

【彼はイライラを必死に隠しつつ、彼女達の方に近づいていく。そしてわざと明るく話しかけた】

おーい、まだ終わんないのかー?
(男の方を見ながら愛想よく)……あ、どうもー!
会社の方ですか?あ、上司さんでしたか。
俺の彼女が、いつもお世話になってまーす!


【彼はニコニコしつつ彼女に近づき、不機嫌そうに耳元で小声で囁く】


こんな時間まで、男と何を楽しそうに話してんの?


【彼は再び愛想よく同僚に向かって声をかける】


ほらもうこんな時間でしょ?
なので、大事な彼女を迎えに来ちゃったんですよ。
話が弾んで彼女を引き止めてしまって申し訳ない?
(明るくも少し嫌味っぽく)はは、ですね!僕心配しちゃいましたよ〜!
とりあえず、彼女はこのまま連れて帰りますねー!
失礼しまーす!


***


【自宅に戻ってきた2人】

(ドアを開けて部屋の中に入っていく音)

え?なんで俺が帰り道ずっと無言だったかって?
……お前、本当に理由がわからないのか?
飲み会、何時に終わってた?
11時って……じゃあ一時間以上もアイツと立ち話してたのかよ!?
俺、終わったら連絡しろって言ってたよな?!
すぐに迎えに行ってやるって、言ってたよなぁ?!

は?いつもの俺と違って怖い?
俺を怖くしてんのはお前だろ。
なんで嫉妬させるような行動するんだよ。
本当は飲み会なんて行かせたくなかったのに、必死に我慢して笑顔で送り出してやったのに。

なに?俺が別人みたい?
何言ってんの?
いつもお前に見せてた穏やかで優しい顔も、本当の俺だよ。
でも、こうして嫉妬心を剥き出しにして詰め寄ってる顔も、本当の俺だ。
好きな子が俺だけのものだって安心してる間は、穏やかでいられる。
いくらでも甘い顔を見せられる。
だけど俺だめなんだよ、少しでも危機感を抱くと駄目なんだ。
大切な人を奪われそうになると、途端に理性的ではいられなくなる。
幻滅した?
お前はさ、いつもニコニコしながら、自分に優しくしていた俺が好きだったんだろ?
こんなに独占欲の強い男だって知って、失望しただろ?


【しばらくの無言のあと、彼女はしくしくと泣き出す】


泣くなよ……ごめん、怒り過ぎた。
大きい声も出しちゃったな、ごめんな。
 
(涙混じりの声で)俺さ、いつも恋愛する度にこうなっちゃって、結局振られるんだ。
重いとか言われて……まぁ、自分でも重いと思うもん。
だからさ、今お前が考えてる事、当ててやる。
俺と、別れたい……って、思ってるだろ?


【彼女は泣きながら必死に頭を横に振っている】


違う?……いいよ、無理しなくて。
は?え……っ


【彼女は涙を流しつつ、彼の胸元にぎゅっとしがみついた】


いきなり抱きつかれたら、びっくりするだろ。
ん?なに?
「飲み会の後、すぐに連絡しなくてごめん」?
うん、それは……ほんとに心配した。
え?あの男は今のプロジェクトのリーダーで、仕事の話をずっとしてた?
……うん、そっか。
俺、あんな感じでお前を連れ帰ったから、お前……会社でなにか言われちゃうかもな。
面倒な彼氏がいるって。
(悲しそうに……)あ、でも「もう別れましたから」って言えばいい。
そしたらきっと、お前が悪く言われることは無いから。

ん?嫌?何が嫌なんだよ。
別れるのが、嫌?
え……ほんとに?
「会社の人には、自分を大切にしてくれる彼氏だって自慢する」?
でも俺、お前の会社に長話するほど親しい男がいると知った以上、これからもっともっとお前の事を束縛しちゃうと思う。
それでもいいって、本気で思える?

は?
俺が、嫉妬して怒ってくれたのが少し嬉しかった?
「いつも私が何をしても怒らずニコニコしてたから」って……
それは、お前に嫌われたくなくて、必死だったから。

ん?
今日、感情的になる俺を見て、愛されてるんだって実感した……?
そんな風に、思ってくれるのか?
じゃあ俺、これからもお前と一緒にいてもいいのか?
そっか……ありがとう。

え?「私も心配されるような行動は慎む」?
うん、そうしてくれると助かる。
お前の事を好き過ぎて、俺、行き過ぎた行動とっちゃうから。
たくさん愛されて嬉しい?
そう言ってくれると、俺も嬉しい。
本当に、ありがとう。

END
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