縁コウキ専用台本です。
読み物としてお楽しみ下さい。

【クリスマスの夜】

(カタカタカタカタとキーボードを叩く音。机の上のスマホがブーブーと鳴っている音)

(ぶつぶつと焦ったように独り言)あーもう、待ち合わせ時間過ぎてんじゃん……絶対にアイツ怒ってる、めっちゃ電話きてるし……。

【彼は周りに聞こえないようにそう言った後、ひたすらパソコンに向かい仕事を続ける。その間もずっとスマホは鳴り続けていた】

(だんだんイライラしたように)あーもうっ、どんだけ鳴らすんだよ。
ったく。
今、出られねーっつーの。

(スマホをタップする音、同時にブーブーという音が止まる)

【彼はスマホを触り、タップして電話を切った。するとそのタイミングで同僚が話しかけてきた】

え?あぁ、悪い。バイブうるさかったか?
今、通話切ったから、もう大丈夫。
いや、実は彼女からずっと電話来ててさー。
あ、お前も?彼女から早く仕事終わらせろって連絡来てんの?
ははっ、俺と一緒じゃん。
でも仕方ねぇよな、俺達仕事してんだからさ。
女ってそこらへん全然わかってねぇよな。
こっちだってわざわざクリスマスに、残業して仕事なんかしたくねぇよ。
え?電話でなくて良かったのかって?
いいよいいよ、どうせ「早く待ち合わせのレストランにこい」って、文句言ってくるだけだから無視でいいって。
ったく、メンドーなんだよなぁ。アイツって。
なに、お前んとこの彼女も面倒くせーの?
そうそう、クリスマスのデートってそんなに特別かよって感じだよな。
とりあえずとっとと仕事終わらせて、お互いダルいけど彼女の機嫌とりにいくとするか。

【彼はため息をつき、少しの罪悪感を抱きつつカタカタとひたすらキーボードを叩いたのだった】


***


よし、終わった。
じゃあ、お先に失礼しまーす!

【彼は会社を出ながらスマホを取り出し、彼女に電話をかける】

(呼出音のあと)あ、俺!連絡遅くなった!今仕事終わったからすぐにそっちに行くわ!
先に店の中入ってんだよな?え?なんて?
いや、「もう来なくていい」って、え、なんだよ。
は?つーか、なんでそんなに怒ってんの?
そりゃ待ち合わせ時間に遅れてるのは悪かったと思うけど、仕事だったんだから仕方ないだろ。
え……通話状態になってたよって何?
えっ、ええ、あ、え?
俺、確かに着信止める為にスマホタップしたけど、通話切るんじゃなくて、間違えて通話に出てたって事?
あ……っと、その……全部、聞いてた……のか?

【彼は同僚との会話を聞かれていた事が分かり、真っ青になる】

いや、あれは……な?
全然俺の本心じゃないっていうか……あっ、ちょっ……
電話、切られた!
あーもうっ、何やってんだよ俺。

***

(全力で走った事で息切れしている)ハァハァハァハァ
あ、いた……!
おい!店に行ってもいないから探し回ったじゃんか。
はぁはぁはぁ。
とにかく、ごめん!本当にごめん!!
あっ、待って、行かないで、頼むから話を聞いて

【「私が面倒なんでしょ?」】

違う違う!お前の事面倒とか思ってないって!
俺残業しながら、遅刻しちゃうと思ってスゲー焦ってて
お前からはずっと連絡き続けるし、かと言って仕事を放り出して帰るなんて出来ないしさ。
正直イライラしてたのは認める。
その時、同僚に話し掛けられて、そいつも彼女に怒られてるって聞いたら、なんか、仲間意識みたいなのが芽生えて、
その、結果として、悪ノリして愚痴ばかり言い合う形になっちゃって……。
本当にごめん。
ん?たくさん電話したのは、連絡取れないから事故にでも合ったのかと思って心配したから?
あ……うん、だな、仕事で遅くなるならそうだと、ちゃんと伝えるべきだった。
……っ、あぁっ、泣くなよ、いや、泣くのも当然か。
今日のことは本当にごめん。
ん?今日だけじゃない?
いつもいつも仕事ばかりで、お前が我慢して当然だと思ってる所?
そんなつもりは……っ、あ、いや、心のどこかで仕事って言えば何しても許されるって思ってた所はあるかもしれない。
ドタキャンしてもその後埋め合わせとか、全然してなかったもんな。
ずっと我慢させちゃってたな?ごめんな。

【彼は泣いている彼女をぎゅっとだきしめる】

抱き締めさせて?ぎゅー。
よしよし、クリスマスなのにこんなに泣かせちゃって、本当にごめん。
こんな彼氏で嫌になった?
ん?大好きだから余計に辛い……か、そっか。

あっ……そうだ。

【少し間を置いて、抱きしめていた手を緩める彼。そして時計を確認する】

っ、うわぁ、もう12時過ぎてる。
本当は25日に渡したかったのに……。
俺のバカ……。

【「ん?どうしたの?」】

あのさ、実はクリスマスディナーを食べながら……お前にこれを渡そうと思ってたんだよな。

(ガサゴソと探す音)

この、指輪。
ほら、前にジュエリーショップの前を通り掛かった時、お前が可愛い!ってすげぇはしゃいでた指輪あるじゃん。
あれ、なんだけどさ。
あ、やった、笑顔になってくれた!

早くこれ渡して……お前が喜ぶ顔を早く見たいって思ってたのにさ、なかなか仕事片付かないし、それで余計にイライラしたのもあった。
ん?あ、あぁ、まぁ安いもんじゃなかったけど……そんな事お前が気にしなくていいって。
だって婚約指輪の相場ってそのくらいだろ。
 
【「え……?」】

だから、その、俺と結婚しないか?
本当はクリスマスである25日にプロポーズしたかったんだけど、俺のせいで26日になっちゃってごめん。
知っての通り俺は気の利かない男だし、お前を無意識に傷つけちゃう事もあるかもしれない。
だけど、愛情は誰にも負けない自信がある。
何より、俺はお前と、一生一緒にいたい。
だめ、かな?

【緊張して返事を待つ彼、彼女は指輪を見つめたまま考え込んだ後、「よろしくお願いします」も返事をした】

えっ、えええっ、いいのか?!
やっっったぁぁ!!
あ……(慌てて周りの目を気にする)、ごめん、ここ大通りだった。
ごめんごめん、大きな声ではしゃいじゃって。
でも、嬉しくてたまんなくてさ。
ねぇ、もう一回抱きしめさせてよ。
ぎゅー。

これからも、ずっとずっと、一緒にいような。

end
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