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へぇ、今日兄貴サークルの飲み会なんだー?ふーん。
いや、別になんでもないよー。
ほら、はやく行きなよ、遅刻しちゃうよ!
はいはい、いってらっしゃーい!
【兄が出ていったのを見送った彼は、小さな声で「よしっ」言いながらガッツポーズをとる】
さてと、これで兄貴は飲み会で夜遅くまで帰ってこない。
父さんと母さんは夫婦で旅行に行ってる。
はぁ、我ながらなんてラッキーな状況なんだよ。
っと、今何時だっけ?
あ、ヤバッ、もうすぐ来ちゃうじゃん。
【慌てて彼が家の中を片付けていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。彼は嬉しそうに玄関に駆け寄っていく】
はいはーい!
(ガチャ)こんばんはー!
わーい、本当に来てくれたんですね。
昨日たまたま会った時、今日父さんたちが留守だって知って、君がご飯作りに行くって言ってくれたじゃないですか。
だから、僕すごく嬉しくてワクワクしながら待ってました。
【「お邪魔します。あれ?今日兄くんは?」】
え?兄貴……うーんと、兄貴はサークルの飲み会なんです。
(小声で独り言のように)君が来てくれるって知ってたら、飲み会に行かずに家にいたかもね。鉢合わせしないで本当に良かった……。
【「ん?何か言った?」】
ん?いや、なんでもないですよー。
それより、何を作ってくれるんですか?
えっ、カレー?!やったー!
実は僕、昔から君のカレーが大好きなんです。
ほら、よくうちの両親が仕事で遅くなる時カレー作って持ってきてくれたじゃないですか。
その時はよく兄貴と、君のカレーを取り合いになっちゃいましたよ。はは。
あれも良い思い出だなぁ。
【彼はため息をついた後、少し間を開けて、話を続ける】
でも今日は兄貴がいないから、独り占めできるんですよね。
カレーも、君も。
【彼女は料理を作る手を止めて、彼を見つめる】
ねぇ、なんでそんなに平気な顔が出来るんですか?
こうして家の中に僕と君、二人きりなのに、どうして警戒しないんですか?
【「それは幼馴染の君を信頼しているからだよ?」】
僕を信頼してる?
それってつまり、僕の事を男じゃなくて子供扱いしてるって事なんですよね。
もちろん信じてもらえているのは嬉しいです!でも全く警戒されないっていうのはやっぱりちょっと辛いです。
何故って、その理由……分からないんですか?
本当は分かっているのに、3人の関係が変わってしまうのが怖くて気づかないふりをしているんですよね。
そのくらい、僕も兄貴も分かってますよ。
君は優しいから、どちらが傷つくのも嫌だって考えてくれているんでしょう?
はは、その顔は図星かな?
【彼女は何も言えず、気まずそうに俯いている】
ごめんなさい、そんな風に困らせてしまって。
だけど、同時に同じ人を好きになってしまった以上、僕も兄貴も傷つく覚悟は出来ているんですよ。
ただやっぱり、僕は君が大好きなので、僕を選んでほしいと思っています。
【彼は彼女の方を向き、真剣な顔で見つめる。
その視線から、彼女は目をそらせない】
どうか聞かせてください。
君は僕と兄貴……どちらを選ぶんですか?
end