豹変系男子WEEK【ベノくん(エルク)専用】
***
【病室にて、彼女は意識のない自分の彼氏に付き添っている】
(コンコンとノックの後、ガラガラと病室の扉を開く音)
失礼します。
って、えっ、あれ……。
なんで、お前が……ここに?
【そこに一人の医者が現れ、彼女を見て驚きの声を上げた】
久しぶり、だな。お見舞い?
もしかしてその交通事故の患者さん、お前の今の彼氏だったのか?
そっか。
……あぁ、昨日この病院に運ばれてきた時、彼は既に意識がなかった。
でもまさか、3年前に別れた元カノの、今の恋人だなんて思いもしなかったよ。
え、そうそう。俺が彼の主治医。
こんな偶然、あるんだな。
【彼はあくまで優しく穏やかな態度を貫く】
彼の、容態?
あー……うん……流石に家族以外の人間にペラペラ喋ることは出来ない。
え?婚約者……そう、か。
お前、結婚するのか……彼と。
……分かった、本来なら話すのはよくないんだが。
(彼はとても言い難そうに)ちょっとこっちにきてくれ。
【彼女と共に廊下に出た彼は、彼氏の症状について説明する】
言い難いんだけど、彼の状態はかなりよくない。
脳を損傷していて、このまま目を覚まさないか命を落とす可能性もある。
【彼は泣きそうになっている彼女に優しく声をかけ続ける】
話を続けても大丈夫大丈夫か?
手術をすれば状態が良くなる可能性はあるが、正直言ってかなり難しい手術だし、成功率も高くない。
【彼女はショックで、目に涙があふれる。彼は言葉を続けた】
そんなに泣くなって。
俺が腕のいい医者だってことは、元カノのお前ならよく知ってるだろ。
実際俺はこれまで、いくつも同じ手術に成功してるしな。
この手術にも全力を尽くすから。
だって、お前の大切な人なんだろ?
【彼は穏やかにほほえみ、彼女は泣きながらお礼を言う】
頭なんて下げるなって。
医者として患者さんを救うのは当然のことなんだから。
だからほら、泣き止めって。な?
【そういいながら、彼は優しく彼女の肩を叩く】
おい顔色、真っ青じゃねぇか。
昨日から寝てないって、そりゃフラフラになるのも仕方ねぇよ。
婚約者が心配なのはわかるけど、一度帰って仮眠をとってきたらどうだ?
お前まで倒れたら、彼も悲しむぞ。
【その提案に、彼女は考え込んだあと、小さく頷く】
あのさ、俺ちょうど今から帰る所なんだよ。
よかったら、自宅まで送ろうか?
いや、そんなに遠慮しなくていいよ。
俺とお前の仲だろ?
一度は好きになった女が困ってたら、力になりたいって思うのは当然じゃねぇか。
【「ありがとう、じゃあお言葉に甘えるね」】
あぁ、じゃあ病院の正面玄関で待ってて。
車回してくるから。
いや、お礼なんていいって。
あぁ、じゃあ待ってろよ。
***
【言われたとおり彼女が病院の正面玄関にいると、目の前に一台の車が停まった】
(車が止まる音)
お待たせ。さ、乗って?
(彼女が車に乗り、助手席のドアが閉まる音)
よし、じゃあ車を出すよ。
っと、あれ、エンジンがかかりにくい。
この車もそろそろ買い替え時かなぁ。
ボンネット、少し凹んじゃってるし、このままじゃカッコ悪いよな。
お前もそう思わない?
あ、エンジンかかった。
んじゃ出発するよー。
【「ほんとに親切にしてくれてありがとう」と、彼女はお礼を言う】
なんだよ、そんなに他人行儀にお礼なんか言っちゃって。はは。
昔はよく、こんな風にお前を助手席に乗せてドライブしただろ。
ん?お前の今の住所?
いや言わなくていいよ、ちゃんと知ってる。
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【彼の言葉に、彼女はハッとして真っ青に顔色を変える】
3年前にさ、いきなり「他に好きな人ができたから別れたい」なんて言われた時は、正直参ったよ。
俺、お前の事本当に好きだったからさ。
フラレた後、正直生きていく気力がなくなるくらい落ち込んだ。
落ち込んで落ち込んで、気がつくと心の中が憎しみの感情でいっぱいになってたよ。
あんなに、大切にしてたのに……って。
ん?どうした?
そんな不安そうな顔になって。
は?なんでお前の今の住所を知ってるのかって?
言わなきゃ分からない?
3年間、ずーっとお前の事調べてたからに決まってるだろ。
さっきは久しぶりに会ったみたいな態度をとったけどさ、
本当は全部知ってたよ、彼と婚約してることも、何もかも。
【彼女はガタガタと震え、車から降りようとする】
ねぇ、なに車から降りようとしてんの?
今車から降りたら、お前の恋人は死んじゃうかもよ?
それでもいいのかよ。
あの難しい手術を成功させる事が出来るのは、ここらへんの医者じゃ俺くらいだろうしな。
【婚約者を人質にとられた彼女は、逃げる気力を失い、力なく助手席に座り続ける】
お前と彼が付き合い始めたって知った時はさ、どうせすぐに俺の所に戻ってくると思ってたし、そんなに焦らなかった。
だって、俺とお前は結ばれる運命だって信じてたから。
それなのに、婚約までしちゃうなんてさぁ、そりゃ行動を起こさないとヤバいってなるだろ?
【彼は運転しながら、差も当然かのように説明を続ける。
彼女は恐怖で震え続けていた。】
今のこの状況さ、たまらないよな。
彼の命を、救えるか救えないか、俺の手に掛かってるっていうね。
あー他の病院に行きたかったら行けばいいよ。
あんな状態、手術しようなんていう医者はどこにもいないだろうから。
でも優秀な俺なら、彼の意識を取り戻すことが出来るかもしれない。
なにその怯えた顔、そそられる。ははは。
【「私に何を望むの?」】
お前に何を望むのかって、簡単なことだよ。
また俺を愛してくれたらいい。
もう二度と、俺から離れないって約束してくれたらいい。
そしたら、彼の治療には全力を尽くす。
【「だったら、貴方に従います」と彼女は泣きながら告げる】
だったら従いますなんて、素直だなぁ。
そんなに彼が大切なんだ?
まぁいいや、これからじっくり俺の良さを思い出させてやる。
今からどこに行くのかって?
決まってるだろ、俺の自宅。
もう二度と俺以外を愛さないように、永遠にお前を閉じ込めなきゃ。
は?彼にはもう会えないよ、当たり前だろ。
だってさ、彼が意識と取り戻した後に、また勝手にさよならされたりしたら嫌だしさー。
お前は彼の命と引き換えに、俺の所有物になったの、わかる?
その身体も命も、これから俺が管理してあげるから。
あー大丈夫大丈夫、痛いことなんてしない。
理性は失っちゃうかもしれないけどな、ははは。
ねぇ、彼、即死じゃなくて良かったね。
まぁ俺としてはどっちでも良かったんだけどさ。
END