ハンター試験会場

薄暗い地下だというのにそこには百人近くの人々がいた。柄の悪い者、精悍な顔立ちの者、自信に満ちた表情の者など様々である。しかし、これだけ人がいるというのに会話がなされない。嫌に静かな空間である。そんな静寂とした中、この地下の入り口であろうエレベーターの扉が開いた。と同時にのん気で大きな声が響いた。
「わあ〜暗い!ここが試験会場なんだねー」
そこに居る者の大半が目を向ける。エレベーターから現れたのは青年だった。全身真っ白な着物が目立っている。頭の中心には風車の形をした髪飾りをしており、そこから触角のように長い二束の髪が後ろに向かって弧を描くように垂れ下がっていた。青年は大勢の視線を気にする事なくスキップするようにしてエレベーターを降りる。そして辺りをきょろきょろと見回した。
「番号札です」
背が小さく丸い顔をした人物がプレートを青年に差し出す。その差し出されたプレートを受け取って青年は目を見開いた。
「わあっ!77番!!ラッキーセブンだ〜!嬉しいっ!」
にこにことまるで子供のように喜ぶ青年に「良かったですね」とプレートを渡した人物が言う。その言葉に「うんっ」と返し、胸にプレートを付けた青年は再び辺りを見回した。大半の人間はまだ彼を見ている。というより品定めをしているようだった。青年が一体どれほどの手練れなのか、知っておいて損は無いといった所だろう。青年は相変わらず周囲の視線を気にしていない。鼻歌を歌いながら辺りを見回し歩いていく。まさにのん気そのものだった。自分が品定めされているなどこれっぽっちも思っていないだろう。しばらく歩いているうちに青年は足を止めて「あっ!」と声を上げる。
「ヒソカちゃんっ!もう着いてたんだねっ!」
青年はそう言ってスキップするようにしてある男に近付いていった。同時に周囲の視線が鋭くなる。
「やあミカゼ」
『ヒソカちゃん』と呼ばれた男は片膝を立てその場に座っていた。逆立った水色の髪に道化師のようなメイクが特徴的だった。『ミカゼ』と呼ばれた青年はうきうきとしながら胸を張りプレートを誇示する。
「あのねヒソカちゃんっ!これ見てよ!おれの番号!77だって!ラッキーセブンだよ!凄く良いでしょ〜!」
「うん、君によく似合ってるよ」
ヒソカはにっこりと微笑み賞賛する。その言葉にミカゼは気を良くしてその場でくるりと回った。
「ありがとう!ヒソカちゃんは44なんだね!ヒソカちゃんらしくてかっこいい数字だと思うよっ!」
「そうかい?」
44という不吉な番号を誉めるミカゼ。これは決して皮肉ではない。心からの言葉であった。ミカゼは「うん!」と肯定したあと「あ」と言葉を続けた。
「おれ、他にもどんな受験者が来てるのか見てくるね!もしかしたらお友達になれる人が見つかるかもっ!イルミちゃんももう来てるかなーっ」
「ああミカゼ、彼はまだ……」
ヒソカは言葉を挟む。が、
「じゃあまたあとでねヒソカちゃんっ!」
ミカゼはさっさと行ってしまった。その事に対してヒソカは特に残念がる様子もなくミカゼの行く先を見届ける。
「……あーあ、行っちゃった。イルミはまだ来てないのに」ぼそりと呟いたヒソカは手に持っていたトランプをいじる。そしてにやりと怪しく笑った。
「おい……見たかよ!あいつヒソカと話してたぜ!?」
「ああ……あいつもああ見えてヒソカと同類なんじゃ……」
ひそひそとそんな話し声が聞こえる。ヒソカは特に気にする素振りもなくその場から立ち上がった。ミカゼが行った先を見やる。
「彼ならこの試験、たぶん合格するだろうけど……遊びすぎて落ちたりしないか心配だな」
のん気そのものなミカゼを案じる言葉は、薄暗い闇の中に消えていった。
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