張苞
「いいか、いちこ。絶対に無茶するんじゃねーぞ」
「分かってるってもう。いちいち子供扱いされても困りますよ」
民から村を焼かれたり荒らされたりしている、助けてくれと嘆願書が届いた。張兄妹、関興殿とで山賊討伐へ向かう道すがら、ずっとこんなやり取り。
先頭を行く張苞殿は、真後ろに三人で並ぶ私たちを一人ずつ振り返りながら話しかけてくる。その内容はどれも戦いに関することと、心配しているということばかり。関興殿は慣れてるのか何も言わず、星彩は「兄上、もういい」とばっさり言い切っていた。
「兄上、正直いちこもくどいと思っていると思う」
「う、そうか」
私の機嫌が傾いて来たのを見てか、星彩は追い打ちをかけるような一言をぼそり。張苞殿はしょげ、とした様子で前に向き直った。
このしょげた背中が、星彩にずばりと言われた時の張飛殿にとても似ているといつも思う。親子して可愛いなと思ってしまう。
「張苞殿が心配してくれるのはとっても有難いですよ、頼りがいがあるし」
「お、本当か!」
「でもそこまで言わなくても」
「そうか…」
ぱあっと明るくなったと思えばまた凹む素振りを見せたりして、この人は見てて飽きない。星彩が何事にも動じない冷静さを持ち合わせているのは、張苞殿が感情とか感受性の大部分を持って行ってしまったせいなのではないかと疑いそうにもなる。そんなわけはないのだけど。
星彩は父と兄を反面教師にして今日まで成長して来たんだろうなと思う。
「張苞は、特にいちこにはしつこい」
「あ、やっぱりそう思います?
私二人よりも言われる量も回数も多いって思ってたんですよね」
「そ、そうか?たまたまだろ」
「いやいや多いですよ私だけ」
私は星彩と関興殿よりも冷静さに欠けるし、力も劣る。星彩のように意志が強いわけでもなければ、関興殿のように策を考えるのが好きなわけでもない。
注意されがちなのは自覚ある。あるけど、ああやってみんなの前で重ねて言われると困る。私のささやかな自尊心が抵抗する。
「兄上はいちこが気になってるから仕方ない」
「気になってるって?」
「こら星彩!」
「張苞はいちこのことが」
「か、関興!」
「こら、お前たち」
突如、後ろから爽やかな声が聞こえた。振り返ると声の主、趙雲殿がいた。二世代目の若者だけで行く私たちを心配して来てくださったらしい。しかし無駄話しているところを聞かれてしまった。強制的にお喋りが終了する。
「山賊とはいえ、多くの民が命を落とす事態になっている。気を引き締めてかかれ」
「はい!」
やっぱり趙雲殿がいると引き締まるなぁ。もはや私たちの指導役になったも同然といった感じだけれど、まさにはまり役だと思う。
「ねえ星彩。さっきのこと、後でちょっと聞かせて」
「分かった」
小さめの声で隣にいる星彩に声をかけた。気になってるって、どういうことなのか知りたい。張苞殿が妙に焦っていたから特に。というか地味に関興殿も知っているって、知らないのは私だけか。いつも四人でいることが多いのにちょっとさみしい。
「見えてきたぞ!」
山賊が築いたであろうお粗末な砦が見えた。兵士たちが士気高くおう、と声を上げる。
とりあえず今は怪我しないようにお仕事頑張ろうと思う。帰り道はきっと雑談させてくれると思うから、元気で帰れるようにしないと。
均衡はくずれる
この後私はただの仲良し四人組が終わりを告げていたことに気付くことになる
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