左慈
「駅前に10時でしょ?分かってるって、今家出るから」
休日はいつも昼頃に起き出して来るというのに、今日は朝の8時からばたばたしているは小生が孫のいちこ。携帯電話で何やら親しき者と手短に会話をしたのち、洗面所を占領して癖っ毛を一生懸命直している。手間に思っているのか、鏡に映る顔は気難しいものだ。
「おじいちゃん何見てんの」
「おや。目障りだったかね」
これはこれは厳しい口調。むすっとした顔を向けられてしまった。見守るのも小生の役目と思ったのだが。
「お父さんもお母さんももう出掛けたんだ。おじいちゃんは朝ごはん食べた?」
「うむ。いただいたよ」
新聞を広げて読んでいると、小生の目の前に座ったいちこが食べているのは食パン2枚だけのようだ。その量では足りるまい。
「ふむ、これを食べて行くが良い」
「…まーた変なことしてる」
何もないところから蜜柑を出すと、怪訝そうな顔をして見せた。小生の術は見世物ではないが、孫の栄養の取り方を気にする上でこれは致し方ないことであろう。
取り出した蜜柑を差し出すと、怪しんだ目を向けたままで受け取って皮を剥き、食した。
「ん、もうこんな時間じゃん。
じゃあおじいちゃん、私出掛けてくるから」
「うむ。気をつけて行ってくるが良い」
ぱたぱたとせわしなく片付ける。
早足で行くいちこを見送りに玄関に立った。よくよく見ると、爪まで洒落たものになっている。先ほどの髪への細かい配慮を為す様子といい、これは友と会うというよりも、それ以上の人間に会うのではなかろうか。
「今日会いに行くのは誰なのかね」
「いや普通に友達だよ。
…心配しなくても彼氏じゃないよ」
「ふむ」
「じゃあね」
戸を開け、去り際に見えた顔は困惑の表情を浮かべていた。
小生、孫の行く末を見守る者。しかし、これはお節介と言うべきものであったか。
じじの心孫知らず
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