典韋


まともにやりあっても勝てっこない鍛錬にも飽きてしまい、今に至る。可愛さの欠片もない見た目にそぐわない花。それはそれはもうおかしくって腹を抱えた腕と背中が元に戻らない。腹筋がひくついて止まらないのだった。

「あーもうほんっと傑作!」

「お前やっていいことと悪いことがだな…!」

休憩がてらしばらく目瞑っててと言うと、典韋は座って目を瞑っててくれた。野花で花冠と首飾りを作り、彼の頭と首にそれをかけてやった。すると鍛錬場にいた者たちが笑い声を上げ、典韋はようやく目を開ける。で、照れながら声を荒げた。

「意外と似合うのでは?」

「なわけねえ!」

楽進殿、さらっと素敵なボケをありがとう。さらに鍛錬場がどっと沸いた。
典韋は見た目の厳つさとは裏腹に案外素直なのだ。いつか賈ク殿のせいで死にかけたこともあったけど、そうなったのもこの素直な性格ゆえだからではないだろうか(私は現場にいた訳ではないので知らないが)。

「もう外すぜ」

「むしろ気付いた瞬間に外しててもおかしくないのに」

「やはり似合っているのでは」

「なわけねえって…」

「おお、悪来。今日は随分と親しみやすい格好をしているのだな」

典韋が花を外そうとした時、ちょうど良く曹操様が現れた。鍛錬場を見下ろしながら、ふ、と小さく笑ってらっしゃる。私はその仰せにまた腹を抱えそうになってしまった。親しみやすい格好って。

「い、いや殿…いちこに悪戯されちまったんでさあ」

「私は似合うと思って作ってあげたんですよ!
曹操様も似合うと思いませんか?」

「ふむ。屈強な筋肉にも、花は存外似合うのだな」

世辞か真面目に仰っているのか分からないけど、どっちにせよ私の腹にはじわじわと笑いが襲いくる。離れたところでささやかな笑い声が聞こえるから、やっぱり可笑しいんだろう。色々。
曹操様が来てから外すのをやめてしまったから余計笑えてしまう。

「次の戦での功績次第では、新しい武具を作らせるとしよう。
…花柄付きでな」

「と、殿…勘弁してくだせえ」

「いちこと揃えてな」

「ええっ、私もですかー!」

連帯だ、と言って曹操様は笑った。つられて皆も笑う。堪えていた私も我慢出来ずにまた腹を抱えてしまった。
典韋は完全に花を外す頃合いを無くしてしまい、似つかわしくないその姿のまま笑っている。片付けて鍛錬場を出るまで付けっ放しだった。
あれ、やっぱ満更でもないでしょ。



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