小喬


私には姉と呼べる人がいる。
血縁関係はないが、呉の武官である夫に嫁いできた頃から大変世話になったお方だ。明るくて優しくて、まさに太陽のような人。
時には衣服を譲ってくださったり、お化粧の仕方を教えていただいたこともあった。

でもそれも以前の話。
今は彼女は建業を出て盧江のあたりに住んでいる。会いに行くのも一苦労だが、夫も世話になっていたので私が会いに行くと言えば二つ返事で許してくれる。
なんなら孫権様も費用を出してくれるほどだ。
それほど呉に貢献した人物の嫁であった。

「小喬姉様、会いに来ましたよ」

「わあ、嬉しい!本当にいつもありがとう」

呉の躍進に多大な功績を残した亡き周瑜様の妻、小喬様。
齢三十を越えてもなお衰えない美しさには、同性から見ても息を呑むものがある。
今は孫権様のご好意で数人の使用人と共に暮らしている。

「前に会ったのは半年前かしら。元気だった?」

「この通り、年に数回五百里の距離も越えて来るくらいには元気ですよ」

「それもそうよね。本当に嬉しいな」

「姉様も変わりないですか?」

「もちろん。でもやっぱりあなたが帰った後は、いつも早く会いたいなって思ってた」

使用人たちと暮らしていても、愛する夫と死に別れて地方に住むということは、やはり寂しいものなのだろう。
もともと明るいこのお方には、出来るだけもっと明るい毎日を送っていて欲しい。私がこの距離を飛び越えて時々会いに行く理由でもある。
今回の土産はこれだのあれだの、今建業ではどんな状況だの、毎回そんな話をしながら数日宿泊させてもらっている。姉様は私が来るたびに違う花を見せたいようで、時期が過ぎると新しい花を庭に入れ替えながら栽培しているらしい。いつ来ても違う姿を見せる庭は、彼女と同じように常に美しさを保っている。
そんな美しい庭を眺めながら、いつものように外に置かれた椅子に腰掛けて他愛無い話をしていた。

「そう言えば、いちこと旦那様とは結婚して何年目?」

「そろそろ十年ですねえ。何か贈り物でもしようかな」

私が姉様と知り合って十年ということと同義でもある。武官に嫁いできて、建業という土地にまだ慣れていなかった頃に、周瑜様が気遣って姉様と会わせてくださった。
このような乱世において天真爛漫と表現するべき明るさはまるで奇跡で、当時の私の心許ない気持ちを温めてくれた。懐いてしまうのも当然と言えただろう。

「私ね、大好きないちこがこうして会いに来てくれるのはとても嬉しいの。
でも、あなたはあなたの旦那様との時間もずっとずっと大事にするのよ」

「…もちろんですよ」

「武官だからなおのこと、戦場での危険が多いよね。大事なものは、ふとした時にすぐなくなっちゃう。
だから、あなたが建業に戻ったら…ううん、毎日。
できる限り毎日手を握ったり、ぎゅうってしてね。いつも愛する人が、家族が、そこにいてくれるとは限らないから」

姉様は寂しそうに笑いながら、諭すようにそう言った。
温かく優しい口調で、あまりにも重い諫言だった。
言葉に詰まり、代わりに大きく深く頷く。それを見た姉様はふふ、と小さく笑った。
周瑜様が亡くなってから数年、彼女はこの土地で今でも深く夫を愛しているんだろうと思う。
こうやって私に教示してくれるところに、彼女の強さを感じた。

「そうしてまた、私のところに時々遊びに来てね」

「当然です!」

さっきの無言の頷きから打って変わって前のめりで返事をすると、姉様は声をあげてきらきらと笑った。
離れていても大事な人を想い続けられる強さと、いつも大事なものを見失わない慧眼を持ち続けられるようにしたいと心から思った。
全く、姉様には頭が上がらない。今日も変わらず太陽だ。



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