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雑渡さんの指は冷たいけど、身体も吐息も凄く熱かった。私が怖くないようにたくさん好きって言ってくれたし、触れる手つきは優しくて、愛情を感じられるものだった。
雑渡さんに身体を見られることは恥ずかしかったし、発せられる声も未だかつて出したことのないようなもので、だけど我慢しようとしても勝手に漏れ出てきてしまった。私がいっぱいいっぱいであることに雑渡さんは気付いているようで、可愛いと言ってはキスをしてくれたけど、私は雑渡さんを直視することが出来なかった。
雑渡さんは細い人だと思っていた。だけど、ちゃんと男の人の身体をしていた。筋肉質というわけではないのだろうけど、それでも、ちゃんと締まった身体をしている。綺麗な顔立ちも相まって、凄く魅力のある男性なんだと再確認した。だけど、雑渡さんは自分の容姿をあまり好きではないようだった。だから、あえて本人に直接言わないけど、凄くかっこいいと思っている。私なんかとは釣り合わないほどかっこいい。これが夢なのではないかと錯覚してしまうほどに。
だけど、これは現実なんだと嫌でも思い知らされた。


「い、たい…っ」

「ん…ごめんね」

「大丈夫、だから…ちゃんと最後までしたいです…」

「うん。でも…」

「雑渡さんと一緒になれるなら、私は幸せなの。だから、お願い…私、雑渡さんと本当の意味で恋人になり…きゃあっ!?」

「もう…どうしてそんな可愛いことばかり言うのかな。これ以上、なまえを好きになったら、どうなるか分からないよ?」

「どうなるんですか?」

「そうだね…監禁とか?」

「あら、怖い」


ぎゅうっと抱き締められながら、そんな冗談を言われた。くすくすと笑いながら雑渡さんに抱き付く。こうして私を気遣ってくれる雑渡さんが好き。凄く愛情を感じる。
ごめんね、と耳元で言われた後、お腹に重い圧迫感を感じた。痛いし、息が出来ないくらい苦しい。私が必死に息を吸っていると、雑渡さんも苦しそうな声を出した。息が荒い。だけど、その表情はあまりにも熱を帯びて色っぽかった。
男の人も痛いのかな、苦しいのかな。それとも、気持ちいいのかな。私もいつか気持ちよくなる日がくるのだろうか。
そっと雑渡さんの頬に手を当てると、雑渡さんは大きな手を重ねてくれて、色っぽくも切そうな顔をした。


「ごめん、余裕なさそう…」

「え?」

「動くよ」


大きなベッドが軋んだ。雑渡さんが動く度に重い痛みを感じる。雑渡さんの表情は凄く苦しそうで、だけど、信じられないくらい色っぽくて、痛みなんてどうでもよくなった。
次第に指で弄ばれていた時のような気持ちよさを感じるようになってきた。何とも言えない快感と、満たされていく心、そして、雑渡さんを好きだという気持ちが溢れ出そうになる。私は雑渡さんが好き。この人の側にずっといたい。
お腹に熱いものが出され、雑渡さんに抱き締められる。二人とも息が乱れているし、身体が凄く熱を帯びている。


「はぁー…お前は本当に大した子だよ」

「…はい?」

「こんなに気持ちいいのは初めてだ…」


そう言って雑渡さんは溜め息を吐いた。
この状況で他の人と比べないで欲しい。デリカシーというものがこの人にはないのかしら。だけど、少し嬉しい。雑渡さんが気持ちいいと思ってくれたのなら、よかった。
頭を優しく撫でると、雑渡さんと目が合った。ふ、と笑って優しいキスをされる。


「続きは夕飯の後でね」

「はい…はい!?」

「取り敢えず、シャワー浴びてどこか行こうか」

「え、待って。続きって何ですか?」

「さぁ?何だと思う?」


にっと笑った雑渡さんは私から離れて行った。服を着ながら「先にシャワー使って」と言う雑渡さんはやっぱりこういうことに慣れているんだろうなぁとつい思ってしまう。
シャワーを浴びて、二人でファミレスで夕飯を摂った。雑渡さんの言う通り夜になっていたし、ちょうど御飯時で混んでいた。雑渡さんはいつも通り唐揚げを、私は夏野菜カレーを頼んだ。食事が来るまでの間に不満を口にする。


「雑渡さん、やっぱり慣れてますよね」

「何が?」

「さっきしたこと」

「あぁ…そう?初めてだったんだけど」

「またそんな嘘をついて…」

「本当だって。初めてしたもの。愛撫も生でするのも」

「生…えっ!待って、避妊してくれました?」

「ちゃんと外で出したから平気でしょ」

「に、妊娠したらどうするんですか!?」

「儲けた、と思うかな」

「馬鹿じゃないの!?何が儲けたですか!」

「いや、だって子供できたら結婚できるし?」

「馬鹿!もう、信じられない!」

「高校数学も出来ない子に馬鹿と言われる覚えはないな」

「そういう話じゃないですけど!?」


愛撫したのが初めてというのは嘘だとして、生でしたって何でしょうか。妊娠したら結婚できるから儲けたって何なんですか。ふるふると私が震えていると、雑渡さんは素知らぬ顔で「生でしかする気はない」と言ってのけた。


「酷い!大切にしてくれるって言ったのに…」

「大切にするよ?だけど、私は遊びでなまえを抱くような真似はしない。妊娠したら責任を取るし、まぁ、妊娠しなくても結婚はしたいと思ってるし。でも、出来ないと思うけどねぇ、生でしても。ま、出来たらそれはそれでってことで」

「も、もう二度としませんから!」

「それは無理でしょう。これからなまえは毎晩私に抱かれて眠ることになるんだから。これはもう、決定事項だから」


というか、これ絶対にこの場でする話じゃないよと言いながら雑渡さんはメニューを開いた。のんびりとデザートのページを見せてきて、パフェをお勧めされる。そうすれば私の機嫌が直るとでも思っているのだろうか。いや、頼んでもいいなら頼むけど。食べるけど。
パフェまでしっかりと食べてから雑渡さんの家に戻り、もう絶対にしないと心に決めていたのにまた誘われるがままに雑渡さんと身体を重ねた。あの色気に満ちた顔で囁かれてしまうと何も言えなくなってしまう。それを雑渡さんは分かった上でやっているのだろうから、本当に狡い人だと思う。
本日二度目の行為はやっぱり優しかった。そして、凄く気持ちよかった。雑渡さんのことしか考えられなくなって、結局身体を許してしまう。もしも妊娠したらきっと雑渡さんは私と結婚してくれるだろう。何なら婚姻届にあらかじめサインしておこうか、とまで言ったのだから、この人の中では私と結婚することはもう確定事項なんだと思った。私だけを愛してくれる人なんだろうけど、傍若無人な人だなぁと思ったし、それが嬉しいと思ってしまった私は既に抜け出せないくらい雑渡さんに毒されてしまっているのだろうと思った。


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