おしとやかな人が好き
そう言っていた義丸と付き合うこと早半年。案外、凸凹でもうまくいくもんだ。私の職業は忍者。くのいちではなく忍者として働いている。ちなみに性別は女。これだけで私の性格というか性分を察知して欲しい。
義丸は兵庫水軍の中でも指折りの女好きで、はっきり言ってちゃらんぽらんだ。そんな義丸は口がうまいからモテる。私なんか、本来なら隣にいるべきではないのだ。冒頭でもお伝えしたように、義丸の好みとはあまりにかけ離れている。
では何故、彼は私なんかと付き合っているのか。
「やっほー」
「おー」
「頼まれてた美味しいお饅頭、買ってきたよー」
「食おうぜ」
「わーい。食う」
休憩中の義丸に頼まれていた、いま巷で話題の美味しいお饅頭を差し出す。適当に胡座をかいて座り、おもむろにお饅頭を口に頬張ると義丸に笑われた。
「お前、本当に女か」
「身体、見たじゃん」
「乳あるしな」
「触り賃取るわよ」
「饅頭は俺の奢りだろ」
「じゃあもう一個食う」
「はいはい」
ぺたぺたと乳を触る義丸の手を退けて本日二個目のお饅頭に手を伸ばした。パクリと頬張ると義丸は至極楽しそうに笑った。
「退屈しねぇわ」
「そ?」
「俺、本当はおしとやかな女が好きなんだよ」
「この前、聞いた」
最初、喧嘩を売ってんのかコノヤローと思った。そうお茶を飲みながら義丸を睨むと、義丸もお茶に手を伸ばして一口飲んだ。
「そうじゃねぇよ」
「じゃ、なによ」
「なまえは俺の好みと真逆だって言ってんだよ」
「喧嘩売ってるのね?」
「だから、違ぇって」
「何なのよ」
「なまえは俺にとって特別だって言ってんだよ。好みとか度外視する程、好きだ」
「へぇー…」
「そういう顔とかな」
義丸は面白そうに笑った。何よ、私のことを馬鹿にして。自慢じゃないけど私は色気がなかった所為でくのいちになれなかった女よ。
告白は私からだった。いつも不安で、どうにか義丸に好かれようと必死で。好きだなんて、今までただの一度も言われたことがなかった。望んでいたはずの言葉だったのに。あぁ、暑い。熱い。暑い。
芽吹いた微熱
実はなまえから告られる前から密かに好きだったり
なんで
そういう可愛い顔して俺のこと、密かに見てただろ
何よ、どんな顔よ
真っ赤
う、うるさいわよ!
はいはい
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