見慣れない天井だ。
あれ、ここどこ?と隣を見ると、いてはいけない人がいた。しかも裸で寝てる。まさかと思って恐る恐る確認した。自分も裸だった。

や っ て し ま っ た の か よ 、自 分 !

しかも上司と。最悪だよ。というか、避妊とかしてくれたのかなとゴミ箱を漁ると、生々しい使用済みのコンドームが入っていた。よかったのか、よくなかったのかは分からないけど、避妊はしてくれたらしい。ゴミ箱に入っている二つのコンドーム。えっと、この人確か今年で36歳だよね?あらあら元気ねぇ、と他人事のように考えて自分を少し落ち着かせる。えーと、昨日は飲み会だった。大きな取引の打ち上げだ。その後のことは…うん、覚えてない。でも、やっていることは間違いなさそう。
すやすやと眠る彼を起こすべきか、起こさないべきか悩んだ。彼は覚えているのだろうか。いや、何だかもうどっちでもいい。お父さん、お母さん、ごめんなさい。ふしだらな娘は付き合ってもいない、しかも上司と一夜を共にしてしまいました。


「んー…?」


彼が目を開けた。ぼんやりとした目で私を捉えて、考え込むような顔をしてから気まずそうに私に恐る恐る聞いてきた。昨日、私たちもしかしてやっちゃったの?と。あなたも覚えていないんですか。私もですから、なかったことにしましょう。
そう言いたかったのに、言えなかったのは彼が本当に申し訳なさそうな顔をしていたからだ。うーん、意外と真面目なんだなぁ。


「その…覚えてる?」

「いいえ」

「…まぁ、いいよ。とりあえず、これからよろしく」

「はい…はい?」

「帰ろうか」

「え、ちょっと待ってよ。よろしくって何ですか?」

「え?だって、私たちって付き合うんじゃないの?」

「え?は?」

「昨日、酒の席で私のことが好きって言ったじゃん」

「はあっ!?」

「え、嘘でしよ?本当にそれすらも覚えてないの?」

「覚えてませんよ!」

「…ねぇ、まさか本当は好きじゃないとか言うの?」

「うぐっ…」


しゅんとする彼の言うことが本当なのかどうかは分からないけど、酒の勢い余って告白めいたことをしてしまったんだとしたら最悪。
彼のことは好きとは違うような気がする。憧れだ。でも、それを彼に伝えたらショックを受けるのかな。…え、ショックって何で?


「まさか、部長は…」

「うん?」

「私のことが好き?」

「…うん」


お い お い 、マ ジ か よ 2 0 1 2 年!

確実に今年一番の衝撃的な発表を受けた私が取る行動として正しいのはどれよ。

1 私も好きよと言う
2 憧れかも…と言う
3 馬鹿かよ!と罵る

正直な話、付き合っても構わないというか、むしろ彼と付き合いたい気もする。でも、付き合うと部長のファンクラブの人たちに睨まれるんだろうな。あの恐ろしいお姉さま方に嫌われたら私の社内人生は終わる。


「ね、なまえちゃん」

「はい?」

「私のこと好き?」

「…普通」

「うわー。へこむ」


しゅんとする彼はバリバリと仕事をしている雑渡部長と同一人物なんだろうか。
彼を見ていると、私が出さなければならない答えがぶれる。あぁ、覚えていないけど昨日、私が好きって言った気持ちが分かる。きっと、こういう意外な一面がかわいくて好きだと言ったんだろう。覚えてないけど理解はできる。彼、すごくかわいいもん。


「…好き、かも」

「かもって何?」

「不確定事実、もしくは疑問形等につける単語です」

「いや、違う。そういうのじゃなくてさ。え?」

「とりあえずホテルから出ましょう。お腹空いたし」

「いや、ちょっと待ってよ!結局はどっちなの?」

「さ、ホテル出たら何食べましょうか。昆奈門さん」


にこっと笑って言うと、顔を真っ赤にさせて彼は何でもいいよと小声で言った。この人、意外と初々しいというか、かわいいなぁ。
お洒落な店でランチをご馳走になって彼の家に行く。今度は忘れないでよ?と言われてしたセックスは愛情に満ち溢れていた。目が覚めて、冗談半分で彼に付き合ったことを覚えていないと言うと、本当に泣きそうな顔をされた。
とりあえず、こんな感じで彼と付き合おうと思う。からかい甲斐のある人だな。拗ねる彼の頭を撫でると、子供のように頬を膨らませていた。その頬にキスしてみると、赤い顔で呆然としていたから、ますますおかしくなって笑ってしまう。
そして私の気持ちは憧れから恋へと変わった。
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