堅物の高坂に彼女ができたらしい。確かに高坂は顔はいいし、優秀な忍だ。実際、かなりもてるのも知っている。でも、まさか高坂が誰かを好きになる日がくるなんて思ってもみなかった。


「高坂ーっ」

「おー」

「あんた、彼女できたって本当?」

「は?」

「くっそ!先越された!」

「待て。何のはなしだ」

「だから、あんたに彼女が」

「いねぇよ」


高坂につかみかかったら、あっさりと否定された。とぼけてるのかと思ったらそういうわけでもないらしく、悪いか!と逆に怒られた。


「なんだ、違うのか。高坂に彼女ができるはずないもんね」

「何だとコラ」

「いやー、安心したわ」

「安心?」

「先を越されたくなかったからさ」

「そうか」

「あれ、嫉妬してるのかと期待した?」

「少しな」

「あはは、珍しく冗談に乗ってくれるね」


冗談が通じない堅物のくせに。高坂が告白されているのを見たことが何度もあった。でも付き合ったのは見たことがない。もったいない限りだ。
高坂って付き合ったらどんな感じなんだろうか。きっと、お堅い清らかなお付き合い…は似合わないな。想像つかないや。


「高坂は何で彼女つくらないの?」

「気になるか?」

「まぁね。多少は」

「好きな女がいるからだ」

「え」

「何だよ」

「意外!あんた、好きな人いるの?」

「いるよ」


あっさりと高坂は言った。じゃあ何で告白しないのだろうか。高坂なら大半の女の子が頷くだろうに。ていうか、衆道じゃなかったんだ。ぶっちゃけ、そっちかとも思ってたんだけど。


「しちゃいなよ、告白」

「…まぁ、そのうちな」

「弱虫」

「何とでも言え」

「私もしちゃおっかな、告白」

「好きな男でもできたのか?」

「うん。あんた」


なんてね、とは言えなかった。高坂が信じられないぐらい真っ赤だったから。熱のこもった目で高坂に見つめられて赤くなるのは私の番だった。私はいてもたってもいられなくてその場から逃げた。
何で。何であんな、まさか、そんな。あれじゃ高坂が私のことを好きみたいじゃないか。あの高坂が私を好きなんてこと、そんな都合のいいことがあるわけないじゃない。だって、ずっと私のこと友達だって言っていたじゃない。だから私はずっと前から気持ちに蓋をしていたのに。なのに何で今さら、そんな。
必死に走って、息が続かなくなって私は木にもたれかかった。息も胸も苦しくて、泣きそうだ。


「逃げるなよ」

「げっ!」

「弱虫はどっちだ」

「う…あんたよ、あんた」


私は肩で呼吸をしているのに対し、高坂は落ち着いていた。悔しくて思いっきり睨んだら、高坂は笑った。


「なまえ」

「な、何よ…」

「お前のこと好きなんだけど」

「なっ…」

「でもお前は俺のことを友達だとしか思っていないみたいだし?だから割りきろうかと思っていた」

「あ、あんたが言ったんじゃない。私のこと友達だって。だから私は…」

「似た者同士、だな。なまえには俺ぐらいがお似合いだ。俺にしておけ」


高坂に腕を捕まれて、姿勢を正されたかと思えば、ぎゅうっと効果音が聞こえるんじゃないかと思うほどに抱き締められた。
高坂はずるい。こんなことをされたら、もう私は何も言えないじゃないか。どれだけ前から高坂のことが好きだったかとか、どれだけ高坂のことが好きなんだとか。高坂とは長い付き合いだけど、初めて見た優しい、慈しむような笑顔で好きだよと言われて、私は生まれて初めての接吻を高坂とした。
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