古い図書館の重い戸を開くと、今日も彼はいた。カウンターでパソコンをいじっている。相変わらず綺麗な顔をしてる。
私に気付いたのか、彼は私の方を見て微笑みかけてくれた。甘くて優しい顔で。ペコリと頭を下げて、本をカウンターに出した。彼の薦める本はどれも面白い。


「オススメ、あります?」

「ええ。新作が」

「それ借ります」

「はい。持ってきますね」


返却されたばかりだったのだろうか。本はカウンター近くの棚に置かれていた。
彼は微笑みながら貸し出しの処理をしてくれた。どんな話だろう。サスペンスか恋愛か、もしかして青春ものだったり。今日の楽しみができたとうきうきしながら帰宅して読んでみると、主人公が密やかに想いを寄せている女性にあの手この手で落とそうと贈り物をするという、かぐや姫のような内容の恋愛物語だった。実はヒロインは主人公のことが好きなんだけど、なかなか素直になれないというベタといえばベタな話。でも、一途な主人公は頑張って気持ちをヒロインに伝えてこようとする。あぁ、素敵な話だな。
パタリと本を閉じて、こんな恋がしてみたいなぁと思った。こんなにも愛されてみたい、だなんて乙女すぎるのかしら。彼に感想を一秒でも早く伝えたくて、いつもなら会社の昼休みにしか行かない図書館に私は休みの日に行くことにした。やっぱり彼は今日も私を見るなり微笑んでくれた。そして、チラリと目を反らしてから戻し、不思議そうに尋ねてきた。


「今日は会社はお休みなんですか?」

「ええ。早く次の本を読みたくて」

「そうですか。今日は珍しく私服だったので一瞬、誰か分かりませんでしたよ」

「あぁ、いつもはスーツですもんねぇ」


いつもは、スーツをビシッと着ている私が、ふわふわのスカートで登場したらそれは驚くだろうなぁと自分でも思った。
実はこのスカートは今日が初だったから似合っているか不安だった。女の子らしいスカートはあまり普段は着ないけど、店員さんにイチオシされて買ったのだ。


「…あのっ、おかしいですか?」

「え?」

「スカート、似合いませんか?」

「いえ、よく似合っていると思います」

「そ、そっか…」

「それに───」

「え?」

「いえ、何でもありません。それより、今日はどんな本を借りられるんです?」


にこっと笑って言われたから、とりあえず今日もいつものように彼にオススメを聞いてみることにした。こう毎日毎日、オススメを聞いてもサラリと返してきてくれるのは、彼の凄いところだと思う。
あまりにも自然な流れだったから、特に私は深く追求はしなかった。きっと空耳だろう。紳士的な照星さんが、サラリとあんなことを言うはずなんかないもの。


「じゃあ、私はこれで」

「あ、なまえさん」

「はい。何か…?」

「また私服で来て下さい。よくお似合いなので、もっと見たくなってしまった」

「は、はあ…」


えっと、社交辞令よね。きっとそうだ。
家に帰っても、さっき聞こえた空耳が頭から離れなかった。いやいや、照星さんがあんなことを言うはずなんかないよ。そう否定してはいるんだけど気になってしまって、物語には集中出来なかった。





いや、やっぱりないって。照星さんがそんな俗的なことを言うはずがないもの。
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