こんなことをお前に言うのもアレなんだけど、俺はモテないんだ。何でだろう。
そんなことを言われても困るんだけど、とりあえずハチは本気っぽかったから私は周りの女の子たちが言っていることをそのまま彼に伝えてあげることにした。
「虫じゃん?」
「生物委員だからってことか!?」
「おそらくは気持ち悪いのかと」
「んなもん、孫兵だって…」
「彼は浪漫に溢れてるから」
「俺は何故駄目なんだぁー!」
大声で頭を抱えて叫ぶハチは、実は私の好きな人だったりする。こういう馬鹿なところとか趣味悪いと思うけど好きだ。
ハチはかっこいい。見た目じゃなくて中身がかっこいいと思う。周りから雑に扱われてからかわれているところも好き。改めて思うと、私は趣味が悪いな。何でハチなんか好きになっちゃったんだろ。本当は善法寺先輩みたいな優しい人が好きなんだけど。や、ハチも優しいけど。
「モテたいの?」
「彼女が欲しいんだよ!」
「あー。ないわ」
「何でだよ!?」
「焦らずに、好きな子と付き合いなよ」
「そりゃあな!」
「え。てことは、好きな子がいるの?」
「いるよ。二年前から」
「えぇー!初耳!」
「おう。初めて言ったからな」
「わぉ…」
失恋しちゃったよ。というか、二年前から好きなら告白ぐらいすればいいのに。あれか。周りから散々、ハチは駄目だと言われ続けているからなのか。それは、ハチがいじられやすいってだけであって本当はみんなハチのことが好きなのに。
ま、主にハチをいじって喜んでいるのは三郎なんだけどね。あ、それは私もか。
「フラれるのが怖いの?」
「つーか…」
「うん?どした?」
「今の関係を壊すのが怖い」
「わぁ、ありがち」
「わ、悪いかよ!?」
「や、分かるよ。その気持ちは分かる」
私もそうだから。二年前の実習のときから好きだったけど、告白できなかったのは今の関係を壊すのが怖かったからだ。
二年前の実習。私とハチはペアだった。山で夜営をしていると、傷を負った狸が草陰から出てきた。ハチはそれを優しく介抱した。そのせいで実習は失敗した。先生には怒られたけど、ハチの生き物に対する優しいところに惚れてしまった。
ぼんやりと外に目を向けると、雨が降りそうな空の色をしていた。あー、こりゃあ、洗濯物をとりこまなきゃ駄目かな。
「ま、頑張って」
「どこ行くんだよ?」
「洗濯物をとりこむ」
「待てよ。話はまだ終わってない」
「え。ハチの失恋物語が続くの?」
「フラれるの決定!?」
「はは。まぁ、頑張んなって」
「待てって。なまえ、お前は…」
「…ねぇ、懐の瓶て虫なの?」
「おう。これはマリーと子どもたちだ」
「わぁ…へぇ、そう…」
とりあえず、愛はあっても虫には愛はないから近寄らないで欲しい。毒虫だし。
ドン引きした私の顔を見て、ハチは懐からマリーの入った瓶をドン!と置いた。や、ここは私の部屋だから。お願いだから毒虫の入った瓶を割らないで欲しい。
「よし、なまえ」
「な、何…」
「好きだ!」
「…は?」
「だから、なまえも俺を好きになれ!」
「何それ。命令ですか」
「そして、なまえも虫を好きになれ!」
「それは無理!」
何でハチを好きだからって私が毒虫を好きにならなきゃいけないのよ。阿呆か!
というか、今こいつ何て言った?他の台詞の印象が強すぎて飛んだけど、とんでもないことをハチは私に言わなかった?
「ハチ」
「何?」
「今、何て言ったの?」
「虫を好きになれ」
「その前よ!」
「俺を好きになれ」
「さらに前!」
「なまえが好きだ」
「え」
「好きだ。二年前から好きだった」
「実習の時?」
「もうちょい前かな」
「へ?」
「食堂で豆腐をうまそうに食ってるところを見て、一目惚れした」
「久々知か」
「竹谷だけど?」
「知ってるわ!」
「兎に角、俺はなまえが好きだ」
「あー…」
これはどうしたらいいんだろう。私はハチが好きだ。でも毒虫は好きじゃない。虫好きを強制されたら、付き合えない。でも、私はハチが好き。どうしよ。
「…ハチがモテない理由が分かった」
「何?」
「虫だね。確実に虫だわ」
「でも、孫兵は…」
「孫兵は浪漫が…」
「俺はそんなに駄目かよ!?」
また頭を抱えて叫んだハチを見て、孫兵もモテないんだろうなぁと私は思った。
さて、どうするかな。虫との共存を取るべきか、愛を取るべきか。生き物に対する優しさが好きだったけど、障害かも。涙目でマリーの入った瓶を抱えるハチを見て、毒虫野郎だけど、やっぱり私はハチのこういうところが好きだと思った。
とりあえず、瓶を置かせてから手を洗わせて、それから抱きつくことにしよう。そう決めて、私はとりあえず干してある洗濯物をとりこみに行くことにした。
title by 休憩
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