私は図書館に行かなくなった。彼に会いたくないのに、会いたい。矛盾してる。
仕事を終えて家に帰ろうとすると、見覚えのある背中を見付けた。照星さんだ。首を捻ってウインドウを眺めている。何か面白いものでもあるのかと少し離れたところから盗み見ようとするとバレた。
私に気付いた彼は、本当に嬉しそうに顔を綻ばせて、甘い声で話しかけてきた。


「こんばんは。お久し振りです」

「ど、どうも…」

「またなまえさんに会えてよかった」

「え?」

「会えなくて寂しかったので…」

「えっと、はい。すみません…」


この人、もしかしてキザなのかしらね。そんなことをサラリと言えるだなんて。ドキドキとしながら彼が見ていたウインドウを覗くと、こたつが飾られていた。


「…こたつ、買うんですか?」

「独り身なもので、不要かと」

「私、独身だけどありますよ」

「本当ですか?」

「ええ。冬はこたつと鍋です」

「いいですね。日本酒とか?」

「ふふ。日本酒もありますよ」


よかった。いつも通り彼と話ができる。
平常心を保てたことに一安心した私は彼をもう避ける必要はないかなと思った。明日からはまた図書館に行こうと決意して、彼に会釈をして家に帰ろうとする。ところが、彼が何故かついてきて振り向くと、彼も不思議そうな顔をしていた。


「あの…?」

「買い物はしなくていいんですか?」

「買い物?」

「鍋の材料ですよ。何鍋にします?」

「えっ…?」

「え?こたつで鍋じゃないんですか?」

「えっ…き、今日これから鍋ですか?」

「違うんですか?」


何でそうなった。…まぁ、いっか。部屋もそんなに汚くないし彼が家に来ても。鍋の具材を買って、私の小さなアパートに入るなり、彼は目を細めて微笑んだ。


「あぁ、なまえさんのにおいがする」

「わ、私のにおい?」

「ええ。本からも時折香りました」

「香水は使ってないんですけど…」

「なまえさんの香りなんでしょうね」


にこっと笑われて、思わず自分のにおいを嗅いでみた。えっと、臭いってこと?不安になって、すんすんと手のにおいを嗅ぐと彼はくすくすと笑って見ていた。
よく分からないけど、何か妙な雰囲気になりそうだ。白菜をザクザクと切り、鍋に投入して小さなこたつの上に置いた。


「憧れてたんですよ」

「憧れですか」

「ええ。こたつか…」


嬉しそうに微笑む彼を直視できずにいた私が小さなこたつの中に手を入れると、彼の大きな手に偶然、触れてしまった。すぐにごめんなさいと謝ったけど、彼は私の手を握って熱い眼差しで見てきた。
きっと、私の顔は赤いだろう。さらに彼はますます顔が赤くなることを言った。


「食べ終わるまで待って下さい」

「ま、待つって…?」

「え?誘っているんじゃないんですか」

「ち、違いますよ!」

「何だ。つい期待してしまいましたよ」

「期待してって…?」

「誘っているように見えたので、つい」


くすくすと彼は笑ったけど手を離してはくれなかった。どうしよう、笑えない。こたつの上では鍋がグツグツといっていたけど、私の胸はドキドキとしていた。





どうしよ、離してほしくない…
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