前々から思っていたんだけど、この図書館には彼しかいないんだろうか。いつ行ってもカウンターには彼しかいないというのは一種の嫌がらせとしか思えない。目を合わせるのも嫌だった私はカウンターに本だけ置いてさっさと本棚に向かう。早い話が昨日、彼と電話で大喧嘩をしたのだ。あぁ、思い出しても腹がたつ。照星さんなんかこの図書館から消えてしまえ!
ことの発端は非常にくだらないことだった。私は最近、仕事が忙しくて会えなかった。それでも図書館に通っていたのは彼に一目でも会いたかったという乙女心だ。なのに彼は本を読む時間はあるくせに私に会う時間はないんだなと怒ったのだ。いくつだよ、あんた。くっだらない。ムカムカしながら本をカウンターに置いた。彼も大人だ。淡々と受付をしてくれる。それはもう険悪としかいいようのない顔で。
「あのさ、」
「…何だ」
「私、お客さん」
「だから?」
「愛想悪い」
「はぁ…うざっ」
「はぁっ!?」
「あぁ、すみません。つい本音が出てしまいました。どうぞ?お・客・様」
にっこりと笑っている裏には皮肉が詰まっている。そんな顔をされた私は本で彼の頭を殴り飛ばしたくなった。落ち着け、ここは公共の場なんだから怒っちゃダメ。
怒りがいっこうにおさまらない私は彼と同じように、にっこりとしながら言ってやった。
「私、明日飲み会なんです」
「あぁ、そうですか」
「えぇ。素敵な出会いがあるかも」
「…あぁ、そうかもな」
「短いスカートに履き替えるし」
「な!」
「生脚で行こうかな」
「お前…っ」
最後の一言が彼に大ダメージを与えることぐらい私はよく知っている。脚が大好きな彼はわなわなと震えながら本を握り締めていた。今にも噛み付いてきそうな顔で。あぁ、いい気味。バっと本を奪い去って、私は踵を返して図書館から出ていった。
飲み会なのは本当。でも、楽しい飲み会ではなく、接待。もちろん、こんな寒い中わざわざ着替えるはずもないし、生脚なんてもっての他だ。
彼は司書なんてやっているくせに、どうして脚が絡むとこうも馬鹿になるんだろう。冷静に考えたらあり得ないことだと分かるだろうに。本当、エロアホい人だな。
その夜、借りた本を読む気にはなれず、寝ようと思って布団に潜り込むと、チャイムが鳴った。こんな非常識な時間に誰だろうとインターホンを取ると照星さんだった。…何よ、謝りに来たのかしら。カーディガンを羽織って玄関を開けると、彼の高い鼻は真っ赤だった。あぁ、きっとここに行くべきか行かないべきか散々、悩んだんだろうなぁ。仕方ない、許してあげよう。
「なぁに?」
「その…」
「うん?」
「明日…」
「明日?」
「い、いく…」
「行く?」
「い…行って、いい男を見つけるんだな」
「…あぁ、そうね。そうするわ」
バタンと戸を閉めた。何なの?喧嘩を売りにわざわざ家まで来るなんて。
というか、いい男を見つけろって何よ。まるで私、ふられたみたいじゃない…え、ふられた?…え。慌ててドアを開けると、既にそこには彼はいなかった。…まさかね。………明日、図書館に行って謝ろうかな。彼の好きな短いスカートを履いて。こんなつまらないことで彼と別れることになるなんてごめんだ。
ベッドに入って私は、可愛くない自分の性格を少しだけ悔やんだ。
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