何もしていない(仮)取引先の彼は、のんびりと煙草をふかしていた。一方、私は遂に浮気してしまったとかなり焦っている。言えない。仮に何もしていないにしても、こんなこと照星さんには絶対に言えない。言おうものなら、破局だ。酔っ払って取引先の上司と並んで寝ていましたなんて…!
彼は何がおかしいのか、喉を鳴らせて楽しそうに笑っていた。この余裕を私にほんの一欠片でもいいから分け与えてもらいたい。


「ふふふ。いい朝だね」

「いい朝!?」

「もとい、いい脚だね」

「脚…ぎゃおぅ!」


ストッキングを履いていない。生足。うわー、結果的に照星さんに言った通りになっちゃった。短いスカートを履いて生足で飲み会。しかも知らない人のベッド。
穴があったら入りたい。そして、埋めてほしい。二度と陽の目の当たらない場所で可憐に咲くたんぽぽになりたい。半泣きでブツブツと言う私を見て、彼はますます楽しそうに笑った。


「で?やる?」

「しません!」

「あっそ」

「帰ります!」

「はいはい。お疲れ」


全力で走って家に帰った。脚が寒い。心も寒い。照星さんにフラれたらどうしよう。
アパートの階段を登ると、見慣れた黒いコートの男がいた。会いたくて会いたくない、愛しくて辛い人。


「…朝帰りか」

「う、は…」

「…まぁ、いい。寒い」

「え。まさか一晩…?」

「そんなわけあるか。小一時間前から待っていただけだ」

「十分待ってるじゃん!うわ、早く入って!風邪引くから」


ぐいぐいと引っ張って家に入れ、無理矢理こたつに押し込んでお茶を淹れた。置かれた湯飲みを見詰めるばかりの彼に向かい合うように座ると、彼はそっと脚を触ってきた。

こ の や ろ う !

謝る気があるのかないのか分からないけど、とりあえず不誠実だ。触るのをやめようとしないし。どんだけ脚が好きなのよ。


「やめて下さい」

「本当に…」

「はい?本当に?」

「本当に生足で行ったのか。しかもそんな短いスカートで。誘っているとしか思えん」

「いや、生足…だね。うん、今は生足だけど、飲み会の時は生足じゃなかったよ」


多分、という言葉をぐっと飲み込む。本当にいつ生足になったんだろう。というか、何で生足になろうと思ったんだろう。
照星さんはさわさわと脚を触っていた手を引っ込めて、頬杖をついた。まぁ、偉そう。


「あれか。なまえは寒い中、わざわざ生足で歩くのが好きなのか」

「うん(なわけあるか!)」

「はあ…どうせ酔って脱いだんだろう。なまえは酔うとすぐに脱ぐ癖があるから」

「え。嘘…ですよね?」

「本当だ。いつもはいい思いをさせてもらっているが、人前でやられたら敵わん」


照星さんは溜め息を吐いたけど、私は青ざめることしかできなかった。彼の言うことが本当だとしたら私は昨日の夜…

あ ぁ ぁ ー ! う そ ー ー ー !

叫び出したいのを堪えていると、逆に堪えられなくなった彼が私の脚を触る為にこたつに潜り込むように身体を埋めた。そろそろと触る手付きはいつもの彼だけど、顔は険しいまま。あぁ、彼は彼で怒っている。言えない。ヤったかもしれませんだなんて口が割けても言えない。


「だいたい…」

「ちょ、触らないで」

「そんな魅力的な脚を人前に晒すこと自体が気に食わない。もうパンツ以外履くな。なまえの脚は私のものだ」

「脚から離れてよ!」


いいことを言っているようで、結局は脚という。何なの、どんだけ脚が好きなのよ。フェチを越えて怖いわ。なで回す手を叩くと、彼はニッと悪い顔で笑った。悪い顔というか、本能に忠実な顔というか。え、喧嘩も仲直りしていないのに、エッチに持ち込むつもりなの?


「…しないわよ」

「どうだか」

「しませんよ!」

「はいはい」

「触らないで!」

「おや、妙なことを言う。抵抗するつもりですか?これでもまだ抵抗できますか?」

「んっ…ちょ、」

「ここまで濡れておきながら、よくしないと言えるものだ。なまえは嘘つきだな」


にっこりと笑っている笑顔の裏に「脚を人前で晒した罰だ」という訳の分からない嫉妬が含まれていることがありありとうかがえる。どうしよう。酔っぱらった次の日の朝、目が覚めたら隣に取引先の雑渡さんて人(しかもイケメン)がいたなんて言ったら最悪、脚を切り取られるかもしれない。
はらはらしていた私は、大人しく覆いかぶさってくる照星さんに身を任せた。
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