時が経つのは早いもので、私が浮気した夜(仮)から二週間が経過した。いや、チェックインの時間を見る限りでは何もなかったと思うよと後から言われたし、きっと、多分、いや絶対に大丈夫…のはず。
そして、照星さんと仲直りしてからも二週間が経過している。別に私だって喧嘩が趣味なわけではない。端麗な顔に睨まれてハァハァする趣味はないし、なんなら本をこよなく愛するインドア派の平和主義者だから恋人とは穏やかに過ごしたいと常日頃から思っている。
なのに、こうして照星さんと睨み合っているには理由がある。


「早く返して」

「だから私ではないと言っているだろうが」

「はいはい。返して」

「しつこい」

「あんな物、あなた以外に盗る人がいるとでも?」


あんな物、とはストッキングだ。薄手で肌触りがよくて、ちょっとお高いやつ。天気が悪くて部屋に干していたストッキングが紛失した。それも、今朝までは確かにあったのに、だ。そして紛失に気付いた時、部屋には照星さんがいた。
はい、犯人決定ー!


「大丈夫ですよ、照星さんが変態なことくらい、知ってますから怒りませんよ」

「変態…変態だと!?」

「ストッキング泥棒が変態ではないとでも?」

「…ちょっと待て。まさかなまえは本気で私が犯人だとでも思っているのか?」

「ええ」

「お前…っ」


照星さんは明らさまに怒ったような顔をして睨んできたけど、端麗な顔に睨まれても別に怖くはない。
いいんだ、照星さんが見た目は最高に美しいのに中身がエロアホい人だと私はもう知っているんだから。だけど、人のストッキングを盗るってどういうことなのかしらね。嗅ぐの?それとも頭から被るの?妄想してハァハァするの?エロアホいどころの騒ぎじゃないんですけど。ど変態じゃん。と、目で念を送ると照星さんは目を細めて静かに笑った。あ、めっちゃ怒ってる時にするやつだ。


「なまえは私の恋人なのに信じられない、と」

「ええ、まぁ」

「確かにあのストッキングは最高の品だ。肌触りも透け感も実に素晴らしい」

「やだ、怖い」

「…まぁ聞きなさい。あれはなまえが身に付けてこそ価値があるものだ。単体では何の魅力もない」

「つまり、犯人ではないと言いたいわけ?」

「そうだ。まぁ、なまえに履かせて一通り触ってから脱がせたい一品ではあるが」


そう言ってにまっと笑う照星さんの頭を思いっきり叩きたくなった。もう嫌、この残念イケメン。
あぁでもない、こうでもないと揉めているとピンポーンと間抜けな音が鳴った。


「はーい?」

「あ、警察です」

「け、警察…!?」


待って、私は通報していないわよ。そんな、いくら照星さんが変態予備軍だからって恋人のストッキングを盗ったくらいで檻の中に入れられるのはさすがに可哀想じゃないかしら。
どうしようどうしようとパニックになっていると、照星さんが涼しい顔をして警官から何かを受け取った。


「泥棒ですか」

「いえ、落し物です。この辺りをパトロールしていたらお宅からこれが飛んでくるのが見えたので」

「あぁ、成る程」

「では、本官はこれで」


ぺこりと頭を下げて警官は颯爽と帰って行った。
照星さんは警官から受け取った何かを広げて穴が空くほど凝視した後、安心したように溜め息を吐いた。


「精液の付着はないな」

「当たり前でしょ!」


どんなド変態野郎だよ。ストッキングに射精って。
言ってからふと気付く。ストッキングに射精するなんて脚フェチのエロアホい人以外いないんじゃ…


「なまえは私を犯人呼ばわりした上に変態と罵ったな」

「いやぁ、罵っただなんて大袈裟な…ははは」

「一度、このストッキングを履いたなまえの脚で処理して貰いたいと思っていたところだ。丁度いいタイミングで事件が起きたな」

「し、処理って…?」

「おや。なまえさんはエロアホい私の恋人なのだから私が何を望んでいるのか検討がついているでしょう?」


爽やかな顔で笑う照星さんの望みを私が叶えたかどうかは別にして、もう二度と高級なストッキングを購入しないことと、迂闊に部屋に部屋にストッキングを干さないことを誓った。
照星さんはエロアホい残念イケメンだ。変態に属している重度の脚フェチだし。そんな彼に先日の出来事を言ったらどうなってしまうんだろう。そんなことを考えながら照星さんがよく褒めてくれる脚を動かした。


「あぁ、初めての割になかなかうまいじゃないか…」

「黙って逝け!」
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