雑渡さんに好きだと言われる夢を見た。
夜中に目が覚めて、あまりにも切ない夢で、私は我慢できずに泣いてしまった。私は想い人である彼の家に泊めてもらった挙句、ベッドまで使わせてもらった。醜い話だけど、申し訳ない気持ちが半分あるものの、嬉しい気持ちも半分ある。彼に愛されたい。いや、私は彼を秘かに愛せるだけでも十分幸せかもしれない。
ふと、リビングの方を見ると電気がついていることに気付いた。そうっと覗く。
「…あの、雑渡さん」
「あれ。眠れない?」
「いえ、やっぱり…」
「なまえちゃん、おいで」
私が彼に話しかけると、彼はやわらかく笑って私をソファへと手招いてくれた。呼ばれるままに彼のもとへと行くと、彼は手に持っていた煙管をそっと置いた。
「あの。ベッドは…」
「ねぇ、なまえちゃん」
「は、い…」
「少し話をしようか」
「何の…?」
「お互いの」
にっこりと彼は微笑んで、今まで彼がくるまっていた毛布を半分分けてくれた。彼の温もりがまだ残っている毛布からは甘い煙管独特のにおいがして顔が綻ぶ。
雑渡さんは穏やかな声でそっと言った。
「実は私もね、幼い頃に親に捨てられたんだ」
「えっ…雑渡さんも?」
「うん。この火傷も、母がやったんだ」
「そんな、酷い…」
雑渡さんは続けた。父が早く死んで、母は狂ってしまった、と。でも、それを不幸だとは思ったことは一度もない、と。孤児院で生活をし、高校を出てすぐに大きな会社で営業をしていたけど、その生活に嫌気がさして辞めて今に至る、と。
あまりにもあっさりと言うものだから、作り話かと疑ってしまう。時折、懐かしそうに笑う彼は、晴れ晴れとしていた。
「私はね、元々器用に生きられないんだ」
「器用って?」
「みんなと同じ、が嫌いなんだ。退屈というか」
「…もしかして、それで、その格好ですか?」
「あぁ、うん」
くすくすと雑渡さんは笑った。紙煙草ではなく煙管。洋服ではなく着物。どれも彼によく似合ってはいるけど、珍しい。そう言われると、私もそうかもしれないなと思った。みんなと同じ髪型、服装。個性がない。でも、それを突っぱねるだけの勇気が私にはとてもなかったのだ。雑渡さんは、成りたかった私なのかもしれない。彼のように生きてみたかった。
そっと優しく頭を撫でられて、雑渡さんは助けてあげたいんだと言ってくれた。ありがとうございますと言うことしか私はできなかったけど、凄く嬉しかった。意外な雑渡さんの過去を知った私はますます彼を好きになっていくのを感じた。
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