まさに大正浪漫、という感じのウエイトレスの制服は本当に可愛らしかった。アンティークレースの付いたスカートを揺らせながら私は喜んでマスターに微笑みかけると、マスターもにっこりと笑ってくれた。
「似合うじゃないか」
「ありがとうございます。前はウエイトレスさんがこのお店にいたんですか?」
「残念ながら皆素行が悪くてすぐに辞めさせた」
「素行?」
私が首をひねると、雑渡さんが気だるそうに店に入ってきた。私を見るなり、優しく微笑んでくれる。
いつもの席に座る雑渡さんに私はお水を出して、慣れない伝票を手に取る。
「雑渡さん、ご注文は?」
「可愛らしい君を」
「なっ…ふ、ふざけないで下さいよぉ…」
「ふふ。いつもの」
「ブルーマウンテン?」
「うん。あと灰皿」
にこっと笑って、雑渡さんは煙管を口にくわえた。家でも職場でも雑渡さんに会うだなんて、変な気分。
既に珈琲を淹れ始めているマスターの所に駆け寄るとマスターは意味ありげな顔をしてニヤリと笑った。
「よかったな。今回のウエイトレスには言い寄られる心配がなくて」
「できれば言い寄って欲しいんだけどね、今回は」
「あの…素行ってまさか」
「大概の女の子は雑渡に言い寄ったからな」
「わぁ…」
「私からは何もしていないからね!?」
必死に弁解する雑渡さんが可愛かったけど、そっか。常連である雑渡さんをウエイトレスさんが好きになってしまったんだ。私もそうだから分かるけどでも、やっぱり少し嫌な気分だった。言い寄られて、雑渡さんはどうしたんだろう、と少し気になってみたり。
むっとしたのが顔に出てしまったのか、雑渡さんは珍しく慌てた様子で首を振ってから私の手をカウンター越しに握った。
「信じて!」
「うーん…」
「本当だよ。誰一人、相手にしなかったから」
「こうして手を握ったりとかはしたんですか?」
「私がこんなことをするのはなまえちゃんだから」
私たちのやり取りをマスターは楽しそうに見ていた。そして、店内に珈琲のいい香りが広がる。
「照星も何とか言ってよ」
「ん。珈琲」
「あぁ、どうも…違う!」
「雑渡はどちらかと言うと恋愛恐怖症の節があるからな。私も数年ぶりに見た。雑渡の恋愛沙汰は」
「ふぅん…」
「何かまだ怒ってる!?」
雑渡さんはモテるけど、きっと一途なんだろう。それはいい。でも、そんな風に愛された人がいたんだ。思い起こせば私は物心がついた時から恋愛を諦めていたから、雑渡さんが初恋だった。彼は大人の男の人なんだ、恋だってそれなりにしてきただろう。
…馬鹿みたい、昔の恋人に嫉妬だなんて。駄目ね、私は。雑渡さんが側にいてくれるだけで満足だったのに、どんどん欲しくなる。欲張りなのかなぁ。
「本当だよ!ねぇ、」
「それより、早く原稿を書いた方がいいですよ?」
「え、この精神状態で!?」
「雑渡、お前、うるさい」
「お客様、お静かに」
「息ぴったり!?ずるい、なまえちゃんは私のなのに!」
雑渡さんは本当に悔しそうに騒いでいたし、マスターは雑渡さんをからかって笑っていた。そういえば、雑渡さんがこんなに騒いだところを見たのは初めてかもしれない。それに、言うことが意外に子供っぽい。
新たな雑渡さんを知ることができた私は嬉しくなってマスターと一緒に笑っていると、雑渡さんは機嫌が悪そうな顔で拗ねていた。
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