洗いものをしているシナさんの隣で黙々と皿を拭く私を見て、シナさんは柔らかく笑った。私が何を言おうとしているのか、全て分かっているようだった。
お店の片付けが終わって、シナさんとカウンターに座った。シナさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「なまえちゃんから"雑渡さん"の話を聞いて、本当はすぐに勘違いしていることに気が付いたの。だけど、どうして私が何も言わなかったか分かる?」
「…私に考える時間をくれたんですか?」
「そう。離れて分かることもあるから」
シナさんは艶っぽく笑った。
初めて神社で会った時に真実を知っても、きっと私たちは同じ過ちを繰り返した。
雑渡さんと離れて色んなことを考えた。辛い想いをたくさんして出した答えはそう簡単にブレない。
「シナさんは…」
「思ったわ」
「え?」
「何度もやり直せないかって思った」
「………」
「でも、思い出ばかり残ってるから、きっとうまくはいかなかったわ。ヨリを戻すには私たちは離れ過ぎた。それに…」
フラれちゃったしね、とシナさんは笑った。
私はシナさんが好き。感謝しているし、尊敬もしている。女性として憧れているし、雑渡さんがシナさんに恋していたことも納得できる。だけど、雑渡さんは譲れない。
「ごめんなさい…」
「謝らないで。なまえちゃん、胸を張りなさい。彼が好きなのはなまえちゃんなのよ?」
「はい…」
「面倒な男だけどね」
「そうですね」
くすくすと二人で笑って、この日は二人でお酒を飲んだ。
そして次の日、私はシナさんに頭を下げてから病院へと向かった。雑渡さんが退院するのだ。
ありがとう、シナさん。まるでお姉さんのような、素敵な人だった。いつか私もシナさんのような思いやりのある優しい女性になりたい。その時、私の隣には雑渡さんがいるのだろうか。そうだといいな…いや、そうなるように頑張る。二度と雑渡さんと離れないよう、大人にならないと。
そう誓って、病室のドアをノックした。
「なまえちゃん」
「よかったですね、退院できて」
「ただの栄養失調だから」
「帰りましょう」
「うん」
私が差し出した手を雑渡さんが嬉しそうに握った。懐かしい温もりを感じながらマンションへ向かう。綺麗な石畳を歩き、私は懐かしい場所へと戻ってきた。
そしてまた、穏やかで平穏な日常が始まる。
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