目を開けると身体が怠くて、何か激しい運動でもしただろうかと思い返しながら隣を見るとベッドはもぬけの殻だった。
途端に昨夜、自分がしたことを思い出して後悔の念でいっぱいになる。私はなまえちゃんを犯してしまった。本当はそんなことをしたかったわけではない。私はただ、シナではなくなまえちゃんが好きだとか、側にいて欲しいだとか…結婚して欲しいと、そう伝えたかっただけだ。なのに、なまえちゃんが離れていくことが不安で、傷付けてしまった。
慌てて家中を探したけど、家のどこにもなまえちゃんはいなかった。どうしよう、私に愛想を尽かし、いなくなってしまったんだとしたら。本当に嫌われてしまったのなら…
玄関先で絶望していたら、ドアが開いた。
「なまえちゃん!」
「わぁ!こ、こんな所で何をして…」
「なまえちゃんこそ…」
「私はゴミを出しに行っただけですよ?」
可燃ゴミの日、と笑いながら靴を脱ぐなまえちゃんを力一杯抱きしめる。よかった、出て行ったわけではなくて。また私から離れていったわけではなくて。
なまえちゃんが用意してくれた朝食を食べながら、その温かさで安堵して胸が痛んだ。
「なまえちゃん、その、昨日はごめんね」
「え?」
「無理に身体を重ねるようなことをして…」
無理矢理、身体を求められてきたなまえちゃんにとって力ずくで犯されるのは恐怖でしかないだろう。それを私は昨夜してしまった。例の元婚約者と同じことを私はしてしまったのだ。自分に嫌悪感を抱く。何故、私はこうも愚かなのだろうか。好きな子を大切にすることもできないなんて。
頭を上げることの出来ない私になまえちゃんは躊躇いながらも優しい声をかけてくれた。
「謝らないでください。その…わ、私もすごく気持ち良かったですし」
「え」
「あ、やっぱり今のなし!何でもないです」
顔を赤らめながらなまえちゃんは手で顔を覆った。あぁ、可愛いなぁ…。
嫌われたわけでも、嫌悪感を抱かれたわけでもないと知って、私はようやく安心して彩りのいい朝食を口に運ぶことができた。
食後にソファで抱き合いながら話をした。時折、キスをしながら。唇を離すと照れ臭そうになまえちゃんが笑うものだから、嬉しくて何度もキスをした。次第にキスだけでは物足りなくなってきて服の隙間から手を忍ばせると、なまえちゃんは首を横に振った。
「んっ…も、もう行かないと…」
「…休みなよ?」
「駄目です。私も雑渡さんも仕事でしょ」
「むー…」
「夜にまた…ね?」
「はぁ…分かった」
名残り惜しい気持ちを目一杯こめて長いキスをした後、原稿用紙を取り出した。なまえちゃんと一緒に珈琲館に行くために。
二人で家の目の前にある珈琲館へと歩く。今では当たり前の日常だけど、ほんの少し前までは想像もできないことだった。誰かを愛し、誰かに愛されるなんて、二度とないと信じて疑わなかったのだ。
「今日はいいお天気ですね」
「そうだね」
「じゃあ、また後で」
なまえちゃんは勝手口から、私は店の入り口から珈琲館に入る。鈴の音が店内に鳴り響き、そしてまたいつもの日常が始まる。
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