day.14
「あっ、いや…っ」
「ほぉ?随分と奇妙な嘘を吐く」
「んん…っ」
「こんなにも濡れているのに、興奮してはいないのか」
「あ、あ…んっ」
「…っ」
ぞわっと身体が疼いた。指先で攻め立てているだけだというのにこの反応とは末恐ろしい。成る程、これは男が夢中になって身体を貪るはずだ。痩せ細った身体だというのに実にいやらしい。濡れた膣を早く指先ではなくそそり勃ったモノで感じたくて、押し進めるとなまえはいやらしい顔をして悦んだ。それと同時に締め付けてくるのだから、堪ったものではない。気持ちがいいし、実に興奮する。
なまえの喘ぎ声が家中に響き渡る。濡れた指を絡めながら口付け、腰を振り続けると締め付けはより一層きつくなった。
「は…っ、あ…」
「あ…あぁっ…」
「いいね、いらやしい…」
「雑渡さ…っ」
「…可愛い。愛らしい子だ」
縋るように私の名を呼ぶなまえが愛しくなり、本音が口から出てしまった。途端に気恥ずかしくなり、なまえの身体を抱えて体位を変える。ちゅっ、といやらしい音を立てながらなまえの肌に食いつくと、なまえの身体は震えた。こんなつまらない愛撫で感じるとは、本当に男慣れしている。不快だ。実に不快だ。他の男に見せた顔を私に向けるな。もっと私を感じろ。私だけを求め、私だけを見ろ。
胸を揉みしだきながら女核を弄んでやる。それに加えて膣にも刺激を与えてやれば、なまえはいとも簡単に果ててしまった。ただ、女が果ててしまえば情けないことに男も果ててしまう。なまえの膣は実に具合がいい。不快なことに、他の男に開発され尽くしている。出来れば私がなまえをこの手で育てたかったものだ、と思いながら魔羅を抜くと、膣から白濁液が垂れ落ちた。まるで膣が私を拒んでいるかのような情景が不快で、いつものように指で押し込みながら攻めてやる。絶頂を迎えたばかりの膣は私の指さえ逃さないと言わんばかりに締め付けてきて、何と俗的な女なのだろうかと白ける。
「あ…あ、あ…っ」
「やめだ。気が逸れた」
「え…っ」
「どうした。まだ抱かれたいのか」
「その、雑渡さんが欲しいです…」
「ほぉ?では、私を勃たせてみろ」
他の男にしたように、私を興奮させてみろ。そう言うと、なまえは嫌そうな顔をした。ふむ、流石に意地が悪かったか。
あと少し、そうだな、五年ほど早ければなまえを私だけのものに出来ただろうか。その時はかろうじてではあれど、まだ私も人の形を保っていた。ただ、その時には婚約者が側にいたし、他に目を移す暇もなかったことだろう。あの女は息災だろうか。私をいとも簡単に裏切った、あの小賢しい女は。
「雑渡さんは、女性がお嫌いなのですね」
「ほぉ。何故、そう思う」
「そのような目つきをされています」
「これは可笑しなことを。情事の後だというのに」
「私はあなたをお慕いしています。あなたの冷たく凍った心を私が溶かして差し上げたい。本当のあなたを知りたい…」
そう言ってなまえは私の魔羅を口に咥えた。その舌使いから手慣れていることが伺える。身体は快感を得ているというのに、心はどんどん冷えていく。何人の男のモノを口にしてきたのだろうか。そんないやらしい顔をしながら、何度同じことを口にしてきたのだろうか。そう思うと股間が熱を帯びてきた。それは快感や興奮からではなく、怒りからだった。
「…もういい。離せ」
「ん、もう少し…」
「いいから離せ。もういい」
なまえを押し倒して指先で膣を掻き乱してやる。お前の膣は何人の男を受け入れてきた。あぁ、気に食わない。
膣を壊す勢いで攻めると膣から液体が飛び散った。ここまで開発されているとは、まるで商売女のようだ。どこの男にここまで育てられたのだろうかなどと無粋なことを考えてしまう私の心は狭いのだろうか。なまえを自分だけのものにしたい。その想いは日に日に強くなり、気が付けばなまえの全てを手にしたいと願うようになった。それは言っても仕方のない過去から、まだ見ぬ未来まで。愚かしいことと自分でも分かっている。なまえを抱きながらくだらない嫉妬心など醜くも愚かな思考だ。そう分かっているのに、どうしても止められない。欲しい。私はなまえの全てが欲しい。
「潮まで吹くとはね。実に俗的な女だ」
「し…?」
「何を今更。初めてではなかろうに」
「は…はい…?」
「そう。まだ白を切る気か」
これはまた随分と強情な口だ、と言いながら膣を先程よりも激しく犯してやると、潮を吹きながらなまえは痙攣した。濡れた指を舐めさせ、これがお前の感じている証だと言うと、暗闇だというのになまえの顔が熱を帯びたのが分かった。
「こ、このようなことは初めてです!」
「へぇ?」
「い…いやらしい女だと思われましたか?」
「思ったとも、勿論」
「そんな…!雑渡さんだからですよ!?」
「なにが」
「私をこのように感じさせられるのはあなただけです」
「そう言えば私が喜ぶとでも?」
「私は元より情事が好きではありませんでした」
「これは面白いことを言うね」
「本当です!雑渡さん以外の方との行為は苦痛でした!」
信じて下さい、と抱き付いてくるなまえの身体は熱っているし、汗ばんでいる。呼吸が恐ろしいほど乱れているし、実にいやらしい。何が苦痛、だ。お前は初めから私に縋るように感じていたではないか。それとも、あれは演技であり、これが誠だとでも言いたいのか。
あーあ、萎えてしまった。そんなつまらない嘘など不快以外のなにものでもない。これも小賢しい女の一人だったか。
「覚えておけ。私はくだらぬ嘘は好まない」
「本当です!」
「そう、分かった。分かったから、もう寝るよ」
濡れた布団の上に身体を横たわらせる。あぁ、これはもう一枚布団がいるな。毎夜こんなにも濡らしていてはカビが生えそうだし、風邪をひいてしまう。
くだらない嫉妬心からつまらないことを口にしてしまったことを恥じて、なまえの顔が見られなかった。他の男に抱かれるように私に抱かれることが不快だ、なんて言っても仕方のないことだと分かっている。別に私とて女を抱くことが初めてなわけではない。互いに過ぎた過去のことを責め合ったところで何一つ利点などなく、無駄な行為だ。そもそも、別になまえの初めての男でありたかったと思っているわけでもない。くノ一という職業柄、身体を差し出すことは致し方のないことだ。そこまで分かっていながら、何が不快なのだろうか。自分の思考ながらに疑問点が多い。よく分からない。
「…雑渡さん。私はあなたが好きです」
「そう」
「雑渡さんだけが私の特別です」
「ふーん」
「どうしたら信じて下さいますか?」
「さぁ?自分で考えたら?」
「私は愚かなので、分かりません。教えて下さい」
これはまた愚かなことを…となまえを睨むと、なまえは涙を流していた。何故、泣く。私に軽率な女だと思われたところで心を動かす必要などないだろう。なまえにとって私は恐ろしく、嫌な男だろう?初めて会った時から、今日までずっと。
「…泣くな」
「あなたが泣かせたんですよ!?」
「もういい。分かったから」
「何が分かったというのですか!?」
「お前が私に好意を抱いているというのは認めよう」
「違います!」
「…はぁ?」
「ただ好意を抱いているなどと甘く見ないで下さい!私はあなたを心より慕っています!あなたをお支えしたいです!」
「…そう」
何か、前にもそのようなことを言った女がいたな。結局のところ、あれはただのその場凌ぎの嘘であったわけだが。
女というのはどうしてこうも簡単に嘘を吐くのだろうか。男を弄ぶことがそんなにも楽しいのか。だとするならば、信じられないほど悪趣味なことだ。それに一喜一憂するほど私は単純ではない。そんな戯れ言を信じられるほど私は女に対し好意的な感情を抱いていない。あの女のようになまえも私を偽り、そしていとも簡単に裏切って離れていくのだろう。そんなことは許しはしないし、何度離れていこうとも連れ戻す気ではいるが。私に近付いたお前が悪いのだ。恨むのであれば、あの時逃げ出さなかった己を恨め。しかし、私の心を溶かす、ね。面白いことを言うものだ。そんなこと出来るはずもないだろうに。どれだけの根気がいると思っているのだ。
「お前が考えているほど私は単純ではない」
「そのようなことを考えてはいません!」
「どうだか。お前がこれまで転がしてきた男のように私はそう簡単には揺らがない。私の人生を左右出来ると思うな」
例えなまえを好いていようとも、特別であると考えていようとも、私はそう簡単に揺らがない。仮になまえが絶命しようとも私はその屍を弔うこともせずに、これまでの想いをなかったことにするだろう。その残忍さこそが私が組頭にまで登り詰めた理由であり、人らしい感情などとうの昔に捨てている。これは絶対だ、何人たりとも動かせない、私の譲れない矜持だ。
もし私のこの頑なな、扱い辛い心を溶かすことが出来たとするのであれば、それは大したものだ。いい度胸ではないか。
「雑渡さん。もっと甘えてもいいんですよ?」
「甘える?」
「あなたは特別な立場にある方です。そう簡単に誰彼構わず甘えることなど出来ないことでしょう。ですが、私に甘えても害はないでしょう?私は城に何ら関係のない者ですので」
「具体的にどうして欲しいと言うのだ」
「寂しさを、悔しさを、切なさを私に見せて下さい。私があなたの弱さを全て受け止めます。私に支えさせて下さい」
「…その、支えるという表現は好きではない」
「何故ですか?」
「何でだって構わないだろう」
あの女のことを思い出すから、とは言えない。別に好いていたわけではない。だが、大切にしていたつもりだった。時間を割いたし、感情的な情事をしたこともない。一人の「できた男」として接していたつもりだ。当然、なまえに掛けているような厳しい言葉を発したこともないし、言い合いになどなったことは一度たりともない。なのに、あれは床に伏せた私の顔を一度も見に来なかった。婚約を破棄したと一方的に相手方から書面が届き、噂で家庭を持ったと耳にした。当人であったはずの私はいつの間にか部外者となっていた。片目が見えず、片耳が聞こえず、人目を憚るような見た目へと変貌したのだ、致し方がない。それでも、一言くらい声を掛けて欲しかった。「嫌い」でも「気味が悪い」でも構わない。構わないから、当事者でありたかった。
あぁ、なまえといると余計なことばかり考えてしまう。嫌なことばかり思い出す。自分の中で蓋をしていたものをこじ開けられ、掻き乱してこようとされる。私を受け止めるだと?私がどれだけ臆病で、弱い人間か知りもしないくせに、よく言う。受け止められるだけの器量があるとでもいうのか。
「…では、一つ心を曝け出してやろう。私は他の男に抱かれるように対応されることが不快だ。お前が他の男に何度も抱かれていたという事実に虫唾が走るほどの苛立ちを覚える」
「それはどうしろと言うのです?」
「どうしようもないことだ。お前の身体は他の男の手によって既に開発されているのだから。心の内を曝け出したところで何一つ解決などしない。何一つ変えることは出来ない」
分かったら、さっさと寝よう。明日も明後日も、明々後日も仕事だ。さて、いつ殿に話すかな。少なくとも、今は話す気が逸れた。とてもではないが、好意的に話を持っていける自信がない。まぁ、こんなつまらない嫉妬心など時が経てば気にならなくなることだろう。解決のしようがないのだから。
「…分かりました。では、あなたの手で私を変えて下さい」
「は?」
「私の身体を好きにして頂いて構いません」
「あのね…そのようなことを女が気軽に言うものではない」
「はい、どうぞ」
両手を広げるなまえを見て、こんな色気のない誘い方があるものかと呆れる。何が、好きにして頂いて…だ。下手をすればとんでもないことになるというのに。
やれやれ、となまえを抱き締めながら膣に指を入れる。奥へ押し進め、固いところを擦るとなまえは悲鳴をあげた。それが快感からではなく、苦痛が故に発しられている悲鳴であることが分かり、これは意外な反応だと驚かされる。どの遊女も信じられないほど簡単に絶頂へと堕ちるというのに、まさかなまえのここは未開発だとでもいうのだろうか。
「ひ、い…っ」
「ふぅん?そう、お前は本当に意外な女だ」
「は…?」
「いいだろう。ここは私が育ててやる」
「い…あ、あ…っ」
浅いところを擦り、快感を呼んでは奥を弄る。時折、潮を吹かせてやりながら痙攣するなまえを何度も攻め、魔羅で奥を擦るように抉ってやる。浅い呼吸が部屋に響き、苦痛に耐えながらも必死に受け入れようとする様があまりにも扇情的だった。我ながら好いた女に対して取る態度として不適切であると思う。こんなことばかりしていたら、心など手には出来ない。そんなことは分かっている。それでも、なまえが私を「支える」というのならば、受け入れてもらおうか。出来るものならばこの醜く変形した歪な心を丸くしてみろ。
中に全て出し切り、流れた涙を拭うとなまえは虚ろな目で私を捉えてきた。その目は恨みがましいというわけでも、事が終わったことに対する安堵でもなく、愛しそうに見えた。
「…お前は奇妙な女だ」
「雑渡さん、あなたは本当に可愛らしいお方…」
「は!?いま、何と言った?」
「ずっとお一人で頑張ってこられたのですね」
そう言ってなまえは私の頭を撫でた。まるで母親が幼子に対してするかのような手つきにゾワッとする。今しがたまで幼子がするにはあまりにも欲に忠実な行為をしていたというのに、奇妙なことをするな。やめろ、私を暴こうとするな。私の心の内に触れようとするな。
なまえの手を払ってやると、私に微笑みかけてきた。
「お慕いしております、雑渡さん」
「…もういい。寝る」
「わぁ、布団が冷たい…」
「誰のせいだ」
「雑渡さんのせい、では?」
「お前が汚したのにか」
「私をそうさせたのは雑渡さんですよ」
「勝手に感じていただけだろう」
「あなたとする情事はとても気持ちがいいので」
「そう言えば男が喜ぶと知ってのことか」
「雑渡さんも喜んでくださるのですか?」
「さぁ、どうだろうか」
もういいから寝るぞ、となまえを抱き締める。激しい行為で流した汗を吸った包帯と、愛液で濡れた布団が奪っていく体温を補うように身体を寄せ合った。柔らかい肌が乾燥した肌に当たり、妙な気分にさせられる。
言いようのない罪悪感と醜い思考しか出来ない自分を恥じる気持ちが湧き上がる。他者を想うとは何なのだろうか。どんなに大切にしても、人は簡単に離れていく。移ろいやすく、永遠の想いなど存在しない。そんなものを信じるほど私は幼くないし、単純でもない。だけど、なまえならば、もしかしたら本当に私のことを…
あぁ、やめよう。こんな自分らしからぬことを望むなんて馬鹿げている。なまえは大した女だ、本当に。この子といると私はおかしくなりそうだ。なのに、やめられない。もう離れられない。自分がゆっくりと変わっていくのがはっきりと分かる。それが怖いとも思うし、不思議なことに楽しみとも思ってしまった。私を変えられるものなら変えてみせろ。そんな強気なことをこの時には思ってしまった。それは後から思えば失敗だったとなまえが家から逃げ出した時に悔やむこととなるのだが、そんなことは知る由もない私はなまえを強く抱き締めた。どこにも逃がさないと言わんばかりに。