雑渡さんと一緒! 54


どうしてこんなに可愛く思うのだろうかとたまに不思議に思う。自分にも他人にもそれほど興味のない自分がここまで翻弄されるのは予想外のことだった。そしてまた、翻弄されることを喜んでいることに対しても驚きを隠せない。
あどけない笑顔を携えたなまえの肩を抱くと、ふんわりと柔らかい笑顔を向けてくれた。たったそれだけのことで胸がきゅうっと締め付けられる。媚びた女の顔なんて死ぬほど見てきたというのに、何て可愛らしいのかと思わずこちらも意図せずに笑顔になってしまう。愛おしくて仕方がない。


「なまえは可愛いね」

「あ、ありがとうございます」

「ね、私のこと好き?」

「えっ」

「ねぇ。好きでいてくれてる?」

「ま、まぁ…」

「ちゃんと言って」

「…もう。からかわないで下さい」


すっと離れて行こうとしたから、細い腕を掴んでソファに押し倒す。なまえはあまり素直に愛情を表現してくれる子ではなかった。ただ、私とて別になまえが私をどう想っているのか知らないわけではない。甲斐甲斐しいほどに世話を焼いてくれているし、今もまた頬を赤く染めて目線を逸らしている。その表情の何と官能的なことか。
ただ、好きと言われたい。好きと言われて、安心したいのだ。愛情を言葉にして貰えるだけで満たされる。にも関わらず、こうもはぐらかされてしまっては、面白くない。


「ほら、ちゃんと言って」

「どいて下さい!もう…」

「まったく、素直じゃないんだから…」


やれやれと大袈裟に溜め息を吐き、抱き上げる。私は別に鍛えているわけでもないけど、小さななまえの身体は軽く、例え暴れられても重いとも思わない。
なまえと寝るために買ったベッドに降ろす。くっついて寝たいから前と同じセミダブルにしようかと悩んだけど、後々のことを考えてクイーンサイズにしたベッドは今は大きすぎてスペースが余っている。それでも、凄い凄いとなまえがはしゃぐものだから、このサイズにしてよかったなと思っていた。なまえは毎日シーツを交換してくれているから、綺麗にベッドメイクされている。その整ったシーツをこれから存分に乱してもらおうか。


「ま、待って…」

「無理。待てない」


着ていたシャツを脱ぎ捨て、半裸になるとなまえは小さな悲鳴を出した。こうして身体を重ねる回数が両手両足では足りなくなった今でも新鮮な反応を見せてくれて何とも愛らしい。これ、もしかして計算してるのかな?だとしたら、とんだ小悪魔だな。
さて、となまえの可愛らしいパジャマに手をかける。この前買ったばかりの、ふわふわのパジャマはなまえによく似合っていた。見ていて癒されるんだけど、今は邪魔なだけ。


「あ、あの…っ」

「なに」

「今日は雨だったんです」

「知ってる。それが?」

「シーツが乾いていません」

「で?」

「明日、困るので今日はやめましょう?」

「別に私は困らない」

「そ、それに、ほら、毎日してるから雑渡さんも疲れているでしょ?たまにはお休みしましょうよ?」

「なに、歳だって言いたいの?」

「そうじゃないですけど…」

「さっきから御託を並べているけど、私としたくないの?」


最もらしい理由を必死で探している様子に疑問を感じ、そしてまた不安を感じた私は問いかけてみた。すると、なまえは唸り出した。


「…言っても呆れませんか?」

「それは内容によるでしょ」

「その、実は今日、友達と雑渡さんの話になったんです」

「私の?」

「はい。えっと、その、毎日こ、こういうことをしていたら飽きられちゃうよって…私、男の人のことはよく分からないですけど、そういうこともあるんだなと思って…」

「ほーお?」


つまり、毎日毎日飽きもせずになまえを抱いていたら次第に食い尽くしたと言わんばかりに飽きる、と。生憎同じ女と何度も寝たことはないからその気持ちはよく分からないが、成る程、そういうくだらないことを言われて悩んでいた、と。
これだからなまえを外に出すのは嫌なんだ。私の知らない所で知らないうちに傷付けられている。ましてや、そんなくだらない理由で。実に不愉快な話だ。


「で?」

「で?とは…?」

「なまえは私としたいの?したくないの?」

「そ、そりゃあ…し……たいですけど…」

「じゃあ、問題ないね。はい、続行決定」

「えっ。きゃあっ」


乱雑にパジャマを剥ぎ取り、これでもかというくらいに激しく抱いた。そんなつまらない心配なんて必要ない。
先のことなんて私にも分からない。ただ一つ言えることは、なまえに飽きるなんて絶対にないことだ。こんなにも好きなのに、この想いが風化するなんてことは絶対にない。それを疑われたことは実に不快だった。
これ見よがしにと首筋におびただしい数のキスマークを残してやる。明日からそれを見せつけるように生活しなさい。そう告げると、快感に身をよじり、シーツを握り締めながらなまえは静かに頷いていた。
飽きる、ね。私が飽きることなどないにしても、なまえが私を飽きることはあるかもしれない。人の心とは移ろいやすいものだから。ま、だとしたら、そう出来なくなるよう愛でるまでだ。甘やかして、私なくしては生きられないくらい夢中にさせないと。お前は私のものだ。絶対に手離しはしない。
ベッドの中で何度も何度も愛を伝えると、今にも消えそうなほど小さな声でなまえも好きだと言ってくれた。この一言が私をどれほど喜ばせるかを知った上で言うのだとすれば、やはりこの子は小悪魔なのかもしれない。


[*前] | [次#]
雑渡さんと一緒!一覧 | 3103へもどる
ALICE+