ミョウジナマエという少女は、どこにでもいるような平凡な人物だった。
成績は平均で咎められることはなく、人間関係において荒波を立てたことはない。

加えて彼女は自分が平凡だということを早い段階で理解していた。故に、このまま中学校を終えて高校へ進学、そしてあわよくば大学へ。

ナマエは知っていた。平凡だということは、幸せなことなのだと。だからこそ決して多くは求めずに、自分の可能な範囲で生きていこうと思った。そんな彼女を誰も不思議に思わない。


「ナマエさん進路先についてどう考えてる? 進学?それとも就職かい?」


担任の教師がファインダーとペンを持ちながら尋ねる。教師の言葉にナマエはぐっと息を詰まらせて、それから少し俯いた。

その様子にまだ進路先を決めかねているのかと捉えた教師は、彼女の成績を確認しながら推奨される高校のリストアップを始める。


「迷っているのかな。 とりあえず参考までだけど、ナマエさんの成績に近い高校をふたつみっつ書いておくよ。 進学に決めたときのためにね」


教師の言葉に、ナマエは今度は指を捏ね始める。すると指先から透明な糸がゆるりと出て、絡まっていく。

その行動をする時は決まって言い難いことがある時だ。教師はペンを動かす指を止めて渋い顔をする彼女を見る。すると、その指先から出る糸がぷつりと切れた。

俯いていた顔を少し上げて、控えめに視線を合わせる。
もしかして、最初から進路先を決めていたのではないだろうか。そうすると何か言いづらい理由でもあったのだろう。

教師はナマエが口を開くまで根気よく待った。ナマエはまた指先から糸を出して捏ね始める。
しかし今度は糸を切る前に口を開くのだった。


「せ、先生。 私、雄英高校に……行きたいです……」


もつれた糸がぽとりと膝の上に落ちる。


「……あそこに入るには今以上に頑張らないと大変だぞ。確かに普通科は雰囲気も良いし……」

「ヒーロー科に入りたいんです」

「……、ヒーロー科」


今まで"挑戦"をしてこなかったナマエの口から出たのは、数ある高校の中でもずば抜けて高い壁の名前だった。





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