自分はどうしてこんなにも突出していないのだろう。
そんなことをナマエは寝る前や、授業中にごく稀に思いつき考えることがある。

特に優れた面があるわけでもなく全てにおいて並。少しだけそれが気になって周りに相談を持ちかけてみても返答は決まって「いいことじゃないか」である。

それこそ平凡が嫌ならば、勉強でも趣味でも突き詰めればいいだけの話だ。

結局、ナマエはそれをするでもなく諦めた。


『私ってほら、凡人だし……』


ナマエはよくこう言った。
早い段階から彼女は自分が平凡だと理解していると述べたが、本当は違う。

頑張るよりもまず、諦めることが多いだけだった。そしてやはりそれも、ナマエは早い段階で気付いていた。


――……自分を変えたい。


誰よりも自分の諦めの良さが嫌いだった。いつも何かに逃げ腰で、こなせる範囲で行動する。
周りからしてみれば無害である意味優秀な人柄であるが、ナマエはそれがコンプレックスだった。


お邪魔ヴィランを一撃でのした少年、凄かったな。

倒してもポイントにならないのに立ち向かって行く姿は、入試試験が終わって尚、きらきらと輝かしくてナマエの瞼に焼き付いて離れない。

一目見ただけで分かった。自分とは真逆の人間なのだと。

切島に続いて、あの大人しそうな少年もきっとヒーローに向いている。


「私もなりたいな、ヒーローに」


雄英高校からの不合格通知に、雫が落ちた。


***


早朝、満員電車に揺さぶられながら瞼を擦る。

ナマエは雄英のヒーロー科にこそ落ちてしまったが、普通科へ足を踏み入れることは許された。

雄英高校に入学するなんて、今までの自分からしてみれば想像もつかない大業であるし、本来なら両手を大きく広げて親と喜んでいただろう。

しかしナマエは普通科に入りたかったのではない。ヒーロー科に入りたかったのだ。だって自分は……、密かに人並みに憧れていたのだプロヒーローに。けれど、そう、人並み憧れているだけではいけなかったのだろう。

毎日何を目的として雄英に通えばいいのか。よく分からないまま通学するのは、なんだか自分らしいと心の中で自嘲する。

それでもいいかもしれない。ふとそんな考えが浮かび上がって、ハッとした。


『ーー駅』


雄英高校の最寄駅の名称が、電光掲示板に映し出されていく。

ナマエは吊革から手を離して、人を掻き分けて降りた。


「(これじゃまた同じ)」


まだ何も変わっていない。自分はまだ、高く掲げた大きな目標を達成出来ていない。

渋い顔をしながら、改札口を早歩きで飛び出した。所詮、ナマエは雄英高校の普通科に受かっただけで、プロヒーローを目指すどころかヒーロー科にすら入っていない。

唇をきつく噛んだ彼女の顔は少しだけ焦りが忍ぶ。まるで何かと戦っているようだった。

するとそんなナマエの姿とは対照的に、彼女を見つけて嬉しそうに寄る影がある。

その影は真っ赤な髪を携えて、彼女の肩を叩いた。


「おはよう! ミョウジ!」


突如、大きな声で名前を呼ばれてナマエは驚いたように振り返る。

すると彼女の前に回り込むのは人懐っこい笑みを浮かべてた赤髪の少年だった。

ナマエはやけに馴れ馴れしく接してくる少年を不思議そうに見る。

「ミョウジ」と名前を呼ばれたのは確かだが、如何せんナマエは彼に見覚えなどなかった。


「ん……?」


思わず首を傾げ、目を細めて頭の中を探ってみるが、自分には赤髪のこんな少年など知りえない。


「……ごめんなさい、あの」

「どうしたどうした!」

「誰だか、分からなくて……」

「えっ!?」


ナマエの気まずそうに紡がれた言葉に、赤髪の彼は大きくショックを受ける。
しかし次に何かに気付いたようで、少年は照れたように己を指さした。


「切島! 雄英の入試試験で一緒だった切島だよ!」

「切島……、あれっ、切島鋭児郎くん?」


しどろもどろになりながら、容姿と一致しない名前を呟く。すると切島は途端に表情を明るくして「そう!」と言った。


「どうだっ! 気合い入れてイメチェンしたんだぜ!」

「なんだ、そうだったの。 凄くかっこいいよ!」

「サンキュー! それにしても良かった。ミョウジも雄英受かったんだな」


切島はナマエの制服姿を一見して言った。彼の何気ない言葉にずきりと胸が痛む。


「あぁ、あはは。まあ……」


嬉しそうに紡がれる言葉をはぐらかすように笑って躱した。
確かにナマエの身に纏う制服は雄英のものではあるが、ヒーロー科、普通科と学科ごとにデザインが細かく違ってはいる。切島の様子なら、まだそのことを知らないのだろう。


「折角だし一緒に行こうぜ」


そう言って彼の手は、ぽん、と1回、肩を叩いた。

……ああ、そこのボタン。ボタンの数が私とあなたとでは違うのよ、切島くん。

なんて言葉を発する訳もなく、ナマエはにこりと笑って頷いた。





top