「バカな男」

 クイーンはマイクが拾わない程度の声で、モニターに映るリボルバーを嘲笑った。これなら「イグニス本体を賭けてこの場でプレイメーカーと闘え」と言っても承諾するだろう。
「(それも面白いわね)」

『いいわ。あなたが条件を増やすなら───』
 クイーンの言葉を遮り、なまえはリボルバーの差し出した腕に飛び付いた。解析プログラムをディスクに戻させると、震える足で飛び退いて距離を取る。
「───!」
『……! なんのつもり?! みょうじなまえ!』
 邪魔をされたことに苛立ったクイーンの声が響く。リボルバーもその目に何か感じ取ったのか、驚きを隠せない。
「りょ…… いいえ、リボルバー。私とデュエルして」
「よせ、私はお前を犠牲にはできない!」
 リボルバーの目は、間違いなく了見そのものの目だった。たとえ虚構の世界だったとしても、なまえと対峙して歪む瞼にある真実は、なまえの心を痛めつける。
「私も、もう了見を犠牲に生きることはできない。……思い出したのよ。10年前、なにがあったのか」
「……!」
 プレイメーカーや、モニター越しに見ていたクイーンがそれに反応を見せた。リボルバーも目を見開いたまま口を閉ざすばかりで、なまえから顔を逸らすことができずにいる。

「10年前の記憶? そんなもの、解析データには入ってなかった」
 ここへ来て新たな情報を口走ったなまえを、クイーンがモニター越しに睨みつけた。直ぐ横に控えていた研究員に「どういうこと?! はやく解析しなさい!」と怒鳴り散らす。

「10年……いいえ、それよりずっと前から、私と了見は友達だった。だけどある日、あなたの家で遊んでいた私ともう1人の男の子は、おじさまから出されたジュースか何かで眠ってしまった」
 プレイメーカーが息を飲むのを、リボルバーは背中で感じ取っていた。なまえは彼の存在をぼんやりと思い出してはいるようだが、それがプレイメーカーであることまでは流石に知らない。
「おじさまがあなたに2人の友達のうちから片方を選ばせたのも、そして男の子の方を連れ去ったのも私は聞いていた。おじさまは私も薬で眠っていると思っていただけで、ソファから落ちて一度目を覚ましていたのを知らなかったんだわ。了見、あなたも私が起きていて、会話を聞かれていることに気付いていた」
「……覚えているのは、それだけか?」
「……」
 ショートバイザーの端から覗く目を細めたリボルバーに、なまえは唇を噤む。俯いて少し考えたあと、なまえは首を横に振った。
「おじさまはあなたに、どちらが大切な友達かを聞いた。……そして私と彼を天秤にかけて、あなたは男の子の方を選んだ。男の子の方を守ろうとしたのよね? 私が大切にしていたものを、一緒に大事にしようと約束していたから」
「……!」
 声を上げそうになったプレイメーカーをリボルバーは咄嗟に手で牽制する。プレイメーカーも意図を察して、無駄な茶々を入れることをやめた。
「だが私は、あのときヤツを助けたことを激しく後悔している。あの選択が発端となり、結果としてお前から記憶を消し、この10年間、偽りの人生を過ごさせたことに変わりはない。何よりお前を直接傷付けたのは私自身だ。ロスト事件や父も関係ない」
「違う、了見は私を救うために自分を犠牲にしてくれた。偽りの人生を送るためなら、私より深く傷ついていたあなたも一緒に記憶をリセットされているはずだった! だけどあなたは背負うことを決めたのよ。私を突き放したのだって、子供の頃の話だわ。……私は、もう充分すぎるくらいに了見から愛された」
 手を振りかざし、デュエルディスクを起動させる。闘う姿勢を見せたなまえに、リボルバーは手を握りしめた。
「あなたが苦しんだ分だけ、私はあなたに命を返すわ」
「なまえ、……」
「精算をしましょう。この闘いをしなければ、私たちは前に進めない。どうか私と闘って、そして私を取り返して。生命維持装置が無くても、私は必ず生き残る……!」
 リボルバーもついにデュエルディスクを起動させた。アイはプレイメーカーの感情の機微に反応してか、黙りこくってなまえを見つめるプレイメーカーを心配したように覗き込む。

「約束だ。私のために、生きてくれ」
「……うん」

「「デュエル!!」」



『リボルバーとみょうじなまえのデュエルが始まったわ』
 片耳に着けたイヤフォンにエマの逼迫した声が届けられる。通路を走る財前はぐっと歯を食いしばり、研究室へと急いだ。
『そんな、まさか自分たちの意思で闘うと決めるなんて……! 自分の肉体が限界に近いことは、彼女自身が一番よく理解しているはずなのに』
 エマのモニターには心電図などのバイタルも映し出されている。素人目にも危ない域に達しているなまえの肉体に、財前は自分の足を急がせるしか出来ることがない。
「頼むから間に合ってくれ……!」



「お前がどれだけ腕を上げたか試してやろう。全力で来い!」
「分かってるわ。───私のターン!」

『マスタールールでのデュエルか…… あの姉ちゃんの実力がリボルバーのやつにどこまで通用するか』
「どちらにせよ、これは厳しい闘いになる」
 デュエルが始まっては、プレイメーカーも傍観するほかない。今はただ少しでも彼女の体が持つことを祈った。

「モンスターを裏守備表示で通常召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」
(なまえ 手札 5→2/ LP:4000)

 『あらら?!』と肩透かしを喰らったアイがプレイメーカーのディスクの上でずっこける。
『あの姉ちゃん、やっぱ初心者か?!』
「確かにこのデュエル、早い段階でリボルバーが勝つことが彼女の生存確率にも大きく影響する。……だが、それならデュエル自体をしなくても良かったはずだ」
 鋭い目が伏せられたカードに注がれた。

「すぐに終わらせてやろう。私のターン、ドロー!
《スニッフィング・ドラゴン》を通常召喚し、モンスター効果を発動! このモンスターが召喚に成功したとき、デッキから《スニッフィング・ドラゴン》1体を手札に加える。
(手札6→5→6)

《スニッフィング・ドラゴン》
(★2・闇・攻/800→1100)

 ───現れろ、我が道を照らす未来回路
 召喚条件は、レベル4以下のドラゴン族モンスター1体! リンク召喚!!!

リンク1・《ストライカー・ドラゴン》!
 (リンク1・闇・マーカー/←・攻/1000)

 《ストライカー・ドラゴン》の効果! このカードがリンク召喚に成功したとき、デッキからフィールド魔法《リボルブート・セクター》を手札に加える。(手札6→7)
 そして手札に加えた《リボルブート・セクター》を発動! フィールドの「ヴァレット」モンスターの攻撃力、守備力を、300アップする。(手札7→6)
 《ストライカー・ドラゴン》(攻/ 1000→1300)

 さらに《リボルブート・セクター》の効果! 手札から《ヴァレット》モンスターを2体まで、守備表示で特殊召喚できる!私は《シェルヴァレット》と《ゲートウェイ・ドラゴン》を特殊召喚!
(手札 6→4)

《シェルヴァレット・ドラゴン》
 (★2・闇・守/2000→2300)
《ゲートウェイ・ドラゴン》
 (★4・闇・守/1600→1900)

 《ゲートウェイ・ドラゴン》の効果! 1ターンに1度、手札からレベル4以下の闇属性・ドラゴン族1体を特殊召喚する。私は手札から《アネスヴァレット》を特殊召喚!(手札4→3)

《アネスヴァレット・ドラゴン》
(★1・闇・攻/0→300)

 ───再び現れろ、我が道を照らす未来回路!
 召喚条件は、闇属性・ドラゴン族2体! 私はリンク1のストライカー・ドラゴンと、スニッフィング・ドラゴンをリンクマーカーにセット! サーキット・コンバイン! リンク召喚!!!

リンク2・《デリンジャラス・ドラゴン》!
 (リンク2・闇・マーカー/↑↓・攻/1600→1900)

 ───三度みたび現れろ、我が道を照らす未来回路!
 召喚条件は、《ヴァレット》モンスター2体! リンク召喚!!!

リンク2・《リローダー・ドラゴン》!
 (リンク2・闇・マーカー/←→・攻/1800→2100)

 《リローダー・ドラゴン》の効果! このカード以外の自軍のリンクモンスターを選択し、そのリンク先に手札から《ヴァレット》モンスター1体を特殊召喚する! この効果で特殊召喚したモンスターはリンク素材にできず、エンドフェイズに破壊される。私は手札の《シルバーヴァレット》を、エクストラゾーンに召喚した《デリンジャラス・ドラゴン》のリンク先に特殊召喚!(手札3→2)

《シルバーヴァレット・ドラゴン》
(★4・闇・攻/1900→2100)


『アイツ、マジでワンキルするつもりかよ?!』
 アイが恐ろしいものでも見るかのような目で戦々恐々とプレイメーカーにすがりつく。裏守備モンスター1体に対し、リボルバーはリンクモンスター2体と、このターンで破壊されるとはいえ攻撃力2100のモンスターの合計3体をフィールドに並べた。もし《デリンジャラス・ドラゴン》で裏守備モンスターを破壊できれば、残りの2体でライフは尽きる。
 しかしここまでフィールドを展開されても淡々としているなまえに、プレイメーカーは眉をひそめた。


「リンク・ヴレインズで初めて体感型デュエルをする私にも、本気で挑んでくれるのね」
「……」
 微笑んでいたなまえが顔を上げた瞬間、リボルバーのフィールドに展開していた3体のドラゴンにデータストームのような津波が押し寄せた。全てのモンスターが破壊されるその瞬間を、プレイメーカーもアイも、そしてリボルバー本人も硬直してその様を見ているしかできない。
「なん、……だと」

「私も本気で挑めて嬉しいわ、……了見!」



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