「や〜ね! そんなに驚くなんて失礼しちゃう! アタシってば天才だもん、これぐらい当然よ! なまえだって驚かなかったわ。でもね、これからがいいところよ。」
 なまえの名前に遊戯の肩が少し揺らぐ。レベッカがそれに気付くことはなく、手札からカードを取った。

「魔法カード“磁力の指輪”!」
 レベッカはそれを千年の盾に装備した。その行動に遊戯は警戒しながらも疑念を抱く。
「(磁力の指輪……確かあれは装備すると、守備力が下がってしまうカードだけど───)」

“千年の盾” (攻/0 守/2500)

「テリーちゃん、あいつワケわかんなくなってるみたいよ!ウフフフ!」
 笑い声をあげるレベッカに遊戯は警戒心を高めた。

「僕はこのターン、パスする!」
「あっそう! 様子見ってわけね。それじゃあ、いくわよ!」
 目を細めて遊戯を見ると、レベッカはデッキからカードを引いて手札を見る。

「“キャノン・ソルジャー”攻撃表示!」

“キャノン・ソルジャー”(攻/400 守/1300)

「こりゃマズいぞ! キャノンソルジャーはモンスターを生贄にしてプレイヤーを攻撃するモンスターなんじゃ!」
 焦る双六とは対照的に、城之内は危機をいまいち理解してはいなかった。
「大丈夫だって、じいさん!あれくらいの攻撃力ならデーモンで蹴散らせるぜ!」

 城之内の予言ともいうべきか、遊戯はそれしか手がなかった。
「くっ…… デーモンの召喚でキャノン・ソルジャーを攻撃!」

「そうはいかないわ!」
 強気なレベッカの声に呼応するように、デーモンの召喚の攻撃が吸い込まれるように千年の盾に向けて逸れる。
「磁力の指輪は守備力を500下げる代わりに、敵モンスターの攻撃を全て引きつける装備魔法なのよ! どう? 今のアタシにはそう簡単に攻撃出来ないってワケ!」
「(デーモンの召喚の攻撃力と、千年の盾の守備力は互角…… それでは守備モンスターを破壊する事はできない!)」

***

 バクラは意外な光景を見ていた。壁も窓もない薄暗い空間に、子供が入れるくらいの檻が積み上げられ、中には色とりどりのドレスや宝石が入っている。そこから櫛や割れた手鏡、壊れたジュエリーに破られた写真などが足跡のように続き、辿った先にはシーツの乱れたベッドがひとつあった。
 ベッドの上にはカードが散らばり、表になっている何枚かを見れば、それがあの厄介な魔導士たちのカードだとすぐ察することが出来る。

《オレ様の存在に気付かれるのは厄介だ。起こす前に、この部屋を漁らせてもらうぜ。》

 ここはなまえの心の部屋だった。彼女の魂に宿る魔導士を媒介に忍び込んだはいいものの、目ぼしい情報は見つからない。

《なぜ千年秤がこの女を選んだのか…… 必ず何かあるはずだ。》
 それにしても…… とバクラは振り返る。なまえが荒んだ生活を送ってきたのだけは理解した。写真を拾い上げても、どの写真も顔が破り取られているものばかりで、少しも役に立たない。

 チリ……と千年リングの鉤が擦れる音がした。
 バクラがそれに目をやると、一本の鉤が真下を向いたまま反応を見せている。

《……! なんだ、これ》
 黒いタイルのような床だと思っていた足元に、光が透けて底が見えた。鏡のように正反対に映っていたのは、石の壁に神殿のような石柱……ヒエログリフや壁画も見える。
 ハッとしてバクラが振り返る。ベッドの下に映っていたのは、紛れもなく石棺だった。

《ハッ! テメェの秘密は……これだったのか! いいゼ、あとはこの反対側の心にどうやって忍び込むかだ。時間はたっぷりある。せいぜい楽しませて貰うとするぜ……!》

***

「さぁ! 今度はアタシのターンだからね!」
 レベッカはドローしたカードを見ると、思わず口の端が上がりそうになった。
「(フフフ…… これを待っていたのよ! でも今はまだ使うタイミングじゃないわね……)」
 蜘蛛のような複眼に鋭い爪を誇示するモンスターのカード……“シャドウ・グール”がレベッカの手札に加えられる。そして積み込みをしていたモンスターに手を逸らした。

「“黒き森のウィッチ”を攻撃表示で召喚! さらに黒き森のウィッチを生贄にして、キャノン・ソルジャーでプレイヤーを直接攻撃!」
「うっ……!」

遊戯 LP:1100

 遊戯は思いがけなかった状況に焦りを感じ始めていた。油断していたわけではないが、やはりレベッカの実力が本物であるとまざまざと見せつけられている。
 遊戯の思惑は状況打破と、レベッカに勝つ事に向けられていたが、彼女のプレイングに僅かな違和感を感じ始めてもいた。

「ついでに黒き森のウィッチの効果で、デッキから1枚カードを引くわ!」

「(あの子は、もしや───)」
 レベッカのプレイングに確信を持っていた双六は、もはやレベッカではなくその向こうに立つ男の陰を脳裏に浮かべていた。

「ブルーアイズを奪われた者の心の痛み、───思い知らせてやるんだから!」

 レベッカの言動に、双六はついに応えを見出した。
「やはりそうか……! レベッカ、オマエさんは……!」
 動揺を見せた双六に、レベッカの目が光る。

「ようやく気が付いたようね! Yes!私の名前はレベッカ・ホプキンス!
 かつて大切にしていた“青眼の白龍”をあなたに盗まれた、アーサー・ホプキンスの孫よ!」

 「なんだって?!」と城之内達が騒めくのを横目に、遊戯の目はしっかりとレベッカを捉えていた。
「君は、じいちゃんの親友の孫だったのか……」

「そのとうり! さぁ、おじいちゃんの恨み、これからトコトン晴らさせてもらうんだから!」
 レベッカは意気揚々として遊戯に向き直った。

「覚悟しなさい!」


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