海馬と遊戯は眩い光に目を凝らした。なまえに残された最後の1枚、それは奇しくもデュエリスト・キングダムで遊戯との闘いに入れた、───海馬のブルーアイズのために入れ、そして遊戯に弱点を見破られる決定打になったカード。
 そのドラゴン族専用魔法カードがなぜ今あるのか。はたして抜き忘れたのか、それはなまえ本人にも覚えがなかった。だが現にこうして手の中にある。
 自分の敗北と引き換えに、アルティメットへの布石を残していけるのだ。

「“復活の福音”───ブルーアイズを墓地から蘇生し、フィールドに特殊召喚する!」

「ほざけ! ブルーアイズ一体蘇生したところで、デッキを使い切ったお前はゲームオーバーだ!」

「なまえ!」
 なまえが微笑んで目を合わせたのを、海馬は確かに見た。そして遊戯も、なまえが自分と同じ色の目で海馬を見たのを理解した。

 ブルーアイズの蘇生と引き換えに、なまえも光の粒子となって消え去った。海馬は震える手を握りしめ、怒りに燃える身体で立ち上がる。
「許さん……」
 小さく呟いた海馬を遊戯が見上げた。

「許さんぞ! ビッグ5!
  いでよ! アルティメット・ドラゴン!!! 今こそその究極の姿を現せ!!!」

“アルティメット・ドラゴン”(攻/4500 守/3800)

 アルティメットの召喚にも、ビッグ5は動じなかった。むしろまた嘲笑うように遊戯たちを見下ろす。
「フフフ…… いかにアルティメットといえど、このファイブ・ゴッド・ドラゴンの攻撃力には及ばぬ!」

「それはどうかな。」

 遊戯は海馬と並び立った。海馬も横に立つ遊戯に目を向けるでもなく、黙って眼前の敵・ファイブ・ゴッド・ドラゴンに身を窶したビッグ5に鋭い眼光を突き刺した。

「《最強の竜と戦士揃いし時、邪悪なる神は滅びる》。───今教えてやるぜ!!!」

 遊戯はその手に“融合”のカードを掲げた。
「いけ! カオスソルジャー!」
「アルティメット!」

 その融合を阻止すべくファイブ・ゴッド・ドラゴンが攻撃を仕掛けるも、強烈な光にその攻撃は弾かれ、掻き消された。やっと狼狽るファイブ・ゴッド・ドラゴン、そしてビッグ5の前に、神々しいまでに輝く竜の肢体が露わになる。

「「究極竜騎士マスター・オブ・ドラゴンナイト!」」

 彼らの目に映るのは、究極竜騎士の姿だけではなかった。眩い光の中に揺蕩う、墓地に眠るドラゴンたち───それは城之内のレッドアイズ、舞のハーピィズ・ペットドラゴンの姿。
 そして自分たちからも力を吸い上げる、騎士ナイトが振り上げた剣だった。

「究極竜騎士は、場にいる全てのドラゴンの数だけ攻撃力を増す。……見ているか、城之内君、舞、モクバ、なまえ。───キミたちの力だ!」

究極竜騎士マスター・オブ・ドラゴンナイト”(攻/9000 守/4000)

「そんな……!バカな!!!」
 ビッグ5に残せた言葉はこれが最後となった。

「いけ! 究極竜騎士!」
「「ギャラクシー・クラッシャー!!!」」


***

 ファイブ・ゴッド・ドラゴンの撃破と共に、遊戯と海馬の視界は暗転した。突然広がった青空の眩しさに目をあけると、割れんばかりの歓声が2人を包み込む。

「こ、ここは……?」

 遊戯と海馬が立ち上がると、そこにはゴーラウンド国の民衆を前に、メアリー王女が立っていた。
「よくぞ邪神を倒して下さいました。これで世界にも平和がやってきます。」

 晴れやかに笑うメアリーを前に、遊戯と海馬の表情は冴えない。それどころか、海馬はモクバに似たメアリーを見るだけで顔を顰めた。
「でも、城之内くん達が……」
「これほど虚しい勝利はない。」
 そんな2人を前にして、メアリーはなお前に進み出る。

「勇者よ、邪神の消えたいま、今度は私があなた方に恩返しをする番です。」

 そう言ってメアリーが手を広げると、その姿は青い光と共に弾け、見覚えのあるピンク色の髪と純白の魔導着が翻った。
「あれが、姫の本当の姿だったのか……!」
 遊戯が見上げた先、そこには本来なまえのエースモンスターである“魔導法士ジュノン”の姿があった。なまえが禁止カードになっていると嘆いたカード達はつまるところ、この国の登場キャラクターだったのである。

 ジュノンが淡い紫色に光る魔導書をかかげると、晴れ渡った空と同じ色に包まれた4人が───そして、青い光に包まれた妖精、エアルが、その場に還された。

「モクバ! なまえ!」
「みんな!」
 海馬と遊戯の呼びかけに、惚けた顔の城之内が飛び起きる。
「あれ? どうしたんだ、オレたち……」
「兄様!!」
「ジュノン! なんで?! 禁止カードにされてたじゃん!! しんどかったのよ?!」

 歓声の中で6人は立ち上がり、互いに見合って安堵の域をこぼした。長い旅が無事終わったのかまだ実感は無いが、そこへ時空の歪みのような大穴が開いたので、やっと現実世界へと帰れることをまず喜ぶ。
「どうやらあれが出口のようだな。」
 海馬はさっさとそれに足を進める。
「ちょ、ちょっと待て海馬! 礼の一つくらい言ったってバチは当たらねぇだろ!」
 呼び止める城之内を、海馬は振り向きもせず鼻で笑う。

「オレが居なければファイブ・ゴッド・ドラゴンを倒すことは出来なかった。」

「なんだと!」
「ちょっと、もうやめなさいよ!」
 舞が宥ると、城之内も納得はいかないようだがとりあえずは口をつぐむ。やっと海馬が少し顔を後ろに向けると、その青い目は遊戯に注がれた。

「遊戯、お前にひとつだけ聞いておきたいことがある。……究極竜騎士マスター・オブ・ドラゴンナイト、お前はその存在を初めから知っていたのか?」

「フン、オレたちが信じている限り、必ずカードは応えてくれる。あの時もオレはカードを信じた。それは海馬、お前も同じだろ。」

 遊戯のその答えだけ聞くと、海馬は返事ひとつ返すことなく、なまえの腕を掴んで出口に足を進めた。
「は?! ちょっと離しなさいよ!」
「行くぞモクバ。」
「兄様!」
「無視しないでくれる?! あーもう、遊戯! “約束”忘れないでね!」

 海馬に引きずられるまま消えてしまったなまえを見送ると、舞は遊戯と城之内の肩に手をついた。

「ねぇ、あの2人付き合ってんの?」


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