「新たにデュエルの信号をキャッチ」

「(なまえも始めたか)」
 海馬は遊戯のデュエル状況の横に新しく映し出されたなまえのID写真に目を向けた。その目の色に潜むざわめきに、モクバはなにか感じ取ったのか海馬の横顔を覗き込む。
「兄さま……?」

***

「ワイの先行! ドロー!
(手札5→6 / LP:4000)
  へへん! ワイの恐竜デッキはパワー勝負! 見せたるでぇ……!
  《ジャイアント・レックス》(★4・攻/2000 守/1200)を攻撃表示で召喚!
  ターンエンドや!」
竜崎(手札6→5)


「(いきなり攻撃力2000のモンスター?!)
  私のターン!
(手札5→6 / LP:4000)
  魔法マジックカード《グリモの魔導書》! デッキから魔導書と名のつくカードを手札に加える!
  私は《魔導書士バテル》(攻/500 守/400)を攻撃表示で召喚!
(手札6→7→6)
  魔導書士バテルの召喚に成功した事で、私はデッキからさらに魔導書と名のつく魔法カードを1枚手札に加える。
(手札6→7)
  カードを2枚伏せてターンエンド!」
なまえ(手札7→5)


「ハンッ! 攻撃力500のモンスターにリバースカードォ?! ワイを舐めくさっとんのか!
  ワイのターンドローや!
(手札5→6)
  まずは魔法マジックカード《サイクロン》! 伏せカードを1枚ぶっ壊したるわ!」
(手札6→5)

「フン、さっそく破壊してくれてありがとう。トラップカード《呪われた棺》!」

「なんやて?!」

「このカードはセットされた状態で破壊されることで発動する罠カード。
  手札をランダムに1枚捨てるか、モンスター1体を破壊するか選びなさい」

「くっ! 手札を1枚捨てたるわ!」
「フッ…… 右から2番目のカードを捨てなさい。」

竜崎(手札5→4)
「チィッ そんでもこっちの優勢に変わりあらへん!
  《屍を貪る竜》(★4・攻/1600 守/1200)を攻撃表示で召喚!
  ジャイアント・レックスは直接攻撃がでけへんカードや。ジャイアント・レックス、魔導書士バテルを攻撃せい!」

「……!」
なまえ(LP:2500)

「さらに屍を貪る竜でダイレクト・アタックや!」
 畳み込む竜崎になまえは腕を振った。

「カウンター罠、《攻撃の無力化》!」
「チッ しのぎよったか……! ターンエンドや!」

***

「(フフフ…… せいぜいモンスターの攻防に神経を集中するがいい。その間に私は残りの《エグゾディア》パーツを揃えさせてもらう。貴様は何も気付かぬ間に敗北を迎えるのだ!)」

 城之内の不安は的中していた。レアハンターの手札には既に3枚のパーツカードが揃っている。目の前に出された強力な融合モンスターを前にしても余裕を見せる男に、遊戯はただだまってその動向を目で追った。

「私のターン、ドロー。……《天使の施し》」
「(また手札を入れ替えた……!)」

 6枚になったレアハンターの手札。天使の施しによりエグゾディアのパーツは4枚に増える。
「(私のデッキにはエグゾディアのパーツカードが全て3枚ずつ入っている。これで残るは───……《封印されし者の左腕》のみ!)」

「(なんだ? コイツ、何を企んでいる……?)」
 遊戯は自分が思い出せるだけのカードと戦法を頭の中で目の前の男と重ねた。この一見不自然な男の行動に、画面越しにデュエルを見ていた海馬も眉をひそめる。

***

「(この男…… 奇妙な戦法をとる)」

「瀬人さま! このプレイヤーの出したカードは登録されていません」
「なに?! 神のカードか……?!」
「いいえ、恐らくは偽造カードかと」
「なんだって!」
 オペレーターの応えにモクバが立ち上がる。だが現地に走ろうとしたモクバを海馬は止めた。

「この男、グールズか。……フン、面白い。やらせておけ!」

 海馬はすぐに男のデッキ構成を察した。一度“それ”の前に膝をつかされたからこそ、海馬の鼻が利いたのだろう。

***

「私はさらに《起動砦のギア・ゴーレム》(★4・攻/800 守/2200)を守備表示!
(手札6→5)
  これで私のターンは終了だ」
 レアハンターの男には、カードマーキングによって次に引くカードが見えていた。それこそ最後の1枚、《封印されし者の左腕》。次のターンが遊戯のラストターンだと宣言して嘲笑ってやりたい気持ちを抑え、ただ剥き出しそうになる歯を必死に唇で隠す。
 その様子に遊戯も不気味な何かを感じていた。

「(ヤツからは攻撃の意思がまったく感じられない。ひたすら守備を強固にして、ただ防衛線を張るのみ。つまり、モンスターの攻防によってオレのライフを削ることなど考えていない)」

「さぁどうした? お前のターンだぞ」

「(ライフポイントの削り合いではなく、攻撃を加えずオレを倒す方法…… 手札の入れ替え、コピーカードの量産。───フン、なるほど、考えたな。」
 遊戯のフッと笑った顔に城之内がいち早く反応する。

「わかったぜ、何をやろうとしているのかな。貴様にエグゾディアは召喚させない!」

「遊戯!」

***

「私のターン!
(手札5→6)
  私は《魔導教士システィ》(★3・攻/1600 守/800)を攻撃表示で召喚。
  さらに魔法マジックカード《ヒュグロの魔導書》を発動、このカードは魔法使い族1体の攻撃力を1000ポイントアップさせる!
(手札6→4)
  システィ(攻/2600)でジャイアント・レックスを攻撃!」

「クソッ」
竜崎(LP:3400)

「ヒュグロの魔導書のもうひとつの効果! 戦闘で相手モンスターを破壊したとき、デッキから魔導書と名のつく魔法カードを1枚手札に加える!
(手札4→5)
  さらに《魔導教士システィ》の効果! 魔導書の魔法カードを使ったターンのエンドフェイズ時、魔導教士システィをゲームから除外することで、魔導書と名のつく魔法カードとレベル5以上の光、または闇属性の魔法使い属モンスターのカードを1枚ずつ手札に加える
(手札5→7)
  カードを1枚伏せてターンエンド」
(手札7→6)

 どちらも一歩も引く様子はないが、状況は明らかに竜崎に傾いている。
 デッキ構成を変えたり、エースである《魔導法士ジュノン》や《ブラック・マジシャン》の召喚に生け贄が必要になった影響は決して小さくはないと痛感していた。

 これがクイーンの座を降りた私のスタートライン。手札を握る指に力が入る。


「(力押しするワイの恐竜デッキと、魔法カードで理詰めするコイツのデッキはまるで戦法が違う。この女がフィールドを組み上げる前に、力でねじ伏せたるわ!)
  ワイのターンドロー!
(手札4→5)
  へへん、来たでぇ! ワイは《俊足のギアザウルス》を特殊召喚! このカードは手札からの召喚を特殊召喚扱いにできる!
  俊足のギアザウルス、屍を貪る竜の2体を生贄に……《エビルナイト・ドラゴン》(★7・攻/2350 守/2400)を召喚や!」
(手札5→3)

「ぐ……」

「壁モンスターもナシにかわせへんやろ! エビルナイト・ドラゴン! なまえにダイレクト・アタック!」


「キャア……!」
(LP:150)

***

「だが戦略を見抜こうと、貴様に残されている時間はないぞ。私の手札には殆どの封印カードが揃っている。いまさらお前に何ができるというのだ」
 遊戯に戦略を見破られて一度は取り乱しかけたレアハンターも、次のターンで勝利することに変わりはないと自分を落ち着かせた。

 手札のエグゾディアは4枚。最後のパーツカードもデッキの1番上に眠っている。遊戯がターンエンドを宣言した瞬間、エグゾディアは完成する───!

 このたった1ターンで何ができるというのか。
 たかだか戦略を見破ったところで遊戯にできる事などあるはずが無い。レアハンターの男は嘲笑を浮かべた。

 それを見守っている城之内の頬に冷や汗が垂れる。
「(遊戯、どうすんだ……!)」


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