「(今、パンドラのフィールドにモンスターはいない。一気に攻め込むチャンスだ!)」

 パンドラと比べれば遊戯のライフは残りわずか。だがパンドラのフィールドには伏せカードが1枚。その程度で手を拱いていては勝つことなどできない。

「《幻獣王ガゼル》召喚!」
「フッ……トラップカード《悪夢の天秤》!」
「なに?!」

「このカードは相手がモンスターを召喚した時に発動し、私のフィールド上のモンスターの数に合わせてあなたのモンスターを減らすことができるのです!
  天秤の裁き!!!」

 パンドラのフィールドのモンスターはゼロ。遊戯は召喚していたビッグ・シールド・ガードナーと幻獣王ガゼルを破壊される。
「フッフッフ、これで互いのモンスターはいなくなりました。」

「くっ……オレはカードを伏せてターンエンド!」

「私のターン! フフフ、今度こそあなたは終わりです、遊戯! 私には一瞬にして上級レベルモンスターを召喚できるカードがあるのですよ。最上級魔術師・ブラック・マジシャンを呼び出すカードがね!

  行きますよ、これが勝利のカード……《黒魔術のカーテン》!

  このターン、全てのプレイヤーはライフを半分支払う事で、デッキの中から“ブラック・マジシャン”と名のつくモンスターを召喚することができる。
  出でよ!《ブラック・マジシャン》!」

 壁のない遊戯の前に、パンドラの2枚目のブラック・マジシャンが現れる。
「さらにその目障りな伏せカードも封じておきますか。魔法マジックカード《封魔の矢》!
  これで全ての対抗手段は封じました。あなたの負けです!」

 今度こそ勝った。そう確信してブラック・マジシャンに攻撃命令をだそうとしたパンドラの目の前に、《黒魔術のカーテン》が立ち塞がった。
「な、なに?! 黒魔術のカーテンが…… 遊戯のフィールドに?!」

 遊戯は足に迫る回転カッターの風圧に臆する事なく、手を握り締めてデッキに手を向ける。ブラック・マジシャンの残した魂、それこそが遊戯の勝利の最後のピース。

「そう、貴様が出した黒魔術のカーテンは相手プレイヤーにも使用権利が及ぶ。確かにオレのデッキに《ブラック・マジシャン》のカードは1枚しか入っていない。この世界で本物のブラック・マジシャンを持っているのは、オレとなまえだけだからな。

  だがデュエルモンスターズの世界には、最上級魔術師からその魔力を受け継いだ、たった1人の弟子が存在する!」

「ま、まさか、お、お前がもう1枚の魔術師レアカードを所有していたというのか?!」
 返事の代わりに遊戯は鼻で笑った。そして回転カッターがギリギリまで近付くのも構わず、遊戯はライフポイントを半分支払う。

「《ブラック・マジシャン・ガール》召喚!!!」

《ブラック・マジシャン・ガール》(★6・攻/2000 守/1700)
「フン、だがブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2000。私のブラック・マジシャンの敵でねじ伏せれば、その余力であなたのライフも尽きる!」
 遊戯のライフは残り350。パンドラはとんだ悪足掻きだと一笑して攻撃宣言をした。

「ブラック・マジシャンの攻撃! ブラック・マジック!

  フフフ。今度こそ私の勝ち───」
「それはどうかな?」

 遊戯が不敵に笑う。ライフを削られてモンスターを破壊されたのは、パンドラの方だった。
 フィールドに残るブラック・マジシャン・ガールを前に、パンドラが目を剥いて震える。

「教えてやる。ブラック・マジシャン・ガールは墓地に眠るブラック・マジシャンのカードの数だけ、その攻撃力を300ポイント上げる。弟子が師の魂を受け継ぎ、強くなるのさ!

  よく見てみろよ。ブラック・マジシャン・ガールは全ての墓地に眠るブラック・マジシャンの魂をも受け継ぐ。貴様に裏切られて散っていった、ブラック・マジシャンの魂の嘆きと共にな!」

 パンドラの目に、ブラック・マジシャン・ガールと自分が裏切った赤いブラック・マジシャンの姿が重なった。
「覚悟しろパンドラ! ブラック・マジシャン・ガール! プレイヤーにダイレクト・アタック!!!」

 ───ブラック・バーニング!

「カードの信頼を裏切った貴様の負けだ! パンドラ!」

***

「なんなの、この音」
 不穏な音に杏子が顔を曇らせる。モクバが音のする部屋のドアノブを回しても、鍵が掛かっているのか開かない。

『ウワアァァ!!!』

「!」
「今のは!」
 モクバを押し除けて杏子がドアを叩いて声を張り上げた。

「遊戯! そこにいるの!?」

***

 遊戯の足元の箱が開き、鍵とパズルカードが現れる。一方でパンドラには回転カッターが死の足音を立てて迫っていた。

「遊戯!」
「いたら返事して、遊戯!」

 ドアを叩く音と、杏子とモクバの声に遊戯が振り返る。千年パズルを介して表の人格の遊戯と入れ替わると、足枷を外して回転刃の迫るパンドラに飛びついた。


「うわ───!」
「ヒイィィ!!!」

 なんとかパンドラの足枷を外して、間一髪回転カッターから逃れた遊戯が、まだ震える体を必死に起こす。

「ゲームで命を捨てるなんて、絶対間違ってる!」

 そう叫んだところでもうパンドラの耳には届いていない。フラフラと立ち上がったパンドラを目で追う。だが振り返ったパンドラの額には、もう千年アイテムの紋章であるウジャド眼が輝いていた。

「『余計なマネを……』」
「!」

 パンドラのものではない声に遊戯が身構えた。この感覚、そう…… キースを操っていた闇の力が遊戯の脳裏に蘇る。
「人格が入れ替わってる…… お前はいったい」

「『そうか、“器の方”にはまだ名乗っていなかったね。僕の名はマリクだ』」
「マリク……?!」
「『フフ、僕は少し離れた場所から人間を操作できる。記憶を支配し、視覚と聴覚を感じ取る事だってできる。こうしてお前を見ることも、声を聞くこともだ。同じ方法でキースも操っていたのさ…… もう1人のお前の正体を確認するためにね』」
「なぜ僕たちの命を狙うんだ!」

「『チッ、お前には関係ないんだけどね。用があるのは、お前という器の中の魂。───復讐。三千年闇に生きた墓守の一族。その末裔の復讐さ!

  エジプト、ネクロポリス……そのさらに辺境の地。失われし王の秘密を守るために、外界との接触も、自由さえも奪われて、我ら墓守の一族は陰の存在として生きてきた。我々一族ははるか古代から王家の谷を、千年アイテムを守るという宿命のためだけに生かされ、そして─── みな宿命に準じて死んでいった。

  いつか復活するであろう王の魂に、記憶を渡す役目を負わされて』」



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