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 あの頃の私は、まだ“みょうじ なまえ”として勝利を手にしていた。

 …そしてある大会の決勝の会場にペガサスは現れたの。その決勝で優勝した私を、ペガサスはこのプライベートアイランド、今正に立っているこのデュエリスト・キングダムへ私を招待したわ。

「なまえがデッキに使っている、その魔導書を操る魔術師のカード達…、それは私が 多くても世界に3枚ずつしか作らなかったカード。
 それがユーの手元に自然と集まり 強大な力となったのは、この魔術師達が自らユーを選んだのデ〜ス!」

「私がこのカードを作ったのは、まさにユーを探すため。なまえ、ユーにはさらなる最強の僕として、このブラック・マジシャンのカードを差し上げマ〜ス。」

「but,このブラック・マジシャンは完全なものではありまセ〜ン。このカードはブラックマジシャンの肉体。もう一枚のブラックマジシャンのカードに宿る、彼の魂の器なのデ〜ス。」

 私はブラックマジシャンのカードに酷く惹かれたわ。片時も離れた事がない程にね。
 そしてブラックマジシャンも私から離れる事はなかった。まるで恋人が出来た気分だったわ。…いいえ、きっと本当に恋人だったのね。

 私は血眼になって、もう一枚のブラックマジシャンのカードを探し求めた。どんな小さな大会でも私は出たわ。

 でも、私はある日を境にペガサスの元から離れた。…それは海馬コーポレーションが、インダストリアル・イリュージョン社へソリッドビジョンシステムの技術提供をした時よ。

 私の知る、カードゲームを生み出し、自ら手掛けたモンスターを愛し、そして様々な遊びに好奇心を見せた、純粋なペガサスは、…変わってしまった。
 何かの野望を抱き、非道な事もするようになった。

 私はペガサスの前から姿を消したわ。
 でも、ブラックマジシャンのカードを諦める事は出来なかった。

 そして自分の素性である“ みょうじなまえ ”として大会に出られなくなった私は、あの仮面を被って名前を偽り、孤独なクイーンの道を選んだ。

 …でも、私はペガサスの野望を知ってしまった。
 このカードに納められたモンスターを、新しい心ある生命体として実際に触れ合い、心を通わせあうこと。

 …まぁ、ペガサスの本当の目的は、それに似ている別のことかもしれない。
 でも、私にとって目的はそれだけで充分だった。

 …私は、産まれてから殆どすぐに預けられて、両親はいつも海外にいる所為で、もう顔も知らないほど会ってないの。
 私にとって、本当に心の支えになって、慈しみ、育ててくれた 本当の家族は、このカードにある魔術師達だけなの。

 …今思えば、寂しかっただけよね


 私はペガサスにもう一度近付き、ペガサスの野望を利用する事にした。
 そしてペガサスが主催する大会にわざと出場して優勝し、あの仮面を脱いで再開した。

 そうして私はペガサスから、「プレイヤーキラー」という役目を受けてこの島にやって来た。

 …ただ、海馬コーポレーションを乗っ取り、その技術と開発者である海馬瀬人を手にするという企みを知ったのはその後だったわ。

 私はその時点で役目を降りるとペガサスへ告げたけど、…断れば 私の使うデッキ、この魔導書のシリーズのカードを、公式から禁止カードとして抹消すると脅されたわ。

 ペガサスを利用しようと再び近付いておいて、結局は利用される側になってしまった。

 このカード達を守る事が出来るのは私だけ。
 このデッキが失われるという事だけは、どうしても私には出来ない。
 私は、…正直、悩んだわ。

 応えが出せないまま 、それでも私はモクバ君を城から逃した。…でも、私の決断が遅かった所為で、事態は悪化してしまった。私は海馬を名乗るモノマネ師を倒した時、はっきりとペガサスに抵抗すると決めたけど、モクバ君は連れ戻された後だった。

 …おそらくモクバ君は、地下牢に居ると思う。あそこでは簡単に助け出せない…。
 それに、無事かどうかも。

 …私は最初、あなた達の敵側だった。
 今さら味方を名乗るつもりは無いわ。私は隣のクラスだったから出会ってまだ日も浅いし、遊戯達みたいに、仲良しグループでもないし。
 …

 ーーー

「これが私が隠していたことよ。今は敵でも、まして味方でもない。でも協力はするわ。信じてくれとは言わないけど。」
 海馬は鼻で笑う。
「なるほどな。女とは感情で動く物だと聞いてはいたが、貴様ほど感情に左右される女もそうそういまい。」

「…返す言葉もないわ。」

 なまえは俯いたまま、痛む腕をさらに握りしめる。だが遊戯や城之内が、なまえに歩み寄った。

「なまえは何も気にする事はないよ。君は君なりに、自分が心を通わせた魔術師達を大切にした結果なんだ。」

 遊戯はなまえの前に行って、海馬に立ち塞がった。そして城之内もそれに続く。

「海馬、これは誰でも出来ることじゃねぇ。本当にカードと心が通い合ってるなまえにしか出来ない事なんだ。 俺はやっとハッキリ分かったぜ。なまえは決して僕たちの仲間なんだって!」

「!…遊戯…、城之内。」
 なまえは驚いた顔で見ていた。

 海馬はまだ謂れの分からぬ己の感情に整理が付かぬまま、ただブラックマジシャンへの嫉妬と憎悪に機嫌を損ねるだけであった。

「(ブラックマジシャン…何故だ。タカがカードのモンスターを相手になぜここまで怒りを覚える…)フン…」

「海馬、テメェもデュエリストなら、カードに心を通わせるなまえの気持ちが解るはずだ! 俺も同じデュエリストとして、やっとなまえがなんで強いのかハッキリ理解したぜ。」

 海馬はそこでやっと城之内のグローブに目をやった。

「城之内、まさかお前までこの大会に参加してるって言うんじゃないだろうな。…お前までデュエリストとは、この島の大会もタカが知れてるな。」

「なに?!」

 海馬の物言いが城之内の気に障った。…いや、正確には、海馬はわざと城之内が突っかかってくるような言い方をしたのだ。

「フゥン…」

 海馬が鼻で笑うのが城之内へのトドメとなった。海馬からしたら、煽るのがこんなにも容易い相手は他に居ないと言わしめるレベルであろう。

 海馬はそのまま城の方へ足を進めた。

「なまえ、俺の中でのお前の処遇は まだ考えておいてやる。…だが俺は遊戯のように仲間だ何だと連むつもりはない。それだけは肝に命じておけ…。」

 なまえも流石に癪に障ったのか、鼻で笑って煽った。
「海馬が私をどう思おうと、私だって貴方と仲良くしようだなんて思わないわよ。」
 海馬もまた鼻で笑って返すと、そのまま去ろうとする。

「待てよ海馬!俺はもう以前のようなヘタレな俺じゃねぇ!!」
 城之内は海馬を呼び止め、遊戯も親友の名誉を守るため口添えする。
「本当だよ海馬くん!城之内くんは孔雀舞さんやダイナソー竜崎に勝ったんだ!」

 そこでやっと海馬は城之内に目を向けた。

「俺とデュエリストしろ海馬ァ!俺だってカードを信じるデュエリストとして、なまえを貶した事 後悔させてやるぜ! ペガサスとやりに行くなら、まず俺を倒してから行きやがれ!」

 なまえは遊戯に連れられて杏子や本田、獏良が固まって立っている方へ歩いてきた。
「…なんだか急に私の事情が安っぽく感じてきたわ…。」
 なまえがボヤくと、杏子も城之内になまえが少し可哀想だと言い出す。

 本田や杏子が窘めるのも関わらず、城之内は血管が切れるのではないかと言うほど感情を露わにして海馬に食いかかっていた。
 それに対し、海馬はついに城之内へ向き合った。

「面白い。そのまやかしのガラス細工の自信を粉々にしてやる!」


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