「う…」
 なまえが気付くと、遊戯が覗き込んでいた。
「あっ気がついた! 大丈夫?…どうしてこんな事を。」
 杏や城之内もなまえを覗き込み、後ろで海馬が腕を組んで立って見ている。
「…(ファラオ)…。」
 なまえはうっすらあけた瞳で遊戯を見ると、唇がかすかにそう動いたが、誰もわからなかった。
 なまえも自分が何を言ったかよくわからずにはっとすると起き上がり、手に持っていたブラック・マジシャンを見るとふぅとため息をついた。
「私の負けだわ、遊戯。なれない事はする物じゃないわね…。」
 足下の千年秤を手に取ると、ゆっくりと立ち上がる。
「あ、…」

 なまえは千年秤をいつものように腰のベルトに指すと、遊戯と海馬に向き合った。
「遊戯、…あなたのおじいさんが、ペガサスに囚われたのは知っているわ。」
「じーさんの居場所を知っているのか!!」
「居場所までは私も知らない。でも、ペガサスからデュエリスト・キングダムでの大会の事は聞いたはずよ。海馬瀬人、あなたの所にも、最近の海馬コーポレーションの株の買い占めという挑発が来てるはずだけど。」
「ふぅん。貴様もペガサスの仲間というわけか。」
「残念だけど違う。…これを。」
 遊戯達は顔を合わせてなまえに向き直る。
 封筒を遊戯に手渡す。開封すると、中に5枚のカードが入っていた。
「王国への招待状…!」
「一週間後、21時30分。童実野埠頭から船が出る。それに乗るためにはそのカードと、スターチップとグローブが必要よ。そしてその2枚のカード。」
 杏子達が遊戯の手元を覗き込む。
「えぇ!船で行くの?!」
「決戦は、どこかの島ってわけか。」
 城之内の言葉に軽く頷くと、無言で遊戯に他のカードを見るように促す。
「遊戯のおじいさんも、そこにいるの?」
 杏子が少しくいかかるようになまえへ問うと、遊戯の手が少し止まる。なまえはその遊戯の手から視線を外さなかった。
「…わからない。でも、ペガサスのミレニアム・アイの力によって魂を奪われたなら、ペガサスはおそらくその魂をカードに封印した筈。…行ってみる価値はあると思うわ。」
「なまえはどうして大会に出るの? もしかしてあなたもペガサスに、大切な人の魂を封印されたの?」
「…弱みを握られている事は認めるわ。それに私には別件で、…そうね、ブラック・マジシャンの事で、ペガサスに用があるだけよ。…ブラック・マジシャンの為なら私は何だって…ッ」
 突然、海馬がなまえの腕を掴み引き寄せる。海馬となまえの目が合うと、お互い、何かのビジョンが脳裏をよぎったが、なんなのか気付かずに、ただ顔を見合った。
「…ッ 俺は何を…」
 なまえの手を離すと、気まずそうに周りを見た。なまえも遊戯も、杏達も突然の海馬の行動に驚いていた。なまえは海馬に掴まれた腕をさすると、胸が高鳴り、何か苦しく感じた。

「…か、海馬の、…招待カードは預かってないわ、…私のこのデータカードに王国の場所が入ってる。あ、あなたなら自力でどうにか、できるでしょ…」

 なまえは少しどぎまぎしながら小さなデータカードを渡した。海馬が受け取る時に少し手が触れ合う。
「それは私がペガサスから奪った、今回のデュエリスト・キングダムについてのデータよ。海馬コーポレーションの社長なら、使い道があるんじゃないかしら。」
「…」
 海馬もなまえも、どこか居心地が悪そうに視線をかたくなに合わせなかった。その沈黙を破ったのは城之内だった。

「王の左手、王の右手の栄光…?」
「…王の右手の栄光、莫大なる賞金。優勝者には、インダストリアル・イリュージョン社から多額の賞金を受け取る事が出来るということよ。」
「莫大な賞金、か…?」
 城之内が反応するが、なまえは続ける。
「そして王の左手。…ペガサスへの挑戦カード。デュエリストならば誰しもが求める、王者への挑戦。」
 海馬の真剣なまなざしと視線がぶつかると、なまえは少し顔を赤くして、もう用はないからと去っていった。

 海馬は足早に屋上のドアから出て行くなまえの後ろ姿を目で追った。
 なぜか、彼女がブラック・マジシャンの話をした時に、心の底から不愉快に感じた。なまえの口からブラック・マジシャンの名前を聞きたくないーーーー俺が嫉妬したとでも言うのか…?

 遊戯は王の左手の、真っ白で絵柄の無いカードを見つめていた。
 城之内は莫大な金額の賞金を、海馬は胸の不可解な感情を思い、それぞれのデュエリストが、己の道のスタートラインを見出していた。


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