「フ…悪あがきもいいとこね。いいわ。デュエリストとして燃え尽きる前の最後のきらめきを見せてくれるなら…アナタに私の3ターンをあげる。」
 舞はまだ焦燥感をそこまで感じてはいなかった。それだけ、現状のフィールドは圧倒的に舞が有利なのだ。
 それでも遊戯はこの“光の護封剣”の引きに一つの希望を見出し、また一つの自信も湧いていた。

「舞!オレはどんな時でも戦いの火は消さないぜ!」
 鋭い目の奥に浮かぶのは、この状況を打破する…デッキに眠る最強のモンスターの存在。
「(ハーピィズ・ペット・ドラゴンは、場に出ているハーピィの数だけ攻撃力を増す強力モンスター…。アイツを倒さない限りオレの勝ちは無い。ならば狙いは一つ。この3ターンで伝説の最強戦士を降臨させるぜ!!!)」

「さぁ遊戯!アンタの場にモンスターが出てないわよ!!!」
 舞の声を皮切りに、遊戯は思考を引き戻して手札に手をやった。
「ああ!オレはこのカードを出してターン終了だ!!!」

 常に緊張感を抱く舞は、遊戯の出してくるモンスターに少しばかり身構えていた。しかしそんな彼女の前に現れたのは、“茶色い毛玉”の可愛らしいモンスターだった。

 “クリボー”(攻/300 守/200)

「え?!な、なにその…プリチーなモンスターは?」
 それもやる気満々で、短い手を「クリクリ」とパタつかせる姿を見せるクリボーに、つい鼻で笑ってしまう。
「弱っちそうなくせにハーピィちゃんのフェロモンに興奮して、いっちょまえに攻撃態勢とってるわ!アッハハハハ!!!」

 腹を抱えて笑って見せると、舞はまた鋭い目をして遊戯を見据えた。
「アタシを馬鹿にしてるの?!遊戯!」
 しかし遊戯は動じず、堂々とクリボーの背中を見ている。
「本気さ!舞。コイツはオレが数千というカードの中から選んでデッキに入れた、勝利への1ピースだ!」
「ハッ。そんな弱小カードをデッキに入れる神経、私には理解出来ないわ。」
 舞は顔にかかる髪を振り払うと、デッキからカードを引く。
「私のターンはカードを引いて終了。…遊戯、あと2ターンよ!」

 ***

「(オレの手札…このカードだけでは伝説の最強戦士を降臨させることはできない。決定的なカードが不足している。)」
 遊戯は意を決したようにデッキへ手を伸ばした。
「オレのターン!」
 しかしいざめくったカードは意中のものではなく、僅かな焦りが足元に手を伸ばし始めていた。その手を振り払うように、遊戯は手札から魔法カードを出した。
「ならばこのカード…死者蘇生!オレは“暗黒騎士ガイア”を復活させるぜ!!」

 “暗黒騎士ガイア”(攻/2300 守/2100)

 遊戯のデッキの中でも強力な部類に入るガイアですら、最強の布陣を引いた舞にはため息ひとつ出せれば十分なほどであった。3体のハーピィによってと強化された“ハーピィズ・ペット・ドラゴン”に及ぶモンスターが易々と出すことができない事を舞本人はよく理解し、またそこに傲慢さを見せていたのだ。
 その現れなのか、舞はドローフェイズのみやり過ごして、遊戯にターンを渡した。

 そして遊戯のターン、またしても意中のカードを引き当てることはできない。ドローした“砦を守る翼竜”のカードを手札に加えながら、今デッキに眠る最後のキーカードだけをその心に思い描いていた。


 その心に映ったカードを、ペガサスは千年眼越しに眺める。
「(なるほど…伝説の最強戦士を降臨させるつもりデスね。しかし彼を呼ぶにはあのカードがなくては不可能…。遊戯ボーイ、ユーにそのカードを引き当てることができマスか? あと1ターンで…)」

「遊戯…」
 端から見ても焦燥感が浮かぶ遊戯に、杏子が眉を顰めた。しかし城之内だけは頑として遊戯を信じている様子だ。
「大丈夫だ杏子。信じろ、遊戯の目はまだ勝負を捨てた目じゃねぇぜ。」
 なまえがそれを杏子越しに目だけ向けて見ていた。城之内とチラリと目が合いそうになり、平然を装って視線を遊戯に戻す。

 舞はターン消化のためだけにカードを引いた。しかしそのカードは舞にさらなる勝利の確信を持たせる。
「(やったわ!さらにもう一体ハーピィちゃんのカードを引いた!次のターンこのカードを出せば場のハーピィは全部で4体。そしてハーピィズ・ペット・ドラゴンの攻撃力は3200になる。光の護封剣の効力が消える次のターン、完璧な勝利をアナタに見せてあげるわ!!!)」
 舞は釣り上がりそうになる口端を堪えながら、そのカードを手札に入れた。一種の加虐趣味か…舞はあえてその引き当てたハーピィの召喚を見送ったのだ。

 遊戯にはもう、なんの手立てもないと見くびって。


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