時刻は零時を回ったところだった。規則正しく動く時計の針を見つめる紫苑は、背後から鳴ったドアの閉まる音に、無表情で振り向いた。ドアの前には額を押さえた仁王が居る。
「…死ぬかと思ったぜよ」
「これからもっと怖い思いすんねんで。見かけによらず豆腐メンタルやなアンタ」
「黙りんしゃい」
「しかも口調可愛えで」
「う、煩い!」
見た目は不良だが根は真面目らしく、漫画から出てきたような人間だった。
彼はつい先程親に紫苑を泊めることを請願してきたのである。許可を得たみたいだったが、どうやら彼の親はまだ納得していないようだ。彼を見ていれば分かる。
「明日が怖いのう」
「明日が来ればええな」
「何でお前はそうネガティブなことしか言わんのじゃ!」
「アンタからかい甲斐があんねんもん」
「俺は本当に怖いんじゃ!それ以上余計なこと言わんでくれ!」
そう言うと仁王は落ち着きなくベッドに座った。手持ち無沙汰なので彼はそのまま、紫苑の行動を観察する。
紫苑は塩の袋を切ったり、お酒らしきものが入った壺を置いている。それから彼女は紙に何かを書いた。
「一体何を持ってきたんじゃ?」堪らず、そう訊ねる。
「…これは神酒ゆう、神様に捧げるお酒や」
「ほーほー」
「アンタん家来る前、神社寄ったやろ?あれは保険みたいなモンでな、祈っただけやったら心配やん。やから神酒と塩持ってきてん。ホンマは聖水持ってきたかってんけどな」
「…ん?聖水ってキリスト教とかのモンじゃなか?」
「まあせやけどこのご時世一つのモンだけ括って習っとったら生きてかれへんやろ」
「そんなんでええんか陰陽師よ」
クリスマスを祝い、年を越して初詣に行くのと同じ感覚なのだ。
「…ま、よっぽどのことが無い限り大丈夫やろ。うちも小っちゃい頃から訓練しとったさかい」
「そっか…」
「やからその情けない顔なんとかしィ」
「…!」
自分で自分の表情に驚く仁王に、紫苑は不敵な笑みを浮かべた。心配する必要は無いと言うように。