「…ちえっ」
ケータイを操作する手は、実に緩慢である。それは彼の表情に非常に合っていた。
「何じゃ赤也、随分不機嫌そうじゃのう」
「仁王先輩っ!」
「悩み事かの?」
もう空も茜色から藍色に変わってきている時間帯、部室には切原赤也と仁王しか居なかった。いくつかのメンバーは既に帰路についていたり、まだテニスをしていたりと様々だ。一応部活動時間は終了している。それでも遅い時間の活動が許されているのは立海のテニス部が全国大会で優勝したことがあるからだろう。
「帰んないんすか?先輩」
「勿論帰るつもりじゃ。じゃが可愛い後輩が憂鬱そうにケータイを眺めておる姿がどうしても気になってのう」
ウソだぁ。と赤也は心中で呟く。どうせからかい半分で話しかけたに違いない。
「で、一体どうしたのじゃ?」仁王は赤也の気持ちなどお構いなしにズケズケと訊いた。本来なら何も言わずに去るのだが、彼を論破できるほど赤也の頭は賢くないので仕方なく話すことにした。
「…実は今付き合ってる女と別れたいんすよ」
「ほう?」
「別れを切り出すタイミングをなんとか計ってんすけど、女のほうが計ったように話題振ってくるんで中々言い出せてないんですよー」
「手強いのう」
「この間なんか俺に幽霊が憑いてるって言っておどかしてきたんすよー!?まったく何考えてんだか」
その瞬間、笑い飛ばす赤也とは対照的に仁王の目は細められた。
「…幽霊、か?」
「あーなんか霊感あるらしいんすよ。そいつが言うには」
「本当か?」
「分かんないっすよそんなの。…あ、でもあいつに言われてから何か変なコト起き始めたし……いやいやそんなわけねェよ」
「…念の為、視てもらったほうがええじゃろ」
「えー!?いいっすよそんなの!どうせ嘘で…」
「嘘かどうかは視てもらう奴が決めることじゃ。心配するな、俺に当てがある」