もう茜色の空は姿を消して、藍色が支配していた。腕時計を見ると長針が七を少し過ぎたところにいた。
「遅くなってしもたの」
「まったくや…誰かさんが面倒ゴト押し付けてきよったからな」
「うっ…」
紫苑の皮肉に仁王は黙る。前回は抹茶パフェで取引したが、今回紫苑は無償で働いてくれたのだ。頭が上がらない。
紫苑からのチクチクとした視線から逃れるように「そういえば」と仁王は話題を変えた。
「あの元カノ、赤也に任して平気なのか?」
「大丈夫やろ」
「何で?」
「…流石にこれで喧嘩にはならんわ。あんなことあったんやさかい、もう懲り懲りやろ」
それに冷静に話し合うんは必要やろ。そう呟いて紫苑は空を見上げる。先程の戦闘が嘘みたいな、綺麗な空だった。
「上手くいくとええのう、赤也」
「お互い納得できるようにな」
「…あ、そういやお前さん、授業中にメールしてきたアレ、結局何じゃったんじゃ?」
赤也の生年月日を問う、奇妙なメール。ずっと訊ねようと思っていたが心が休まぬ事態ばかりに、すっかり失念していた。
「あれは“先天八字”ゆうてな、まあ占いの一種や」
「ほーほー」
「割と有名やで。帰ったら検索してみ」
ほな、と紫苑は手を挙げて帰路につく。もう仁王と一緒に歩くのは嫌らしい。素直すぎる彼女に仁王は苦笑しながらも、おん、と手を挙げた。
「じゃあな土御門さん。また明日」
「…明日が来るとええなあ」
彼女の手首にある数珠が月光とぶつかって、キラリと光った。それは行く先を照らす道標のようだと、何故か仁王はそう思った。