対面
放課後、仁王は柳たちを連れてC組に向かっていた。足取りはかなり重い。
「どうした仁王、そんな顔をして」
「…誰の所為だと思っちょる」
「ふふ、さてな?」
C組まで行くと、どうやらホームルームは終了していたらしく生徒が鞄を持ってバラバラと教室を出ていた。と、その中によく知る人物が居た。
「あれ、皆。どうしたの」
「幸村か」
皆の集合に幸村はキョトンとした表情をしている。鞄を持っているところを見ると、今日はまっすぐ家に帰るようだ。
「土御門さんは居るか」
「土御門、さん?何で?」
柳の問いに幸村は不審そうな顔をした。どうも彼は紫苑にあまり良い感情を抱いてはいないように窺える。が、そういうことは想定済みなようで、柳は「大した用じゃない」と言った。
「ふうん、そう。…土御門さん居るかな」
少し不満そうな表情だったがそれ以上は訊かず、幸村は顔だけ教室に入れた。「あ、居た」小さく呟くと幸村は柳を手招きして、あそこ、と指差した。
確かに、居る。つまらなさそうにケータイをいじっている紫苑がそこに居た。
紫苑の姿を確認した柳は、躊躇も無く教室に入った。「ええ!?」と仁王の隣でジャッカルが戸惑いの声をあげる。声をあげたいのは仁王も同じである。
「君が土御門紫苑さんか?」
「? 何やねん、アンタ」
「三年の柳蓮二。テニス部だ」
「…ふーん」
「最近赤也や仁王が世話になっていると小耳に挟んでな。是非ともお礼がしたい」
「お礼?」
それまで眉をひそめて話を聞いていた紫苑は“お礼”という言葉に、ケータイを机に置いて柳を見つめた。
「どうい、」
「どういう意味だと、お前は言う」
「…は?」
「ただ単にお礼がしたいだけだ。あの二人の相手は疲れるだろう」
「…さいですかー」
「これから何か用事はあるか?」
「これといっては無いけど」
「なら来てほしい場所がある」
そう言うと柳は紫苑の鞄を持って踵を返した。まさか鞄を取られるとは思っていなかったらしく、紫苑は慌てて彼の後を追った。そして紫苑は教室から出て仁王たちの存在を初めて知り、顔を歪める。
「…何で居んねん」
「俺は知らん」
「土御門さんは甘いものは好きか?」
脚を止めずに柳は問う。鞄を人質に取られているということもあり、紫苑は素直に「好きやけど」と述べた。
「最近新しくオープンしたカフェのチョコレートパフェが美味しいと話題でな。どうだ興味は、」
「あるっ!!!」
「…そうか、ならそこに行こう」
「せやな!」
(切り替え早すぎぜよ…)紫苑の態度の急変に、仁王はただただ白い目を向けた。
*
「んまーい!」
「気に入ってもらえてなによりだ」
学校なら徒歩十分ほどの場所にある、アンティーク調の洒落たカフェ。そこで紫苑は噂のチョコレートパフェを頂いていた。どうやら柳の情報は確かなものだったらしく、紫苑はご満悦な表情でパフェを頬張っている。
「ところでさあ」
「何だ?」
「色黒くん、大変やな」
「えっ俺?」
すごく機嫌が良いようで紫苑は「肩、つらいんちゃう?」と自分から彼の肩に触れてきた。
「土御門さんはどうしてジャッカルの肩がつらいんだと解ったんだ?」
「そりゃあ…」
ここで紫苑の言葉が途切れる。しかしそは想定済みで、柳は口許に笑みを湛えた。
「土御門家は古い家系と聞く」
「!」
「なんでも安倍晴明と深く関わりのある家柄だそうだな」
「安倍晴明とは陰陽師のか?」
真田が訊ねると紫苑よりも先に柳が頷いた。
「…」
「そう睨むな。俺はジャッカルの肩を治してほしいだけだ」
「…仁王、アンタかこいつに話したん」
「お、俺は何も話してないきに。参謀がおまんのことを勝手に調べただけぜよ」
「データ収集ほど重要なことはない。それが俺のセオリーだ」
「プライバシーの侵害や」
「そうか?心配するな、無意味に漏洩するほど俺は馬鹿ではない」
はあ、と紫苑は溜息をつく。何がお礼だ、結局柳たちも自分にとっては迷惑なものに変わりはない――表情がそう語っている。
「色黒くんの肩に…」
「肩に?」
「女の子が憑いとる」
「…憑いてる?」
ジャッカルの顔色がサッと悪くなる。憑いてる…何が?…無論、それは幽霊だ。
「む、土御門さんは幽霊が視えるというのか」
「そうだ。彼女の家は安倍氏土御門の家系で安倍晴明の子孫であり、京都では今でも土御門家が陰陽師一家として有名だ」
「由緒正しい家柄なんだな」
「ま、そういうことだ」
真田は陰陽師のところに特に触れはしなかった。変な家、というよりも“しっかりした家”という印象を持っているらしい。不躾な質問などしてこなく、それはそれで紫苑も気が楽だろう。
「土御門さんはお祓いなどできるのか?」
「…まあ一応な」
「柳、初めから土御門さんにジャッカルの肩を治してもらうつもりで来たのか」
「そう睨むな、弦一郎。俺は部の為だと思ったんだ。それに土御門さんが食べたパフェはお礼代として奢るつもりだ…仁王が」
「俺!?」
「…まあそういうつもりなら」
「ちょ、待ってェや。うちの意見を取り入れるつもりは無いんか。拒否権は…」
「別に良いだろう、パフェを食べられたんだから」
ここぞとばかりに空っぽになった器を指差せば、彼女はぐっと押し黙った。しかし暫くすると「…駅前のクッキー屋さん、美味しいんよ」そっぽを向いて紫苑が呟く。
「分かった分かった。ならばそれも奢ろう、仁王が」
「じゃから何で俺!?」
「せやったら協力したるわ。えーっとジャッカルくんやったっけ?うちの前に座ってくれへん?」
「あ、ああ」
真田と席を変わって、紫苑の前に着席したジャッカル。その面持ちは緊張を彩っていた。
「どうした仁王、そんな顔をして」
「…誰の所為だと思っちょる」
「ふふ、さてな?」
C組まで行くと、どうやらホームルームは終了していたらしく生徒が鞄を持ってバラバラと教室を出ていた。と、その中によく知る人物が居た。
「あれ、皆。どうしたの」
「幸村か」
皆の集合に幸村はキョトンとした表情をしている。鞄を持っているところを見ると、今日はまっすぐ家に帰るようだ。
「土御門さんは居るか」
「土御門、さん?何で?」
柳の問いに幸村は不審そうな顔をした。どうも彼は紫苑にあまり良い感情を抱いてはいないように窺える。が、そういうことは想定済みなようで、柳は「大した用じゃない」と言った。
「ふうん、そう。…土御門さん居るかな」
少し不満そうな表情だったがそれ以上は訊かず、幸村は顔だけ教室に入れた。「あ、居た」小さく呟くと幸村は柳を手招きして、あそこ、と指差した。
確かに、居る。つまらなさそうにケータイをいじっている紫苑がそこに居た。
紫苑の姿を確認した柳は、躊躇も無く教室に入った。「ええ!?」と仁王の隣でジャッカルが戸惑いの声をあげる。声をあげたいのは仁王も同じである。
「君が土御門紫苑さんか?」
「? 何やねん、アンタ」
「三年の柳蓮二。テニス部だ」
「…ふーん」
「最近赤也や仁王が世話になっていると小耳に挟んでな。是非ともお礼がしたい」
「お礼?」
それまで眉をひそめて話を聞いていた紫苑は“お礼”という言葉に、ケータイを机に置いて柳を見つめた。
「どうい、」
「どういう意味だと、お前は言う」
「…は?」
「ただ単にお礼がしたいだけだ。あの二人の相手は疲れるだろう」
「…さいですかー」
「これから何か用事はあるか?」
「これといっては無いけど」
「なら来てほしい場所がある」
そう言うと柳は紫苑の鞄を持って踵を返した。まさか鞄を取られるとは思っていなかったらしく、紫苑は慌てて彼の後を追った。そして紫苑は教室から出て仁王たちの存在を初めて知り、顔を歪める。
「…何で居んねん」
「俺は知らん」
「土御門さんは甘いものは好きか?」
脚を止めずに柳は問う。鞄を人質に取られているということもあり、紫苑は素直に「好きやけど」と述べた。
「最近新しくオープンしたカフェのチョコレートパフェが美味しいと話題でな。どうだ興味は、」
「あるっ!!!」
「…そうか、ならそこに行こう」
「せやな!」
(切り替え早すぎぜよ…)紫苑の態度の急変に、仁王はただただ白い目を向けた。
*
「んまーい!」
「気に入ってもらえてなによりだ」
学校なら徒歩十分ほどの場所にある、アンティーク調の洒落たカフェ。そこで紫苑は噂のチョコレートパフェを頂いていた。どうやら柳の情報は確かなものだったらしく、紫苑はご満悦な表情でパフェを頬張っている。
「ところでさあ」
「何だ?」
「色黒くん、大変やな」
「えっ俺?」
すごく機嫌が良いようで紫苑は「肩、つらいんちゃう?」と自分から彼の肩に触れてきた。
「土御門さんはどうしてジャッカルの肩がつらいんだと解ったんだ?」
「そりゃあ…」
ここで紫苑の言葉が途切れる。しかしそは想定済みで、柳は口許に笑みを湛えた。
「土御門家は古い家系と聞く」
「!」
「なんでも安倍晴明と深く関わりのある家柄だそうだな」
「安倍晴明とは陰陽師のか?」
真田が訊ねると紫苑よりも先に柳が頷いた。
「…」
「そう睨むな。俺はジャッカルの肩を治してほしいだけだ」
「…仁王、アンタかこいつに話したん」
「お、俺は何も話してないきに。参謀がおまんのことを勝手に調べただけぜよ」
「データ収集ほど重要なことはない。それが俺のセオリーだ」
「プライバシーの侵害や」
「そうか?心配するな、無意味に漏洩するほど俺は馬鹿ではない」
はあ、と紫苑は溜息をつく。何がお礼だ、結局柳たちも自分にとっては迷惑なものに変わりはない――表情がそう語っている。
「色黒くんの肩に…」
「肩に?」
「女の子が憑いとる」
「…憑いてる?」
ジャッカルの顔色がサッと悪くなる。憑いてる…何が?…無論、それは幽霊だ。
「む、土御門さんは幽霊が視えるというのか」
「そうだ。彼女の家は安倍氏土御門の家系で安倍晴明の子孫であり、京都では今でも土御門家が陰陽師一家として有名だ」
「由緒正しい家柄なんだな」
「ま、そういうことだ」
真田は陰陽師のところに特に触れはしなかった。変な家、というよりも“しっかりした家”という印象を持っているらしい。不躾な質問などしてこなく、それはそれで紫苑も気が楽だろう。
「土御門さんはお祓いなどできるのか?」
「…まあ一応な」
「柳、初めから土御門さんにジャッカルの肩を治してもらうつもりで来たのか」
「そう睨むな、弦一郎。俺は部の為だと思ったんだ。それに土御門さんが食べたパフェはお礼代として奢るつもりだ…仁王が」
「俺!?」
「…まあそういうつもりなら」
「ちょ、待ってェや。うちの意見を取り入れるつもりは無いんか。拒否権は…」
「別に良いだろう、パフェを食べられたんだから」
ここぞとばかりに空っぽになった器を指差せば、彼女はぐっと押し黙った。しかし暫くすると「…駅前のクッキー屋さん、美味しいんよ」そっぽを向いて紫苑が呟く。
「分かった分かった。ならばそれも奢ろう、仁王が」
「じゃから何で俺!?」
「せやったら協力したるわ。えーっとジャッカルくんやったっけ?うちの前に座ってくれへん?」
「あ、ああ」
真田と席を変わって、紫苑の前に着席したジャッカル。その面持ちは緊張を彩っていた。