本当の原因
「…うーん」
「ど、どうだ?」
「この子、実際はアンタとあんま関係無いみたいやな」
「関係無い?」
「仁王ン時みたいになんや色々あったんかと思てんけど…」
「…ちょっと待て、仁王の時とはどういうことだ」
柳のストップと質問になんてことない顔で「こいつも憑かれててん」と答えた。すると柳は何か言いた気な顔をしたが彼を手で制してジャッカルに視線を戻した。
「んー、ジャッカルに憑いとう霊は浮遊霊に近いモンやと思う」
「浮遊霊って彷徨う霊のことだよな?」
「そそ。まあそんな危険なモンやないわ。強力な霊も稀におるけど」
そこまで言うと紫苑はスプーンでグラスの縁を叩いた。キーン、と甲高い音が響く。「行儀が悪いぞ」すかさず真田が注意するが、悪びれる素振りもなく淡々と言う。
「幽霊ってのはな、ガラスや陶磁器の触れ合う音とか、柏手の音とかを嫌うねん」
「……あ、そういや俺が抹茶パフェ奢った時も最後に鳴らしとったのう」
「せや。そういう音は霊を鎮める働きがあるんや。…どや、肩軽なったやろ」
紫苑の言葉にジャッカルはただただ驚いていた。確かに今の彼に、肩の重みは感じられなかったのだ。
「取り敢えずこれでどっか行ったけど、また酷なりだしたら言うて。まあ、仁王が傍に居るから異変にはすぐ気づくと思うけど」
「仁王?何で仁王?」
「…仁王、アンタさっきの子ォ、視えとったんやろ」
「っ!!」
図星らしく、少し俯く仁王。
「うちと接触したことによって感が強なりだしたんやな。アンタ、感受性高いんやろ」
「そうかのう…」
「ま、自覚してへんならそれでもええわ。せやけどええか?視えとうからって気安く霊と接触したらあかんで」
紫苑の忠告に仁王は黙って頷いた。
少し、気まずい雰囲気になる。
「あれっ、皆揃って何やってんだよぃ」
と、ここでポンと軽い声が響いた。
声のしたほうを見ると赤髪の少年が風船ガムを膨らませたこちらを見ている。「丸井か」と真田が呟く。どうやら少年はテニス部と面識があるらしい。
「お前のことだからどうせ甘いものでも食べに来たんだろう」
「当たり〜、柳は何でも分かるんだなぁ。…ん?そこの奴、誰?」
少年は紫苑を無遠慮にまじまじを見やる。紫苑はなんとなく、居心地の悪さを感じ取った。
「ああ、この人は土御門紫苑さん。幸村と同じクラスの人だ」
「ふーん。真田が女子のこと説明してるってなんか変な感じ」
「…それよりも丸井、お前また甘いものなど食べに来ているのか。たるんどるぞ」
「うげえッ」
「何だその顔は」
「ははは…あ、俺丸井ブン太。テニス部のレギュラーだ。シクヨロ〜」
「…どーも」
「……ん?」ここで紫苑は違和感を覚える。彼の後ろにある席に、何か嫌なものを感じる。
「丸井くーん、パフェ来ちゃったC〜。早く食べようよー」
「おー、悪い悪い」
柔らかい髪色の、眠そうな顔をした少年。その少年がスプーンをプラプラと弄びながらブン太を呼んでいた。
その少年の―――周りに嫌な靄がある。
「つ、土御門さん…」
「仁王も視えるか」
二人の会話は丸井の耳には入らなかったらしく、気に留めることも無く「んじゃな」と言って席に戻ってしまった。
ここで全てが繋がった。最近妙に立海テニス部の周りに霊騒ぎがある理由。それはテニス部の所為ではなく、まったく別の、違う人物。
「あの赤髪と一緒に居る奴…名前何ていうんや」
「? あれは氷帝学園テニス部の芥川慈郎だ」
いきなりどうした、と柳は訊ねる。言うのは気が引けたが、この際仕方ないと思い、紫苑は全てを語ることにした。
「ジャッカルも切原も仁王も、おそらくはあの芥川とかゆう奴が原因で霊に憑かれたんや」
「は!?」
「…詳しく説明してくれ」
柳はノートとペンを取って言う。紫苑は静かに頷いた。
「元々はあの芥川ゆう奴が憑かれて、ほんであの丸井とかゆう奴に移った……そういう霊的なモンってのは伝染すんねん。ジャッカルに憑いとった奴は元は丸井に憑いとったみたいやけど、アンタのほうがお人好しやったことが影響して、アンタに乗り移った…」
「ちょっと待ちんしゃい、ジャッカルに霊が憑いた理由は頷けるが、ただ単に傍に居た俺や赤也はどうなんじゃ、ちと無理があるんじゃないか?」
「要は“きっかけ”さえありゃエエねん。たまたまそういう空気に当てられとった時に、たまたま切原は彼女に別れ話を持ち掛けて…たまたまアンタは想われ続けとった女の子の気持ちを受け取ってしもた。いや、受け取りやすい状況に居ったゆうんが正しいかな」
「うーん…」
「…、集団の中で誰か一人がネガティブな発言したら、周りも嫌〜な暗い気分なるやん?それとおんなしや」
紫苑の説明に各々複雑な表情をしている。要するに偶然が重なって不幸が訪れてしまった、ということだろうか。「…それで、どうすれば元通りになるのだ」真田が腕を組んで訊ねる。
「こればっかは元を潰さんと何ともできひんわ。それか丸井が芥川と交流を絶つか」
「難しいな…」
あなたは霊に憑かれているので祓わせてください、などと言えるわけがない。かといって丸井に芥川と交流を絶てと言っても、絶対断られるに決まっている。
「…跡部に協力を頼むか」
「は!?」
「参謀、それはちと無理があるんじゃ…」
「大丈夫だ、ああ見えて跡部は単純だからな。霊も信じていそうだ」
「しかし蓮二、幸村に黙って跡部と接触するのはどうかと思うが」
「これは別にテニス関係で接触しようとしているんじゃない、だから大丈夫だ。あくまで“私用”だ」
紫苑はその跡部という人物と面識が無いので何とも言えないが、皆の話を聞く限り跡部と幸村は仲が悪く、あまり関わりたくない存在らしい。故に跡部と接触したことが幸村に露見すればただでは済まないようだ。(ホンマに大丈夫なんか?)少し、皆の安寧を危惧した紫苑なのであった。
「ど、どうだ?」
「この子、実際はアンタとあんま関係無いみたいやな」
「関係無い?」
「仁王ン時みたいになんや色々あったんかと思てんけど…」
「…ちょっと待て、仁王の時とはどういうことだ」
柳のストップと質問になんてことない顔で「こいつも憑かれててん」と答えた。すると柳は何か言いた気な顔をしたが彼を手で制してジャッカルに視線を戻した。
「んー、ジャッカルに憑いとう霊は浮遊霊に近いモンやと思う」
「浮遊霊って彷徨う霊のことだよな?」
「そそ。まあそんな危険なモンやないわ。強力な霊も稀におるけど」
そこまで言うと紫苑はスプーンでグラスの縁を叩いた。キーン、と甲高い音が響く。「行儀が悪いぞ」すかさず真田が注意するが、悪びれる素振りもなく淡々と言う。
「幽霊ってのはな、ガラスや陶磁器の触れ合う音とか、柏手の音とかを嫌うねん」
「……あ、そういや俺が抹茶パフェ奢った時も最後に鳴らしとったのう」
「せや。そういう音は霊を鎮める働きがあるんや。…どや、肩軽なったやろ」
紫苑の言葉にジャッカルはただただ驚いていた。確かに今の彼に、肩の重みは感じられなかったのだ。
「取り敢えずこれでどっか行ったけど、また酷なりだしたら言うて。まあ、仁王が傍に居るから異変にはすぐ気づくと思うけど」
「仁王?何で仁王?」
「…仁王、アンタさっきの子ォ、視えとったんやろ」
「っ!!」
図星らしく、少し俯く仁王。
「うちと接触したことによって感が強なりだしたんやな。アンタ、感受性高いんやろ」
「そうかのう…」
「ま、自覚してへんならそれでもええわ。せやけどええか?視えとうからって気安く霊と接触したらあかんで」
紫苑の忠告に仁王は黙って頷いた。
少し、気まずい雰囲気になる。
「あれっ、皆揃って何やってんだよぃ」
と、ここでポンと軽い声が響いた。
声のしたほうを見ると赤髪の少年が風船ガムを膨らませたこちらを見ている。「丸井か」と真田が呟く。どうやら少年はテニス部と面識があるらしい。
「お前のことだからどうせ甘いものでも食べに来たんだろう」
「当たり〜、柳は何でも分かるんだなぁ。…ん?そこの奴、誰?」
少年は紫苑を無遠慮にまじまじを見やる。紫苑はなんとなく、居心地の悪さを感じ取った。
「ああ、この人は土御門紫苑さん。幸村と同じクラスの人だ」
「ふーん。真田が女子のこと説明してるってなんか変な感じ」
「…それよりも丸井、お前また甘いものなど食べに来ているのか。たるんどるぞ」
「うげえッ」
「何だその顔は」
「ははは…あ、俺丸井ブン太。テニス部のレギュラーだ。シクヨロ〜」
「…どーも」
「……ん?」ここで紫苑は違和感を覚える。彼の後ろにある席に、何か嫌なものを感じる。
「丸井くーん、パフェ来ちゃったC〜。早く食べようよー」
「おー、悪い悪い」
柔らかい髪色の、眠そうな顔をした少年。その少年がスプーンをプラプラと弄びながらブン太を呼んでいた。
その少年の―――周りに嫌な靄がある。
「つ、土御門さん…」
「仁王も視えるか」
二人の会話は丸井の耳には入らなかったらしく、気に留めることも無く「んじゃな」と言って席に戻ってしまった。
ここで全てが繋がった。最近妙に立海テニス部の周りに霊騒ぎがある理由。それはテニス部の所為ではなく、まったく別の、違う人物。
「あの赤髪と一緒に居る奴…名前何ていうんや」
「? あれは氷帝学園テニス部の芥川慈郎だ」
いきなりどうした、と柳は訊ねる。言うのは気が引けたが、この際仕方ないと思い、紫苑は全てを語ることにした。
「ジャッカルも切原も仁王も、おそらくはあの芥川とかゆう奴が原因で霊に憑かれたんや」
「は!?」
「…詳しく説明してくれ」
柳はノートとペンを取って言う。紫苑は静かに頷いた。
「元々はあの芥川ゆう奴が憑かれて、ほんであの丸井とかゆう奴に移った……そういう霊的なモンってのは伝染すんねん。ジャッカルに憑いとった奴は元は丸井に憑いとったみたいやけど、アンタのほうがお人好しやったことが影響して、アンタに乗り移った…」
「ちょっと待ちんしゃい、ジャッカルに霊が憑いた理由は頷けるが、ただ単に傍に居た俺や赤也はどうなんじゃ、ちと無理があるんじゃないか?」
「要は“きっかけ”さえありゃエエねん。たまたまそういう空気に当てられとった時に、たまたま切原は彼女に別れ話を持ち掛けて…たまたまアンタは想われ続けとった女の子の気持ちを受け取ってしもた。いや、受け取りやすい状況に居ったゆうんが正しいかな」
「うーん…」
「…、集団の中で誰か一人がネガティブな発言したら、周りも嫌〜な暗い気分なるやん?それとおんなしや」
紫苑の説明に各々複雑な表情をしている。要するに偶然が重なって不幸が訪れてしまった、ということだろうか。「…それで、どうすれば元通りになるのだ」真田が腕を組んで訊ねる。
「こればっかは元を潰さんと何ともできひんわ。それか丸井が芥川と交流を絶つか」
「難しいな…」
あなたは霊に憑かれているので祓わせてください、などと言えるわけがない。かといって丸井に芥川と交流を絶てと言っても、絶対断られるに決まっている。
「…跡部に協力を頼むか」
「は!?」
「参謀、それはちと無理があるんじゃ…」
「大丈夫だ、ああ見えて跡部は単純だからな。霊も信じていそうだ」
「しかし蓮二、幸村に黙って跡部と接触するのはどうかと思うが」
「これは別にテニス関係で接触しようとしているんじゃない、だから大丈夫だ。あくまで“私用”だ」
紫苑はその跡部という人物と面識が無いので何とも言えないが、皆の話を聞く限り跡部と幸村は仲が悪く、あまり関わりたくない存在らしい。故に跡部と接触したことが幸村に露見すればただでは済まないようだ。(ホンマに大丈夫なんか?)少し、皆の安寧を危惧した紫苑なのであった。