反照する世界へ
テニス部員たちは立海の制服を見ると訝し気な視線を向けた。すると跡部が「見世物じゃねえぞ!ちゃんと練習しろ!」と一喝した。そんな姿に、なんだかんだで本当に部長なんだと紫苑は跡部を見直した。
「忍足、ジローはどこだ?」
一番近くに居た眼鏡の男に訊ねる。すると忍足と呼ばれた男は「さあ、見てへんわ」と言った。
「ん、そこのお嬢さん、誰なん?」
「例の陰陽師だ」
「ええ…ホンマに?俺もっとムサイ奴かと思てたわ。むっちゃかわええお嬢さんやん」
「何やコイツウザいな」
「おんなし関西人同士仲良うしよな」
「アンタさっきのうちのセリフ聞いてへんかったんか?ウザい言うてんねんていうかナチュラルに身体寄せんなやキモイねん!!」
「俺、忍足侑士ゆうねん。お嬢さんの名前は?」
「コイツスルースキル高すぎやろ!?」
彼・忍足はめげずに紫苑と接触を図る。またもや新たな人種に遭遇した紫苑は、ものすごく帰りたくなった。
「おい樺地、ジローを探して来い」
「ウス」
「忍足はいい加減土御門から離れろ」
「ええやんか別にィ…なー?紫苑ちゃ、いたたたた!!?」
「気安く名前呼ぶな!!」
強行手段を取ったおかげで忍足は渋々紫苑から離れた。
「土御門さんが押されとうトコって滅多に見られんぜよ」「良いデータが取れた」「紫苑先輩に抱き着くなんてー!!」などど騒いでいる立海のメンバーを一睨みし、紫苑は深い溜息をつく。ここには馬鹿しか居ないのだろうか。と、思ったところでここで不意に視線を感じる。何かと思い視線を辿ってみるとキノコヘアーが目についた。どうやら彼もテニス部部員らしく、ラケットを脇に挟んでタオルで額の汗を拭いていた。しかし何を思ったのか彼は紫苑と視線が交わるとツカツカと紫苑に向かって歩を進めた。
「…あの」
「…?」
「もしかして土御門さんですか」
期待と不安が入り混じった瞳。前髪がかかって見にくいが、その色はしっかりと捉えることができた。
「せやけど…」
「本当ですか!?」
「!!?」
認めた途端、その部員はガシィ!と紫苑の両手を握った。
「俺、日吉若っていいます」
「は、はあ…」
「土御門家には前々から興味があって…あ、あの…色々お話を聞かせていただきませんか?」
「え、えぇー」
キラキラした瞳で、日吉は紫苑を見つめる。どこか赤也と似ているソレに紫苑はたじたじである。
一方、紫苑たちのやり取りを静観していた柳は、不意に跡部に視線をやった。
「芥川はまだか」
「…まだ樺地から連絡が無い」
「そうか」
不安を煽られる。テレビでしか見たことは無いが最悪の場合が頭をよぎった。だがその手の者である紫苑が別段反応が無いということは、今のところ芥川の身に危険なことは起こっていないということなのだろうか。何も感じない柳や跡部は、まったく想像できなかった。
「…あ」
「? どうしました?」
「や、ちょっと」
ここで不意に紫苑が、キョロキョロと辺りを見渡す。突然の行動に傍に居た日吉は首を捻った。
「紫苑先輩?」
「…、」
「ちょ、どこ行くんすか!?」
「土御門さん…?」
何を思ったのか突然走り出した紫苑。慌てて後を追う赤也と仁王の背中を見ていた、柳と跡部は顔を合わせた。彼女が何かを感じ取ったのは明白だ。「追うか?」「…そうだな」短く言葉を重ね、二人は歩き出す。
「お前らは練習を続けろ」
「なんやねん、跡部だけ紫苑ちゃんの凄技見んの?ずるいわ」
「俺も見たいです」
「馬鹿か。遊びじゃねえんだぞ」
しっしっ、と跡部は手を振って忍足と日吉を追い払う。それから二人を一瞥もせずに彼女の後を追った。何も起こらなければ良いのだが。そう思いながら、跡部は無意識に脚を速めた。
一方紫苑は一人である場所に向かって走っていた。彼女は仁王と赤也が自分の後を追っていることに全く気付いていないので、失速するどころか加速して走り続けている。
「っ芥川!!」
やっと目的の場所に辿り着いた。予想通り、芥川は誰も居ない場所で、一人で―――鏡に話しかけていた。
「…ん…君、誰?」
特に警戒する様子もないところを見ると、彼はまだ乗っ取られていないようだ。内心安心して紫苑は芥川に近づく。
「部長がアンタのこと探しとったで」
「えー?何でー?」
「サボっとうからちゃう?」
「別にサボってないC−!お話してただけだC−!」
お話?と紫苑は首を傾げる。すると芥川はそれに気づいて、自らが持つ鏡を指差した。彼が話していたのは鏡に映る女の子らしい。それには鏡の住人が居て、いつもひとりぼっちで寂しい思いをしているから、たまに芥川が話に付き合ってあげているようだった。紫苑は心中で密かに笑みを浮かべる。ここまで読み通りだと、逆に笑えてくるのだ。
「なあ、それ貸してくれへん?」あくまで自然に訊く。訝し気に自分を見てくる芥川に、自分もその子と話してみたいと当たり障りない言葉を述べて、半ば奪うように鏡を手に取った。“―――おんなのこだぁ”瞬間、まとわりつくような気味悪い声が響いた。紫苑は反射的に札を取り出す。
「な、何それ…?」
「アンタは早よ跡部ンとこ行き」
「でも、」
「早よ行けッ!!」
ただならぬ雰囲気に芥川は身体を震わせ、理由も訊かずに走って行った。妥当な判断だと紫苑は思う。ここで無駄に駄々を捏ねられては除霊が叶わない。
芥川が立ち去ったことを確認してから、紫苑は取り敢えず鞄の中から水筒を取り出して中身を鏡にかけた。勿論ただの水ではなく、神酒である。気安め程度にしかならないが何もしないよりマシだ。
“いたいよう、いたいよう”
鏡からは依然、子供の声が響く。
「土御門さん!!」
子供の声に混じるように、仁王の声が聞こえた。振り向くと彼は急ぎ足でこちらに近づいて来ている様子が窺えた。
「あかん来るな!」
「!?」
「アンタにこれは危険すぎる」
仁王は彼女が持っている鏡に視線を移す。途端、ゾクッと背中に悪寒が走った。
間違いない、人成らざるモノの気配だろう。
紫苑は硬直している仁王を一瞥し、札を鏡に近づける。このままにしておくと彼に悪影響を及ぼしかねない。
その考えが及んだ瞬間、脊髄を何かが這い回るような感覚に襲われた。「…っ!」思わず、片膝をつく。彼女の異変に気づいた仁王は、慌てて駆け寄る。刹那、紫苑は持っていた鏡から何の違和感も感じなくなってしまった。一体どういうことなのか?
「土御門さん!どうしたんじゃ!?」
「いや…何でもない」
「何でもないわけないじゃろう!」
拙い、と本能的に察する。先程から“何か”がグルグルと廻っている。
「仁王、逃げ―――」
ズルンッ!!突如足が引っ張られた。下を見ると、水溜まりから手が伸びていた。おそらく今までの違和感は全てこいつの仕業だ。
口を開く余裕も無く暗闇に呑み込まれる。仁王の背後に、いつの間に来ていたのか赤也が居た気がした。
「忍足、ジローはどこだ?」
一番近くに居た眼鏡の男に訊ねる。すると忍足と呼ばれた男は「さあ、見てへんわ」と言った。
「ん、そこのお嬢さん、誰なん?」
「例の陰陽師だ」
「ええ…ホンマに?俺もっとムサイ奴かと思てたわ。むっちゃかわええお嬢さんやん」
「何やコイツウザいな」
「おんなし関西人同士仲良うしよな」
「アンタさっきのうちのセリフ聞いてへんかったんか?ウザい言うてんねんていうかナチュラルに身体寄せんなやキモイねん!!」
「俺、忍足侑士ゆうねん。お嬢さんの名前は?」
「コイツスルースキル高すぎやろ!?」
彼・忍足はめげずに紫苑と接触を図る。またもや新たな人種に遭遇した紫苑は、ものすごく帰りたくなった。
「おい樺地、ジローを探して来い」
「ウス」
「忍足はいい加減土御門から離れろ」
「ええやんか別にィ…なー?紫苑ちゃ、いたたたた!!?」
「気安く名前呼ぶな!!」
強行手段を取ったおかげで忍足は渋々紫苑から離れた。
「土御門さんが押されとうトコって滅多に見られんぜよ」「良いデータが取れた」「紫苑先輩に抱き着くなんてー!!」などど騒いでいる立海のメンバーを一睨みし、紫苑は深い溜息をつく。ここには馬鹿しか居ないのだろうか。と、思ったところでここで不意に視線を感じる。何かと思い視線を辿ってみるとキノコヘアーが目についた。どうやら彼もテニス部部員らしく、ラケットを脇に挟んでタオルで額の汗を拭いていた。しかし何を思ったのか彼は紫苑と視線が交わるとツカツカと紫苑に向かって歩を進めた。
「…あの」
「…?」
「もしかして土御門さんですか」
期待と不安が入り混じった瞳。前髪がかかって見にくいが、その色はしっかりと捉えることができた。
「せやけど…」
「本当ですか!?」
「!!?」
認めた途端、その部員はガシィ!と紫苑の両手を握った。
「俺、日吉若っていいます」
「は、はあ…」
「土御門家には前々から興味があって…あ、あの…色々お話を聞かせていただきませんか?」
「え、えぇー」
キラキラした瞳で、日吉は紫苑を見つめる。どこか赤也と似ているソレに紫苑はたじたじである。
一方、紫苑たちのやり取りを静観していた柳は、不意に跡部に視線をやった。
「芥川はまだか」
「…まだ樺地から連絡が無い」
「そうか」
不安を煽られる。テレビでしか見たことは無いが最悪の場合が頭をよぎった。だがその手の者である紫苑が別段反応が無いということは、今のところ芥川の身に危険なことは起こっていないということなのだろうか。何も感じない柳や跡部は、まったく想像できなかった。
「…あ」
「? どうしました?」
「や、ちょっと」
ここで不意に紫苑が、キョロキョロと辺りを見渡す。突然の行動に傍に居た日吉は首を捻った。
「紫苑先輩?」
「…、」
「ちょ、どこ行くんすか!?」
「土御門さん…?」
何を思ったのか突然走り出した紫苑。慌てて後を追う赤也と仁王の背中を見ていた、柳と跡部は顔を合わせた。彼女が何かを感じ取ったのは明白だ。「追うか?」「…そうだな」短く言葉を重ね、二人は歩き出す。
「お前らは練習を続けろ」
「なんやねん、跡部だけ紫苑ちゃんの凄技見んの?ずるいわ」
「俺も見たいです」
「馬鹿か。遊びじゃねえんだぞ」
しっしっ、と跡部は手を振って忍足と日吉を追い払う。それから二人を一瞥もせずに彼女の後を追った。何も起こらなければ良いのだが。そう思いながら、跡部は無意識に脚を速めた。
一方紫苑は一人である場所に向かって走っていた。彼女は仁王と赤也が自分の後を追っていることに全く気付いていないので、失速するどころか加速して走り続けている。
「っ芥川!!」
やっと目的の場所に辿り着いた。予想通り、芥川は誰も居ない場所で、一人で―――鏡に話しかけていた。
「…ん…君、誰?」
特に警戒する様子もないところを見ると、彼はまだ乗っ取られていないようだ。内心安心して紫苑は芥川に近づく。
「部長がアンタのこと探しとったで」
「えー?何でー?」
「サボっとうからちゃう?」
「別にサボってないC−!お話してただけだC−!」
お話?と紫苑は首を傾げる。すると芥川はそれに気づいて、自らが持つ鏡を指差した。彼が話していたのは鏡に映る女の子らしい。それには鏡の住人が居て、いつもひとりぼっちで寂しい思いをしているから、たまに芥川が話に付き合ってあげているようだった。紫苑は心中で密かに笑みを浮かべる。ここまで読み通りだと、逆に笑えてくるのだ。
「なあ、それ貸してくれへん?」あくまで自然に訊く。訝し気に自分を見てくる芥川に、自分もその子と話してみたいと当たり障りない言葉を述べて、半ば奪うように鏡を手に取った。“―――おんなのこだぁ”瞬間、まとわりつくような気味悪い声が響いた。紫苑は反射的に札を取り出す。
「な、何それ…?」
「アンタは早よ跡部ンとこ行き」
「でも、」
「早よ行けッ!!」
ただならぬ雰囲気に芥川は身体を震わせ、理由も訊かずに走って行った。妥当な判断だと紫苑は思う。ここで無駄に駄々を捏ねられては除霊が叶わない。
芥川が立ち去ったことを確認してから、紫苑は取り敢えず鞄の中から水筒を取り出して中身を鏡にかけた。勿論ただの水ではなく、神酒である。気安め程度にしかならないが何もしないよりマシだ。
“いたいよう、いたいよう”
鏡からは依然、子供の声が響く。
「土御門さん!!」
子供の声に混じるように、仁王の声が聞こえた。振り向くと彼は急ぎ足でこちらに近づいて来ている様子が窺えた。
「あかん来るな!」
「!?」
「アンタにこれは危険すぎる」
仁王は彼女が持っている鏡に視線を移す。途端、ゾクッと背中に悪寒が走った。
間違いない、人成らざるモノの気配だろう。
紫苑は硬直している仁王を一瞥し、札を鏡に近づける。このままにしておくと彼に悪影響を及ぼしかねない。
その考えが及んだ瞬間、脊髄を何かが這い回るような感覚に襲われた。「…っ!」思わず、片膝をつく。彼女の異変に気づいた仁王は、慌てて駆け寄る。刹那、紫苑は持っていた鏡から何の違和感も感じなくなってしまった。一体どういうことなのか?
「土御門さん!どうしたんじゃ!?」
「いや…何でもない」
「何でもないわけないじゃろう!」
拙い、と本能的に察する。先程から“何か”がグルグルと廻っている。
「仁王、逃げ―――」
ズルンッ!!突如足が引っ張られた。下を見ると、水溜まりから手が伸びていた。おそらく今までの違和感は全てこいつの仕業だ。
口を開く余裕も無く暗闇に呑み込まれる。仁王の背後に、いつの間に来ていたのか赤也が居た気がした。